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【連載シリーズ】全国47都道府県の伝統的工芸品を巡る《その9》

全国各地で古くから受け継がれる伝統的工芸品(※)235品目を、都道府県ごとにご紹介する連載シリーズ。今回の《その9》では、近畿地方1府3県(奈良県・和歌山県・大阪府・兵庫県)に伝わる伝統的工芸品にフォーカスします。

※伝統的工芸品……伝統文化の継承・産業振興を図る「伝産法(伝統的工芸品産業の振興に関する法律)」に基づいて、経済産業省が指定する235品目(2019年11月20日現在の指定数)の工芸品のこと。指定要件などの詳細は、下記のバックナンバー《その1》を参照。

【連載シリーズ・バックナンバー】

全国47都道府県の伝統工芸品を巡る《その1》

全国47都道府県の伝統工芸品を巡る《その2》

全国47都道府県の伝統工芸品を巡る《その3》

全国47都道府県の伝統工芸品を巡る《その4》

全国47都道府県の伝統工芸品を巡る《その5》

全国47都道府県の伝統工芸品を巡る《その6》

全国47都道府県の伝統工芸品を巡る《その7》

全国47都道府県の伝統工芸品を巡る《その8》

奈良県に伝わる伝統的工芸品

【高山茶筌/竹工品】1975(昭和50)年指定

奈良県生駒市で主に生産される高山茶筌(たかやまちゃせん)は、抹茶を点てる際に使われる竹製の茶道具(茶せん)です。室町時代中期、茶道の創始者である村田珠光の依頼を受け、高山領主の子息が竹の茶せんを製作したのが始まりとされています。その種類は、薄茶用・濃茶用・献茶用・野点(のだて)用などの用途や、茶道の流派によって100品目以上におよび、現在もすべて職人の手作業によって一点ずつ仕上げられています。

竹材の繊細な美しさが映える茶せん

【奈良筆/文具】1977(昭和52)年指定

奈良県大和郡山市で主に生産される奈良筆(ならふで)の歴史は、今から1200年ほど前、空海が唐に渡った際に筆作りの技術を極め、その技法を大和国の住人に伝えたことが始まりとされています。筆の使用目的や使う人の好みに応じて、十数種類の動物(ヒツジ・ウマ・シカ・タヌキ・イタチ・テン・ウサギ・リスなど)の毛を組み合わせて作られる奈良筆は、筆先まで意のままに扱える絶妙な書き味の高級筆として、プロの書道家からも高い評価を得ています。

【奈良墨/文具】2018(平成30)年指定

奈良県奈良市で生産される奈良墨(ならすみ)の製法は、上記の奈良筆と同様、唐に渡った空海によって伝わったとされています。もともと奈良には多くの社寺があることから、写経や学問に必要な墨の需要が高く、とくに奈良興福寺二諦坊の燈明の煤を集めて作った油煙墨が、良質な奈良墨として知られるようになりました、その後、奈良墨の老舗「古梅園」(1577年創業)の始祖・松井道珍が、奈良墨の名を全国的に広め、明治時代以降は学校教育に書道が普及したことで生産量が拡大。以来、奈良市は全国シェアの約90%を占める墨の一大産地として、その伝統技術を今に伝えています。

和歌山県に伝わる伝統的工芸品

【紀州漆器/漆器】1978(昭和53)年指定

紀州漆器(きしゅうしっき)を生産する和歌山県の和歌山市・海南市黒江・海草郡紀美野町は、福島県(会津漆器)・石川県(輪島塗・山中漆器)と並ぶ、漆器の三大産地として知られています。室町~戦国時代に作られていた紀州ヒノキの木地椀に、漆(渋下地)を施したのが始まりとされ、当初は主産地の地域名から「黒江(くろえ)塗」と呼ばれていました。江戸時代に入ると、黒江周辺の地場産業として漆工がますます盛んになり、渋地椀の一大産地として全国に販路を拡大。低価格ながらも丈夫なことから、日常使いの漆器として庶民にも愛用され、現在に至っています。

【紀州箪笥/木工品】1987(昭和62)年指定

和歌山県和歌山市で主に生産される紀州箪笥(きしゅうたんす)は、江戸時代中期ごろに生産が始まったとされています。木肌の美しい良質な桐材を使用し、熟練職人の手作業で精巧に組み上げる紀州箪笥は、気密性が極めて高く、引き出しの出し入れも非常にスムーズ。長年愛用できる高級箪笥としてはもちろん、婚礼用の格式ある花嫁箪笥としても、古くから人気を博しています。

【紀州へら竿/木工品】2013(平成25)年指定

和歌山県の橋本市・伊都郡九度山町で生産される紀州へら竿(きしゅうへらざお)は、熟練した竿師(竿職人)が手作業で作るへら鮒用の釣り竿です。その製造技法は、明治10年代に大阪市で確立しましたが、その後、原材料である高野竹(スズ竹)の産地に近い同地域の地場産業として定着。昭和初期からのへら鮒釣りブームも追い風となり、現在も国内最大のへら竿産地となっています。

大阪府に伝わる伝統的工芸品

【大阪欄間/木工品】1975(昭和50)年指定

大阪府大阪市の周辺地域で生産される大阪欄間(おおさからんま)は、寺社や日本家屋の欄間・衝立などに用いられる彫刻品です。その起源は奈良時代とされ、大阪府内の聖神社や四天王寺などの建築物にも、伝統技法によって施した意匠が見られます。江戸時代に入ると、商家を中心とした一般住宅にも欄間が広まり、茶の間や客間などの鴨居(かもい)の上に、品格を表す室内装飾として取り付けられるようになりました。桐や桐、ヒノキの美しさを生かした大阪欄間は、「彫刻欄間」「透彫(すかしぼり)欄間」「筬(おさ)欄間」「組子(くみこ)欄間」などの種類があり、単なる装飾の目的だけでなく、室内に外光を採り入れ、風通しを良くするという実用的な機能も備えています。

松と鳥の彫刻を施した格調高い欄間

【大阪唐木指物/木工品】1977(昭和52)年指定

大阪府大阪市の周辺地域で生産される大阪唐木指物(おおさかからきさしもの)は、紫檀(したん)・黒檀(こくたん)・花梨(かりん)などの木材を、鉄釘などを使わずに組み上げた木工品です。奈良時代に遣唐使が持ち帰った木工品がルーツとされ、唐(中国)の珍しい木が使われていたため、唐木と呼んだことが唐木指物のいわれです。江戸時代に入ると、唐木材はすべて長崎に運び込まれ、大阪の薬種問屋がこれを引き受けたことで、唐木指物の産地が形成されました。以来、大阪唐木指物はしゃれた意匠の家具・調度品として人気を博し、現在も伝統的な技法を駆使して、現代生活にマッチした飾り棚や座卓、花台などの製品が生み出されています。

【堺打刃物/金工品】1982(昭和57)年指定

大阪府の大阪市・堺市で主に生産される堺打刃物(さかいうちはもの)は、5世紀ごろの鍛鉄技術がルーツとされています。この地域では平安時代に刀の製造が始まり、種子島に鉄砲が伝来(1543年)した際にもいち早く生産に着手するなど、日本の金属加工先進地としての役割を担ってきました。江戸時代に入ると、たばこの葉を刻む「たばこ包丁」が堺で作られるようになり、幕府が「堺極印」という品質証明の印を与えて専売を許可したため、堺刃物の名声は全国各地に知れ渡りました。また、江戸時代中期ごろには出刃包丁の生産も開始し、その鋭い切れ味と品質の高さが料理人の間で評判に。以来、さまざまな調理用途に応じた和包丁が開発・生産され、現在もプロ用和包丁の国内シェア90%以上を堺刃物が占めています。

【大阪仏壇/仏壇・仏具】1982(昭和57)年指定

大阪府大阪市の周辺地域で生産される大阪仏壇(おおさかぶつだん)の歴史は古く、聖徳太子が四天王寺を建立する際、宮大工や左官などの技術者を大阪に集めたことから、仏壇・仏具の産地が形成されたといわれています。その後、仏教の広まりとともに、大阪独自の漆塗・箔置・高蒔絵などの技法が確立され、宗派によってそれぞれ異なる型の仏壇が作られるようになりました。その伝統的な技法と意匠は現在も受け継がれ、木地・宮殿(くうでん)・須弥檀(しゅみだん)・飾り金具などに、各宗派の違いを反映させた仏壇が生産されています。

【大阪浪華錫器/金工品】1983(昭和58)年指定

大阪浪華錫器(おおさかなにわすずき)とは、大阪府の大阪市・松原市・羽曳野市・東大阪市で主に生産される錫製品のことです。日本における錫器は、約1300年前に遣隋使によって伝えられ、京都が最古の生産地とされています。その後、江戸時代初期に大阪の心斎橋を中心に産地が形成され、神具・仏具・酒器・菓子器・茶筒などの錫器が生産されるようになりました。錫は軟らかく機械加工しにくいため、強度を高める銀や銅を混ぜて合金にし、手作業で一点ずつ仕上げられます。製造工程は鋳造と研磨に大きく分けられ、キメの粗い鋳造物をロクロに取り付け、専用のカンナで滑らかに形を整えたのち、丹念に磨き上げて艶を出し完成となります。現在、大阪の錫器は全国シェアの約70%を占めており、近年はモダンなデザインのタンブラーやワインクーラー、花瓶などの製品も人気となっています。

【大阪泉州桐箪笥/金工品】1989(昭和64)年指定

大阪府の大阪市・堺市・岸和田市・和泉市・東大阪市・泉北郡忠岡町で生産される大阪泉州桐箪笥(おおさかせんしゅうきりたんす)は、江戸時代中期に生産が始まり、幕末~明治時代にかけて一大産地が形成されました。桐材は20ミリ以上の厚い無垢板を使用し、桐の柾目(まさめ)を揃えてつなぐ「矧(は)ぎ加工」を施しているため、重厚感があって見栄えがします。また、金釘は一切使わず、木釘と各種の「組み接ぎ(くみつぎ)技法」による組立から、磨き・塗装・絵付けにいたるまで、熟練職人の卓越した手技によって仕上げられています。こうして、上質な素材に高度な技法を凝らして作られる大阪泉州桐箪笥は、古くから一生物の高級箪笥として名高く、“桐箪笥の最高峰”とも称されています。

【大阪金剛簾/竹工品】1996(平成8)年指定

大阪府の大阪市・富田林市・河内長野市で主に生産される大阪金剛簾(おおさかこんごうすだれ)は、天然の真竹を使った格調高い座敷すだれです。平安時代、宮中の間仕切りや装飾に使われた御簾(みす)が、現在の座敷すだれの原型といわれています。その後、江戸時代中期に竹細工の技法が地域に伝わり、金剛山の麓に自生する真竹を使ったすだれ作りが地場産業として定着。明治時代に入ると製作道具や技法などが改良され、現在につながる産地が形成されました。

典雅な趣の座敷すだれ

【浪華本染め/染色品】2019(平成31)年指定

大阪府の堺市・柏原市で主に生産される浪華本染め(なにわほんぞめ)は、地場産業の模様手拭(もようてぬぐい)を量産化するため、明治時代に大阪で開発された日本固有の染色法です。一般的には注染(ちゅうせん)と呼ばれ、色ごとに防染糊を置いて表裏両面から染めるため、糸の芯まで染料が行き渡り、風合いのある鮮やかな染め上がりとなるのです。この染色法を応用した浴衣が評判となり、大阪から全国各地に広まりました。もともと江戸時代から手拭いの産地だった大阪では、多色染めの「差し分け」や「ぼかし」といった和の風合いを醸し出す染色法が考案され、独自の技法として磨き上げてきました。その伝統が浪華本染めとして現代にまで受け継がれ、近年は定番の手拭いや浴衣に加え、アロハシャツやストール、日傘などのファッション製品にも用途が広がっています。

兵庫県に伝わる伝統的工芸品

【播州そろばん/文具】1976(昭和51)年指定

兵庫県の小野市・加西市・三木市・加古川市・加東市で生産される播州そろばん(ばんしゅうそろばん)は、国内シェアの約70%を占める高品質なそろばん(算盤)です。そろばんは室町時代の末期、中国から長崎を経由して滋賀の大津地方に伝わり、大津そろばんの産地が形成されました。その後、安土桃山時代に豊臣秀吉が兵庫の三木城を攻略した際、大津地方に逃れた三木の住民が大津そろばんの製造法を習得し、帰郷後に製造を始めたことが播州そろばんの起源とされています。播州そろばんの珠や枠には、良質なカバやツゲ、コクタンなどの木が使われ、「うろこ細」と呼ばれる繊細な伝統技法によって手作業で組み立てられます。スムーズな珠はじきや使い勝手の良さはもちろん、滑らかに磨き上げられた木の風合いが醸す上質感は、まさに機能美を備えた工芸品といってもいいでしょう。

【丹波立杭焼/陶磁器】1978(昭和53)年指定

兵庫県の丹波篠山市・三田市・加西市で主に生産される丹波立杭焼(たんばたちくいやき/略して丹波焼とも呼ばれる)は、900年以上の歴史をもつ日本六古窯(丹波・信楽・備前・越前・瀬戸・常滑)のひとつで、その始まりは平安時代末期といわれています。桃山時代までは原始的な「穴窯」が使用されていましたが、その後、現在使われている「登り窯」や、丹波独自の「蹴(け)ロクロ(日本では珍しい左回転のロクロ)」が導入され、その伝統技術が今日まで受け継がれています。当初は壷やカメなどの日用陶器が主製品でしたが、江戸時代に入ると茶人・小堀遠州らの指導により、茶器類において多くの銘品が生み出されました。さらに、江戸時代後期には篠山藩の保護のもと、直作(なおさく)・一房(いちふさ)などの名工を数多く輩出し、丹波立杭焼の名を全国的に広めました。

【出石焼/陶磁器】1980(昭和55)年指定

兵庫県豊岡市で生産される出石焼(いずしやき)は、国内でも非常に珍しい純白の磁器(白磁)です。江戸時代中期、地元で大量の白磁の鉱脈が発見されたことから、藩主の援助を受けて佐賀・伊万里焼の陶工を招き、出石の城下町で白磁を生産したのが始まりとされています。その後、地域で白磁を焼く窯元や陶工の数が増え、現在にいたる産地が形成されました。透き通るような白さをもつ出石焼の肌は、「白すぎる白」とも評されます。その絹のように滑らかな純白の磁肌に、浮き彫りや透かし彫りによる精緻な紋様が際立つ出石焼は、他に類いを見ない優美な白磁として、国内外で高い人気を誇っています。

【播州毛鉤/その他工芸品】1987(昭和62)年指定

兵庫県の西脇市・丹波市で主に生産される播州毛鉤(ばんしゅうけばり)は、フライフィッシングや渓流釣りなどの疑似餌(ぎじえ)として用いられる鳥の羽の毛鉤です。ニワトリ・カラス・アヒル・スズメ・キジ・カモなどの天然羽毛を、1センチほどの鉤に絹糸で巻き付け、金箔を貼った漆玉をあしらい、水生昆虫にそっくりな色や形状に仕上げられています。農家の副業として江戸時代末期から生産が始まり、明治時代に入ると、水産博などの展示会に出品して数々の賞を受賞。以降、優れた釣果を生む毛鉤の一級品として、その完成度の高さが全国の釣り師に認められるようになりました。現在では毛鉤の国内シェア90%以上を占める一大産地として、フィッシング業界をリードする存在となっています。

さまざまな鳥の羽を使った毛鉤

【豊岡杞柳細工/木工品】1992(平成4)年指定

兵庫県の豊岡市・養父市・美方郡香美町で生産される豊岡杞柳細工(とよおかきりゅうざいく)は、地域に自生するコリヤナギや籐を編み上げた杞柳製品です。主な製品としては、古くから使われている行李(こうり)をはじめ、バスケットや鞄、インテリアグッズなどがあります。その起源は1200年以上前までさかのぼり、奈良時代に作られた「但馬国産柳箱」が、東大寺正倉院の御物として残されています。その後、豊岡が城下町となった安土桃山時代に地場産業としての体制が整い、江戸時代に入ると、藩主が杞柳細工を保護奨励して専売制度を確立したことから、豊岡の製品が全国的に知られるようになりました。

【播州三木内刃物/金工品】1996(平成8)年指定

播州三木内刃物(ばんしゅうみきうちはもの)とは、兵庫県三木市で主に生産される刃物製品の総称で、鋸(のこ)・鑿(のみ)・鉋(かんな)・小刀などの大工用具がとくに有名です。安土桃山時代の末期、三木合戦(羽柴秀吉の三木城攻め)による落城後に、街の復興に携わる大工職人が全国各地から集まり、三木の大工道具の発展につながりました。その後、江戸時代から和鉄の鍛練技術が継承され、現在も多くの鍛冶職人によって、その伝統技術が受け継がれています。

── 以上、今回は奈良県・和歌山県・大阪府・兵庫県に伝わる20品目をご紹介しました。次回の《全国47都道府県の伝統的工芸品を巡る~その10》では、中国・四国地方各県と九州地方2県の指定品目にフォーカスします。

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