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【連載シリーズ】全国47都道府県の伝統的工芸品を巡る《その7》

全国各地で古くから受け継がれる伝統的工芸品(※)235品目を、都道府県ごとにご紹介する連載シリーズ。今回の《その7》では、中部地方3県(静岡県・岐阜県・愛知県)に伝わる伝統的工芸品にフォーカスします。

※伝統的工芸品……伝統文化の継承・産業振興を図る「伝産法(伝統的工芸品産業の振興に関する法律)」に基づいて、経済産業省が指定する235品目(2019年11月20日現在の指定数)の工芸品のこと。指定要件などの詳細は、下記のバックナンバー《その1》を参照。

【連載シリーズ・バックナンバー】

全国47都道府県の伝統工芸品を巡る《その1》

全国47都道府県の伝統工芸品を巡る《その2

全国47都道府県の伝統工芸品を巡る《その3》

全国47都道府県の伝統工芸品を巡る《その4》

全国47都道府県の伝統工芸品を巡る《その5》

全国47都道府県の伝統工芸品を巡る《その6》

静岡県に伝わる伝統的工芸品

【駿河竹千筋細工/竹工品】1976(昭和51)年指定

静岡県静岡市で主に生産される駿河竹千筋細工(するがたけせんすじざいく)は、千筋と呼ばれる直径0.8ミリほどの竹ひごを、1本1本組み上げて作る繊細な意匠の竹工品です。駿河地方では江戸時代初期から、安倍川流域に自生する良質な竹材を生かして、籠枕(かごまくら)や編み笠などの竹工品作りが盛んに行われていました。その後、江戸時代後期の天保年間、駿河に立ち寄った岡崎藩士が、脇本陣の息子であった清水猪兵衛に竹細工の技術を伝授し、駿河竹千筋細工の原型が確立されました。その技は現代にまで受け継がれ、手提げや虫かご、花器、菓子器、ランプシェードなど、暮らしを彩るさまざまな工芸品が生み出されています。

【駿河雛具/人形・こけし】1994(平成6)年指定

静岡県の静岡市・焼津市・掛川市で主に生産される駿河雛具(するがひなぐ)は、雛人形の周りに飾られる箪笥や長持、鏡台などの小道具類で、指物や漆器、蒔絵などの伝統技術を用いて細部まで精巧に作られているのが特徴です。江戸時代初期、久能山東照宮・浅間神社の造営の折に、全国から集められた各分野の職人たちが駿河に留まり、分業で雛具作りを始めたのが起源とされています。大正時代に入ると、問屋組合を設立して分業による大量生産の体制を整備し、雛具の製造・販売を全国に展開。現在も静岡県は全国一の雛具産地として、国内シェア90%以上の生産量を誇っています。

細部まで精巧に作られたミニチュアサイズの雛道具

【駿河雛人形/人形・こけし】1994(平成6)年指定

静岡県の静岡市・焼津市・藤枝市・富士市・牧之原市・榛原郡吉田町で生産される駿河雛人形(するがひなにんぎょう)。その歴史は古く、桐の木片を練って固め、筆で彩色した土人形「桐塑(とうそ)の煉天神(ねりてんじん)」が原型とされています。その後、衣装を着せた「衣装着天神」が作られるようになり、現存する最古の衣装着天神として、1853年に製作されたものが残っています。こうして江戸時代後期には、独自の人形文化から生まれた立天神・立雛や、親王雛・高砂などの雛人形、五月人形が製作されるようになり、駿河地方は節句人形の一大産地として発展。現在も静岡県内の家庭では、3月の節句の際に内裏雛とともに雛天神や五月人形を飾る風習が残っており、駿河雛人形のルーツを今に伝えています。

岐阜県に伝わる伝統的工芸品

【飛騨春慶/漆器】1975(昭和50)年指定

岐阜県の高山市・飛騨市で主に生産される飛騨春慶(ひだしゅんけい)は、美しい木目の木地に春慶塗と呼ばれる透き漆を施した琥珀色の漆器です。江戸時代初期のころ、宮大工の高橋喜左衛門がサワラの木目を生かした盆を製作し、城主の嫡男である金森可重に献上。その出来栄えに感動した可重が、御用塗師の成田三右衛門に透き漆で仕上げさせ、春慶塗と名付けたことが始まりとされています。天然木の木目を生かした木地を作る木地師(きじし)と、木地の持ち味を生かして漆を塗る塗師によって仕上げられる飛騨春慶は、飛騨の匠の技が融合した芸術品といってもいいでしょう。

【一位一刀彫/木工品】1975(昭和50)年指定

岐阜県の高山市・飛騨市・下呂市を中心とした飛騨地方で生産される一位一刀彫(いちいいっとうほり)は、職人が手彫りで仕上げたイチイ(アララギとも呼ばれる針葉樹)の彫刻品です。19世紀初期に飛騨国の彫刻師である松田亮長が、イチイの木目を生かした根付を製作したことが起源とされています。塗りや彩色をいっさい施さず、ノミの彫り跡を残して仕上げられる一位一刀彫は、年月とともに色艶が深まる名品として国内外で高い評価を得ています。

【美濃焼/陶磁器】1978(昭和53)年指定

日本の代表的な焼物として知られる美濃焼(みのやき)は、岐阜県の東濃地方(多治見市・瑞浪市・恵那市・土岐市・可児市・可児郡御嵩町)で生産される陶磁器の総称です。5世紀ごろに作られていた須恵器がルーツとされ、10世紀ごろには白瓷(しらし)という陶器が生産されるようになりました。その後、16世紀に織田信長の経済政策によって、東濃地方は多数の窯を抱える焼物の一大産地に成長。現在も国内シェア50%以上を占める、日本最大の陶磁器生産拠点となっています。志野(しの)・織部(おりべ)・黄瀬戸(きせと)・瀬戸黒(せとぐろ)・青磁(せいじ)など、地域や窯元によって多種多様なスタイルの製品があり、なかでも戦国時代の茶人・古田織部が創作した織部焼は、「織部好み」と呼ばれる斬新な意匠で古くから人気を博しています。

器の形・色柄ともに創意工夫を凝らした美濃焼(織部)の皿

【美濃和紙/和紙】1985(昭和60)年指定

岐阜県美濃市で生産される美濃和紙(みのわし)は、越前和紙・土佐和紙と並ぶ日本三大和紙のひとつとして知られています。その歴史は古く、すでに8世紀初めに生産されていた記録が残っており、正倉院に現存する日本最古の紙も美濃和紙とされています。光の透過性が高く、薄くて丈夫なことから、江戸時代には障子紙として広く利用されるようになり、「美濃判」という障子の規格になるほど普及しました。

【岐阜提灯/その他工芸品】1995(平成7)年指定

岐阜県岐阜市の特産品である岐阜提灯(ぎふちょうちん)は、薄紙に美しい絵付けを施した長卵形の提灯です。その起源については諸説ありますが、17世紀に藩への献上品として生産されるようになったのが始まりとされています。細骨に薄紙を張る「張り」、版画の要領で薄紙に模様を摺る「擦り込み」、提灯の木地に白胡粉で立体的な模様を施す「盛り上げ」などの技法を用いて、一点ずつ手作業で仕上げられる岐阜提灯は、薄紙に地元産の美濃和紙を使った製品も多く、岐阜の伝統美を伝える手工芸品として人気を博しています。

愛知県に伝わる伝統的工芸品

【有松・鳴海絞り/染色品】1975(昭和50)年指定

有松・鳴海絞り(ありまつ・なるみしぼり)は、愛知県名古屋市緑区の有松・鳴海地区で生産される絞り染めの生地です。糸のくくり方で模様が変わることから「くくり染め」とも呼ばれ、約60種類もの糸くくりの技法を駆使して、多種多様な模様を表現できるのが特徴です(本記事の冒頭のメイン写真が糸くくりの様子です)。そのルーツについては諸説ありますが、17世紀の始め、尾張藩の竹田庄九朗という人物が、名古屋城の築城に来ていた豊後の職人たちの絞りの衣から着想を得て、くくり絞りの手ぬぐいを作り始めたのが起源とされています。

糸くくりの技法でさまざまな模様を生み出す有松・鳴海絞り

【常滑焼/陶磁器】1976(昭和51)年指定

愛知県常滑市を中心に生産される常滑焼(とこなめやき)は、900年以上の歴史をもつ日本六古窯(信楽・備前・丹波・越前・瀬戸・常滑)のひとつに数えられています。平安時代には仏教の経を書いた書を入れる経塚壺(きょうづかつぼ)、室町・安土桃山時代には茶器や花器、江戸時代には瓶(かめ)や急須、日常用の器なども作られるようになりました。明治時代に入ると西欧の技術を導入して、陶管や焼酎瓶、煉瓦タイル、衛生陶器などの生産が始まり、現在の幅広い商品構成につながっています。常滑焼の大きな特徴のひとつが、原料に含まれている鉄分を赤く発色させる技法です。その朱色のもととなる酸化鉄は、お茶のタンニンと反応して苦み・渋みを抑え、お茶の風味をまろやかにするといわれています。「常滑焼といえば急須」という定説があるのも、その所以です。

【名古屋仏壇/仏壇・仏具】1976(昭和51)年指定

愛知県名古屋市で主に生産される名古屋仏壇(なごやぶつだん)の起源は、17世紀末の元禄年間、高木仁右ヱ門が仏壇専門店を創業したのが始まりとされています。宮殿御坊造(くうでんごぼうづくり)を代表とする絢爛な意匠に加え、一般的な仏壇より台が高く「まくり(台の扉)」を備えているのが大きな特徴です。これは、頻発する木曽三川の水害から仏壇を守る、地域特有の生活の知恵から生まれた構造といえるでしょう。

【三河仏壇/仏壇・仏具】1976(昭和51)年指定

愛知県岡崎市で主に生産される三河仏壇(みかわぶつだん)の起源は、江戸時代中期、矢作川の水運を利用して得られる良質な木材と、三河北部の山麓で採れる漆を材料として、仏壇師の庄八家が仏壇を作ったのが始まりとされています。その後、三河を中心とする地域で仏壇専門の職人や問屋が増え、現在の三河仏壇の産地が形成されました。豪華な空殿が映える「うねり長押(なげし)」という仕様と、座ったまま対面できる低い台が特徴となっています。

【豊橋筆/文具】1976(昭和51)年指定

愛知県の豊橋市・豊川市・蒲郡市・新城市・田原市で主に生産される豊橋筆(とよはしふで)は、19世紀初頭、京都から筆職人の鈴木甚左衛門を招いて製造を始めたのが起源とされています。現在、同地域では書道用の筆を中心に、日本画用・洋画用・工芸品用・化粧用など、さまざまな用途に合わせた数百種類の筆を生産しています。全生産量では広島県の熊野筆に次いで全国2位となっていますが、書道用高級筆の生産量は全国の8割以上を占めており、墨の吸収性の高さと滑らかな書き味で、プロの書道家からも高い評価を得ています。

【赤津焼/陶磁器】1977(昭和52)年指定

瀬戸焼のひとつである赤津焼(あかづやき)は、愛知県瀬戸市の赤津地区で生産される陶器です。奈良時代に焼かれていた須恵器という土器が原型とされ、桃山時代から江戸時代初期にかけて、現在に伝わるさまざまな技法が確立し、尾張徳川家の御用窯として栄えました。7種類の釉薬(ゆうやく)と12種類の技法を駆使して作られる多彩な装飾が特徴で、茶道用・生け花用の器や割烹食器などを中心に、作家性の高い製品が生み出されています。

【岡崎石工品/石工品・貴石細工】1979(昭和54)年指定

愛知県岡崎市で生産される岡崎石工品(おかざきせっこうひん)は、16世紀に岡崎城主の田中吉政が、城下町整備のために河内・和泉の石工を招き、石垣や堀を造らせたのが起源とされています。この石工たちが技術に磨きをかけ、春日型灯籠や六角雪見型灯籠をはじめとする岡崎石工品の原型を築きました。主な製品である石灯籠は、直線や曲線が交差することで多様な線と面を構成し、高度な彫技法を駆使した飾り付けの彫刻が、繊細さと優美さを与えています。

【名古屋桐箪笥/木工品】1981(昭和56)年指定

愛知県の名古屋市・春日井市・清須市・あま市・みよし市・丹波郡扶桑町で生産される名古屋桐箪笥(なごやきりたんす)は、上質な桐材に多様な装飾を施した高級箪笥です。16世紀ごろ、名古屋城築城の際に集まった職人が城下町に留まり、箪笥や長持などの収納具を作り始めたのが起源とされています。金・銀の着色を施した金具や、金箔画・漆塗の蒔絵を描いた袋戸など、随所にあしらわれた豪華な装飾が特徴で、古くから嫁入り箪笥としても人気を博しています。

【名古屋黒紋付染/染色品】1983(昭和58)年指定

愛知県の名古屋市・西尾市・北名古屋市で主に生産される名古屋黒紋付染(なごやくろもんつきぞめ)は、美しい黒色と堅牢度の高さで知られる染色品です。江戸時代初期、尾張藩紺屋頭の小坂井新左衛門が、藩内の呉服や旗などの染色品を作り始めたのが起源とされ、江戸時代後期には、現在につながる黒紋付染の技法が生み出されました。染色方法には、紋当網付(もんあてあみつけ)技法による「浸染(ひたしぞめ)」と、トロ引黒染(とろひきくろそめ)技法による「引染(ひきぞめ)」の2種類があり、いずれも紅や藍で下染めを行うことで、より深い黒色に染め上げています。

【名古屋友禅/染色品】1983(昭和58)年指定

愛知県の名古屋市・春日井市で主に生産される名古屋友禅(なごやゆうぜん)は、単色濃淡のぼかしが美しい友禅染めの織物です。18世紀前半、藩主の徳川宗春が繁栄政策をとっていた尾張地方は、京都・江戸などからさまざまな職人が往来しており、友禅の技法もその時期に伝わったといわれています。もともと尾張地方は堅実な気風の土地柄だったため、模様の配色は色数を控え、単色の濃淡で絵柄を描くスタイルが主流となっていきました。また、留袖に見られる漆黒の地色は、名古屋独特の「トロ引黒染」の技法から生み出されたもので、黒の色艶が優れた高級品として知られています。

【尾張七宝/その他工芸品】1995(平成7)年指定

愛知県の名古屋市・あま市・清須市で主に生産される尾張七宝(おわりしっぽう)は、銅や銀の金属板の表面にガラス質の釉薬(ゆうやく)を施し、花鳥風月などの図柄をあしらって焼成した七宝焼きです。19世紀初頭、尾張の梶常吉が海外から輸入された七宝を改良し、生産を始めたのが起源とされています。主な製品として花器・香炉・額・飾皿・宝石箱などがあり、熟練職人の手作業によって、細部までこだわった芸術性の高い製品が生み出されています。

【瀬戸染付焼/陶磁器】1997(平成9)年指定

瀬戸焼のひとつである瀬戸染付焼(せとそめつけやき)は、愛知県瀬戸市を中心とした地域で生産される染付磁器です。19世紀初頭、加藤民吉らが磁器の焼成技術を広めたことが起源とされ、その後、絵師からの指導を受けて南宋風の絵画を施す技術が加わり、現在の瀬戸染付焼の基礎が確立されました。その最大の特徴は、素焼きした生地の表面に直接筆で模様を描く下絵付け(染付)にあります。藍色を基調とした色彩で自然画や花鳥などを繊細に描く技術と、潤いをもった仕上がりにするための焼成技術は、この産地特有の高度な技法として現在にまで受け継がれています。

【尾張仏具/仏壇・仏具】2016(平成28)年指定

愛知県の各地域で生産されている尾張仏具(おわりぶつぐ)は、江戸時代後期、近郊で採れる良質な木材を資源に、下級武士の内職として発展しました。木魚や丸金台、経机などの木製漆塗製品が中心で、製作の各工程を専門職人が分業することで、宗旨宗派や用途に応じた多様な仕様の仏具を製作しています。

【三州鬼瓦工芸品/その他工芸品】2017(平成29)年指定

愛知県高浜市で主に生産される三州鬼瓦工芸品(さんしゅうおにがわらこうげいひん)は、江戸時代中期、火事の蔓延を防ぐ対策として屋根の瓦葺きが奨励され、これを受けて瓦作りが地域に広まったことがルーツとなっています。家紋入りの鬼瓦や鬼面をはじめ、近年は小さな鬼瓦や置物などのインテリア用品・エクステリア用品も生産されています。

“いぶし銀”といわれる独特の色味が特徴の三州鬼瓦

── 以上、今回は静岡県・岐阜県・愛知県に伝わる22品目をご紹介しました。次回の《全国47都道府県の伝統的工芸品を巡る~その8》では、近畿地方1府2県(三重県・滋賀県・京都府)の指定品目にフォーカスします。

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