金属加工の主役! 「旋盤加工」と「NC旋盤」の基礎知識
2020.05.04日本のものづくりの中心的存在といえば金属加工でしょう。大手企業の巨大工場から個人経営の小規模工場まで、全国いたるところでさまざまな金属が加工され、多種多様な製品が作られています。そんな金属加工になくてはならないのが工作機械。数多くの機械があり、多種多様な加工技術がありますが、中でも「旋盤加工」はどこの工場でも必要される大切な加工技術のとつです。
そんな金属加工に欠かせない旋盤加工とは、いったいどのような技術なのでしょうか。その加工を行う「旋盤」という工作機械はどのような仕組みになっているのでしょうか。そして、旋盤の主流である「NC旋盤」とはどのような工作機械なのでしょうか。今回は、そんな旋盤加工の基礎知識をまとめました。
工業製品の“マザーマシン=工作機械”
日本は世界に名だたる工業立国。自動車、家電、携帯電話など、日々実にさまざまな工業製品が作られています。全国各地に工業製品に携わる数多くの工場が存在し、そしてそれら工場には工業製品を作るための工作機械が必ずあるわけです。工作機械は工業製品はもちろんのこと、それに欠かせない精細な部品なども生み出します。工作機械は、すべての製品や部品を生み出す機械であることから「マザーマシン」と呼ばれます。
工作機械は、さまざまな製品や部品を作ることができる汎用性のあるものから、特定の製品を作るために特別に構成されたオリジナルのものまで多種多様です。汎用的に使用される工作機械には以下のようなものがあるので、チェックしておきましょう。
●主な工作機械
・ボール盤……いろいろな工作物に正確に穴を開けます。
・フライス盤……回転する軸に取りつけた切削工具を回転させて、工作物に溝や歯車などの加工をします。
・研削盤……回転する砥石に素材を押し当てて、少しずつ削って加工します。
・マニシングセンタ……自動で工具を交換でき、フライス削り、中ぐり、フライス削り、穴あけ、ねじ立てなど、多種類の加工を連続で行います。
先にも説明しましたが、工作機械はマザーマシンと言われます。つまり、工業製品の精密さは工作機械の精密さに由来するのです。つまり、世界に名だたる日本の優秀な工業製品は、工作機械の優秀さに支えられている側面もあるわけです。
旋盤加工とは、どんな加工?
数ある工作機械の中でも、“工作機械の王様”ともいわれる代表的な機械が「旋盤」です。
旋盤は、回転させた工作物(素材)に切削刃物(バイト)を押し当てて不要な個所を削り取り、新しい形の製品を作り上げる機械であり、この旋盤という機械を使って新しいものを作ることが「旋盤加工」ということになります。先に紹介したフライス盤と似たような加工を行う機械ですが、両者の特徴を簡単にいうと、旋盤は工作物を回転させて加工するもの。それに対してフライス盤は、刃物が回転して加工する違いがあります。
2020年は待望のオリンピックイヤーですが、オリンピック競技のひとつである砲丸投げの「砲丸」、ハンマー投げの「ハンマー」も旋盤で作られます。重心と中身が一致していないと、バランスが悪くて遠くまで飛びませんが、オリンピック競技で使われる砲丸やハンマーは、日本の中小企業がごく一般的な旋盤で作っているのです。そこには、日本の職人たちの高い技術力と熱い志が隠れていることなります。
旋盤加工をいくつかピックアップ!
旋盤加工には以下のようなものがあります。代表的なものをご紹介しましょう。
●主な旋盤加工
・外径加工……工作物の外径を細くする加工。工作物の回転数を計算するときは、切削前の外径寸法と最終の外径寸法の中間値を用います。
・端面加工……工作物の端面を切削し、全長を短くする加工。工作物の外周と中心付近では切削速度が変化し、中心部では切削速度がゼロになり、仕上げ面が粗くなります。バイトを傾けて切削するなどの工夫が必要です。
・穴あけ加工……工作物の中心に穴を開ける加工。渦巻状の切りくずが排出されるよう、ドリルの送り速度を絶妙な速さに調節する必要があります。また、ドリル先端が非常に高温になるため、適宜ドリルを工作物から離し、切削油を注油するなどの作業も必要です。
・内径加工……穴の開いた工作物の穴径を大きくする加工。バイトの突き出し長さが長くなるためにビビリが発生しやすく、作業に注意が必要です。回転数を低くして切削するのがコツです。
・ネジ切り……工作物をネジに加工。ネジ切り用の刃物(バイト)を使い、小さな切り込み深さで数回にわたって繰り返します。おおむね10回程度繰り返してネジが完成します。
旋盤にはどんな種類がある?
旋盤は、大きく分けて3つの種類があります。
●旋盤の種類
・普通旋盤……多くの工場で使われている一般的な旋盤です。工作物を回転させる主軸が地面と平行に位置し、工作物はチャックという治具で保持します。これにより工作物は地面と平行に回転し、バイトを左右に移動させることで削り、加工します。
・立て旋盤……普通旋盤と主軸の向きが異なる旋盤で、主軸は地面と垂直に位置します。工作物は主軸に取り付けた円テーブルに置いて保持します。これにより、工作物は地面と垂直に回転し、バイトを上下に動かして加工します。構造としては、陶芸で使われる「ろくろ」と同じです。
・自動旋盤……主軸の回転やバイトの動き、工作物の切断などの加工をすべて自動で行う旋盤です。自動旋盤では、複数のバイトがほぼ同時に工作物を加工するので、仕上がりまでの時間が非常に短く、同じ製品を大量生産するのに適しています。
旋盤の基本的な構造は?
旋盤の構造物は、大きく5つに分けられます。本体を支える「ベース」、工作物を回転させる主軸を内蔵した「主軸台」、工作物を切削するバイトを移動させる「往復台」、主軸と対向する位置ある心押軸を内蔵する「心押台」、そして往復台と心押台をつないで支える「ベッド」です。普通旋盤を例に、ひとつずつ説明していきましょう。
●旋盤の構造物
・ベース……旋盤を支える足の役割を果たしています。ベースは2個あり、旋盤の主軸台と心押台の下で本体を支えます。一般的に主軸台側のベースには、旋盤の原動力となる電動モーターが内蔵されています。心押台側のベースは通常空洞になっています。
・主軸台……主軸が内蔵されている、メインの役割を果たす台です。主軸の回転数、往復台の送り量を変換するための歯車などが内蔵されています。
・往復台……ベッドをまたぐように設置され、ベッド上を手動や自動で旋盤の縦方向に移動します。往復台には刃物台が載っており、これを手動や自動で旋盤の横方向に移動させることできます。これで工作物を加工します。
・心押台……主軸に対抗する台で心押軸を内蔵しています。心押軸は工作物の端に押し当てて、回転を安定させるために使用します。心押台にあるハンドルを回転させることで出し入れさせます。心押軸にドリルをつけて、工作物に穴を開けることもできます。
・ベッド……主軸台と心押台の間にあり、往復台の移動を支えます。この動きのガイドとなる案内面の形状は、主に山形と平形があり、両者の組み合わせでいろいろなタイプがあります。往復台の運動精度は加工精度に直接影響をおよぼす極めて大切なものとなります。
旋盤に欠かせない刃物(バイト)とは?
旋盤加工は、回転する工作物に刃物(バイト)を押し当てて加工します。つまり旋盤加工は、押し当てるバイトの形状や動かし方でその形状が決まってきます。よって、旋盤にとってバイトは非常に大切な役割を果たすものといえます。ちなみにバイトの語源はオランダ語・ドイツ語で、ノミを意味するバイテル(beitel)に由来します。
バイトの形状は加工する目的や用途により数種類あります。JIS規格では一般的な形状として24種類が規定されています。バイトは「チップ」と「柄」で構成されています。チップは直接工作物に接触させて削り取るもので、硬い金属や鉱石で作られています。柄はホルダとかシャンクなどと呼ばれ、おおむね鋼で作られます。
一般的なバイトは、その構造の違いで大きく分けて3種類あります。
●バイトの種類
・スローアウェイバイト……チップとホルダをネジなどで固定しているバイトです。工作物を加工して磨耗したチップをすぐに付け替えられるため、使い勝手に優れたバイトであることから、現在もっとも多用されているバイトです。
・付刃バイト……チップがホルダに溶接などで固定されているバイトです。チップが磨耗した時は、ホルダごと交換する必要があります。また、付刃バイトは購入後すぐに使用することができず、グラインダーなどで成形してから使用します。
・むくバイト……チップとホルダが同じ素材でできている一体型バイトです。むくバイトも、チップが磨耗した時はそっくり交換が必要です。また、購入後はやはりそのまま使うことができず、グラインダーなどで成形する必要があります。
チップには、基本性質として「硬さ」と「粘さ(ねばさ)」が必要です。一般に、加工する工作物の硬さの3〜5倍の硬度が必要とされていますが、ただ単に硬ければよいというものではありません。単に硬いだけで粘りのない素材であれば、工作物に接触した瞬間に割れたり欠けたりしてしまうからです。そこで、硬さのみならず、工作物と接触しても欠けない粘さが必要となるのです。
現在、旋盤のチップに使われる素材は、ダイヤモンド、CBN焼結体、セラミックス、サーメット、ジーティング、超硬合金、超微粒超硬合金、高速度工具鋼、合金工具鋼など主に9種類あります。それぞれ硬さと粘さの度合いが違い、加工する工作物の素材によって選択します。硬さと粘さの両方のバランスのよい素材は超硬合金で、この特性からチップの材質として現在もっとも使用されています。
工作物をつかむチャックとは?
チャックは、旋盤の主軸に取り付けて、加工する工作物を保持するための治具です。高速で回転する工作物が動かないようにしっかりと保持することは、精密な製品を作るためにとても大きな条件の一つです。よって、旋盤にとってチャックも非常に大切な部品の一つとなります。
一般的によく使用されるチャックは「4爪チャック」と「3爪チャック」です。
●チャックの種類
・4爪チャック……工作物を保持するための爪が4個あるチャックです。4個の爪それぞれを単独で動かせるため、単動チャックとも呼ばれます。丸棒でも長方形のものでも、あるいは複雑な形のものでも保持できます。しかし、工作物の中心をチャックの中心と一致させる心出し作業が必要で、この作業には慣れが必要です。
・3爪チャック……3個の爪で工作物を保持するチャックです。3個の爪は同時に移動するため、工作物の中心とチャックの中心は常に一致し、難しい心出し作業は必要ありません。よって、初心者にも扱いやすいチャックといえます。
この他に、特殊な形状の工作物を保持するヤトイもあります。ヤトイは、JISに規定された治具ではありませんが、工作物に合わせて独自に製作するなどします。特殊な形状の製品を作る生産現場では、工作物の形にあったヤトイを数多く揃えている場合が多くあります。
NC旋盤と普通旋盤の違いは?
ここまで説明してきた普通旋盤で金属を加工する場合、旋盤にあるハンドルやレバーを作業者自らが「手動」で操作します。これに対して、加工に関する作業を数値でコントロールする旋盤もあります。これが「数値制御旋盤」で、いわゆる「NC旋盤」のことです。NCとは「Numerical Control(数値制御)」の頭文字をとったもの。NC旋盤では、ハンドルやレバーを操作することはなく、代わりに本体に装備されている操作パネルに数値を打ち込んで作業することになります。
数値制御とは、工作物の外径方向をX軸、軸方向をY軸とする2軸の座標を作り、この座標値によってバイトがどのように動くかをコントロールします。いったん数値を入力すれば無人で加工できるので、同じ形の製品を簡単に大量生産できるわけです。しかも、現在ではコンピュータがこの数値指令を行うため、操作も飛躍的に簡単になっています。コンピュータを使用するNC旋盤は、頭に「Computer」を付けて「CNC旋盤」と呼ぶ場合もあります。
複合的な作業を行うN C旋盤
近年はNCプログラムによってさまざまに複合的な作業を行うことができるNC旋盤も登場しています。これらを新たに「ターニングセンタ」と呼び、現在ではほとんどの生産現場で使われるNC旋盤が、このターニングセンタに属するものとなっています。
また、手動で操作する普通旋盤と、数値制御するNC旋盤の中間的な機能を備えた「簡易NC旋盤」というものもあります。簡単な加工ならハンドルやレバーを操作する手動で操作でき、難しい曲線などが必要な場合は数値制御で操作できるという優れものです。
数値制御で加工をするためには「座標の考え方」と「NCプログラム」の知識が不可欠です。しかし、簡易NC旋盤を含めた最近のNC旋盤は「対話式」機能を持つものも少なくありません。対話式というのは、NCプログラムを作成するソフトが内蔵されており、操作パネルのディスプレイに表示される指示に従って工作物の材質や加工したい形状、サイズなどの細かい作業要素を入力していくことで、自動的にプログラミングしてくれるもの。作業者はディスプレイに表示される問いに答えていく形で入力していくため「対話式」といわれます。
NC旋盤は、もともと1950年代後半に日本の大学で開発されたものですが、その後、数々の技術革新がなされ、現在では誕生当時のものに比べれば飛躍的な進化を遂げています。その証に対話式に代表されるように、誰もが簡単に利用できるようになっているのです。しかし、いくら対話式で簡単に入力できるようになったからといって、実際の完成品が思い通りに出来上がるとは限りません。対話式であっても、作業者が工作物の材質の知識や加工の難易度など、しっかりした知識を身につけていなければ優れた製品はできないのです。便利な機能に頼るだけでなく、技術者としての自己研鑽をきちんと積む必要があります。
旋盤作業を行う場合の注意点
最後に、旋盤作業するときの注意点を紹介しておきましょう。
旋盤を操作するには、正しい知識を持って、正しい使い方をしなければなりません。誤った知識と使い方で旋盤に向かえば、指の切断などの重大事故につながりかねません。旋盤は、最悪の場合は死亡事故なども引き起こす、非常に危険な機械でもあるのです。
旋盤に限らず、機械加工の作業では「段取り8割」という言葉があります。段取りとは準備のこと。作業に入る前に図面や作業工具、測定器などを作業台にきちんと並べ、すぐに使用できるよう入念に準備してから作業に入ることが大切です。作業を始めてから必要なものを探しているようでは、作業に集中できず、優れた製品を作ることはできません。一般的に工場などの生産現場では「5S活動」が重視されています。これは「整理・整頓・清掃・清潔・躾」の5つを表します。どれも当たり前のことですが、事故を寄せつけず、高性能な製品を作るためには欠かせないスローガンなのです。
また、旋盤加工を行う際には、正しく、清潔な作業服を着用することも大切な条件となります。長袖・長ズボンで、袖のボタンは必ず締めること。上着はズボンの中に入れ、ベルトでしっかり締めること。ブーツタイプの安全靴を履く場合には、ズボンの裾を靴の中にしっかり収めること。さらには手袋、帽子、保護メガネ、粉じんマスクなども使用すべきでしょう。
服装の乱れは、思わぬ事故につながります。だらしなくボタンを外していた袖口を、旋盤の主軸に巻き込まれたりする事故は、非常に多く発生しているのです。作業者には、常に正しく作業服を着こなし、油断なく機会に向かうことが求められます。
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