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料理人と“切っても切れない”関係にある包丁。意外と知らない包丁のキホンとは?

包丁──。かつては、お母さんやお嫁さんが台所でまな板をコトコト鳴らしながら料理する道具、というイメージが強かったため、若い男性の“憧れ”とされてきた時代が続きました。振り返ると少し前までは、包丁を満足に握ることもできなかった男性も多かったですね。
時は流れ、グルメ志向に料理ブーム……といった社会的環境の変化に伴って料理好きな男性も増え、いまや包丁は男女を問わず人気アイテムに! ネット上でも数限りない包丁が紹介・販売され、昨今ではプレゼントにも活用され人気を博しています。

キッチングッズの域を超え、おしゃれアイテムに変化したことから、人気シリーズや流行の包丁もお目見えし、形状やサイズ以外にも、刀身に独特の縞模様(ダマスカス包丁)が施された包丁から、凹凸の施された(デポット加工)もの、刀身や柄(ハンドル)に桜や楓(かえで)、撫子(なでしこ)などの意匠がちりばめられたものなど、切れ味ばかりではなくデザイン性の高い製品が続々と登場しています。

── 今回は、料理人の必須アイテムであり、和包丁においては日本文化を代表する「食材を調理する道具」としての包丁に着目。最近は、諸外国の人が“マイ包丁”を購入するために日本を訪れるケースも急増していますが、時代や流行にとらわれない包丁の原点やキホンをみていくことにしましょう。

包丁は一生モノ? 消耗品?

「切れる包丁」と「切れない包丁」……その差がもたらすものは何なのでしょう? 当然、最初から切れない包丁はありませんし、購入したての包丁はどれも素晴らしい切れ味を発揮します。
しかし使っていくうちに、いずれその切れ味は鈍くなっていきます。そうなったとき、気にせずにそのまま使う人がいる一方で、シャープナーや砥石(といし)を使用してしっかりメンテナンスする人もいます。また、購入元へメンテナンスに出す、思い切って別の手頃な包丁に買い替えてしまうという人もいます。

以前であれば、しっかりメンテンナンスを行い、自分だけの“マイ包丁”を大事にする人が多かったのですが、ご存じの通り最近では100円ショップでも包丁が販売されるようになったことで、ある種、包丁は切れなくなったら捨ててしまう“消耗品”と化した向きもあります。

その一方で切れ味よく、見た目にも美しいハイセンスな包丁が競い合うように出まわってはいるものの、昔ながらの和包丁は使われる機会が少なくなり、需要自体が減少しているといわれています。長くつき合える、よりよい包丁を選ぶポイントとは、どんな点なのでしょうか?

「切れる包丁」の意味を再考してみよう!

「切れる包丁」は調理を楽にしてくれるだけではありません。よく切れる包丁は素材の細胞を傷つけず、旨味をのがさず美しく仕上げます。研(と)ぎ上げた包丁で玉ねぎを切ると目が痛くならない、調理中に指を切っても(痛くないので)気づかない……というような話を耳にしたことはありませんか? 実際に、鋭い切れ味をもつ包丁で切った刺し身と、切れ味の鈍った包丁で同じ魚を調理して刺し身にした場合、味は前者のほうがダンゼンよい……という結果も報告されているほど。こうした違いから“切れ”によって、“味”が格段に異なることを意味する「切れ味」という言葉が生まれたといわれています。

繊細な技術や美しい盛り付け、素材の深い味わいが際立つ日本食には、「切れる包丁」が欠かせません。例えば、刺身をおいしく仕上げるには、切り分ける際に包丁の刃元を当てて手前にすーっと引き、1回で切り終えるのが正しい包丁の使い方。
繊細でやわらかく、力を加えるとすぐに崩れてしまう刺身は、刃を入れる回数をできるだけ少なくするのが理想とされますが、ちなみに刺身が一番おいしく感じるのは、幅3cm、縦2cm、厚み1cmの寸法に切り分けた場合とされています。これは繊維を傷つけずに包丁を引き切りすることで魚本来のうま味を最大限に引き出す……ことに由来します。

魚本来のおいしさを最大限に引き出す包丁使いは、当然ながらプロでなければ発揮できない熟練のワザ。その奥深さから、正確な技術と美しい所作が求められる刺身担当者は「花板」とも呼ばれ、店主または経験の長い料理人が担当するのが一般的です。

切れ味の落ちた包丁をプロの料理人が使うなんて、ありえない!

どんな包丁も、最初の切れ味がいつまでも継続するわけではありません。ましてや業務用包丁の使用頻度は、家庭用とは比べものにならないほど多く、鋭利な包丁であってもあっという間に切れなくなってしまいます。そうはいっても、プロの料理人が切れ味の落ちた包丁を使うなど、ありえない話です。

極端なことをいえば、一日中包丁を使用しているプロの料理人は、どのような包丁を使っているのでしょうか。また、家庭用包丁と、プロの料理人が使用する包丁の違いは、どんなところにあるのでしょうか?

業務用と家庭用包丁の違いは、下記の3点に集約されるといわれています。

●1点目/料理人が使用する業務用包丁は、とにかく種類が豊富

「食材の数だけ包丁がある」といわれるほど、古くから伝わる日本の包丁には多種多様なものがあります。魚や肉なら種類や部位によって、サーモンナイフ、貝裂包丁、骨スキ、筋引き……を使い分けますし、他にも、餅切り、麺切り、半解凍した冷凍食品専用の冷凍包丁……とバラエティ豊か。

このように、それぞれの使用目的に特化して作られているのが「特殊包丁」と呼ばれるもので、これはいわば、一本一本が素材を切る「専門家」として位置づけられています。簡単にいうとひとつの料理を作る際にも、領域を分けてその領域ごとに専門の包丁で仕事を進めていくイメージになります。料理のキホンとされる包丁がしっかり使用分けされているからこそ、素材の特長を最大限に引き出した、最高の料理ができ上がるといえるでしょう。

とはいえ、料理人と違って家庭の場合、何本もの包丁を揃えるお金や手間はかけられません。つまり、業務用と家庭用包丁の違いを表す2点目は下記になります。

●2点目/家庭用は、一本の包丁で何役もこなせるよう工夫されている

家庭用の代表格とされる三徳(文化)包丁は、野菜を刻む、魚をさばく、肉も切るという要領で使用している方がほとんどでしょう。つまり、一本で三役をこなすことから“三徳”の名がつき、多芸な万能包丁に位置づけられます。
もちろん、家庭で特殊包丁を使う料理上手な人もいますし、プロは三徳包丁を使わない……というわけではありません。つまるところ、包丁それぞれの特長を理解し、状況に応じて使い分ければよいだけの話なのです。

そして、業務用と家庭用包丁の違い、その3点目は、

●3点目/プロが使用する包丁は、研(と)ぐことが前提

すでに述べたように、プロが使う包丁は使用頻度の高さから、すぐに刃先が鈍るので、まめに砥石(といし)で研ぐことで切れ味を回復させ、常に鋭利な状態をキープする必要があります。

この理由をひもとくと、ひと昔前の包丁は、今のようにスーパーなどで手軽に手に入らない高価なものであったことが大きな理由として挙げられます。こうした時代的背景から、当時は包丁の手入れを専門とする「研ぎ職人」(研ぎ師)が、家々を巡回する風習があったほど。包丁研ぎのプロが存在するということはつまり、それだけ「包丁研ぎ」は高度なテクニックを要する手間のかかる面倒なものであり、包丁の材質によって砥石も種類を使い分けなくてはならなかったのです。

一転、今日では頻繁に料理をする人でもなければ、家庭で砥石を使うことは稀になってしまいましたし、砥石の代わりに、包丁をシャッ、シャッとしごく棒状シャープナーが普及するようになっています。しかし、シャープナーは基本的に、刃の表面をギザギザの状態にして一時的に切れるようにしているだけで、本当の意味での切れ味に戻しているわけではありません。そのため、包丁メーカーなどで有償メンテンナンスを請け負うケースもあり、購入時の切れ味を戻すためには、まめに砥石で磨く方法が王道といえることは間違いないでしょう。

1000本以上の包丁を陳列する包丁専門店も!

2013年、「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されました。これは調理法や具体的な料理ではなく、和食全体にかかわる日本の文化が認められたということであり、右肩上がりに増加する外国人観光客の多くが、和食(日本食)を旅の目的のひとつとして楽しんでいます。

和食人気とともに食に関連した道具への関心が高まったことによって、日本一の厨房用具〈 調理器具・備品 〉 街とされる東京・台東区のかっぱ橋商店街では、昨今、外国人客が急増。軒を揃える包丁専門店の多くが1000本以上の包丁を店内に陳列し、客が直接手に取れるようになっています。こうした店舗は、日本で活躍するプロの料理人をはじめ、日本の包丁に魅了された外国人シェフ、包丁を土産にする外国人客で賑わっています。危険な刃物でありながらも手軽に手に取れる状態にしている理由は、「長い間働き続ける包丁をよく吟味し、手に合った一品を選んでいただきたい」という店側の配慮からだそうですが、実際に客のほとんどが一本一本を手に取り、刃先を頭の位置より高い位置にかざして刃の状態を確認したり、持ち手(柄/え・つか)を実際に握って握り具合や重さを確認するなど、さまざまな角度から吟味しているようです。

また、包丁のメンテナンスに欠かせない砥石(といし)の専門店では、最近は客の8割が外国人という店舗も増えているとのこと。そのため、接客する店員は英会話をマスターしているというのですから驚かされます。

ではここから、古くから受け継がれる包丁の種類をご紹介しましょう。

文化と風習が息づく、バラエティ豊かな包丁

【両刃と片刃】

包丁は、構造の違いから大きく和包丁と洋包丁に分けられます。
和包丁と洋包丁の大きな違いは、その刃付けにあるといえます。大きな違いは両刃(もろは)と片刃(かたは)に分けられる点にあり、和包丁は片刃、洋包丁では両刃が基本とされます(ただし、両刃の和包丁もあります)。

●両刃:両面に刃がつきます。刃の断面が左右対称のV字型=洋包丁
●片刃:片面のみ刃がついた包丁。断面が「レ」の文字のようになっている=和包丁

【和包丁】

主に日本料理に使われる和包丁の原型は日本刀といわれ、その切れ味の素晴らしさから、世界の料理人を魅了しています。というのも、片刃の和包丁は両刃に比べて食材の刃離れがよく、刻む、むくなどが素早くできるようになっているから。そして、使用する際は刃全体をすべらせながらすーっと引いて切る「引き切り」がメイン。実際の包丁の刃よりも鋭い角度で切り込み、断面の美しい仕上りが特長です。

【洋包丁】 

西洋料理店が登場した明治前後に肉を切り分ける機会が増し、洋包丁の輸入が始まりました。洋包丁は断面が左右対称のV字型の「両刃」構造で、和包丁の「引き切り」に対して「押し切り」がメイン。重さを活かし、前へ押し出しつつ刃先から刃元へと、力を入れて切ります。この方法であれば、骨や筋のある肉類、繊維の粗い野菜など硬い食材でもザクッと容易に断ち切れます。

和包丁・洋包丁の主な種類を整理すると……

和包丁の主な種類

洋包丁の主な種類

和包丁の表で紹介した出刃包丁は、江戸時代、泉州堺の出っ歯の鍛冶が開発したため「出刃包丁」といわれるようになったことが、名前の由来という説があります。堺といえば、今も刃物の街として有名ですね。
昔の家では出刃包丁の一本くらいはあったものの、刺身が切り身で売られるのが普通になった現在では、家庭で魚をさばくことも少なくなり、需要も減りました。そのため、鮮魚店や魚売り場に頼めば、店側で下ごしらえ(三枚におろすなど)してもらえます。
業務用包丁として先述した、「素材を切る専門家」である「特殊包丁」──「特殊な和包丁」としては、主なものとして下記のものが挙げられます。
〇すし切り包丁
〇餅切り包丁
〇鰻(うなぎ)裂き包丁
〇麺(めん)切り包丁(蕎麦切り包丁)
〇ふぐ切り包丁

また、主な「特殊な洋包丁」としては、

〇食肉店で使われる、肉を切る専用の包丁である肉切り(ブッチャー)ナイフ
〇魚の中骨をたたき切ったり、尾や頭を切り分けるなど鮮魚店で使われる魚切りナイフ
〇牡蠣用ナイフ
〇グレープフルーツナイフ
〇肉・魚用スライサー
などがあります。このほか、和包丁、洋包丁の分類にはいらない包丁に中華包丁があります。

【中華包丁】

中華料理でおなじみ、身幅の大きい万能包丁で、刃は四角いものが主流です。特徴は四角い形状とその重さにあり、重量を活かし落とす要領で食材を「切る」「たたく」「つぶす」など何通りにも使い分けられます。中華料理では、ほとんどの食材を中華包丁一本で処理されることが多いようです。

意外と知らない、包丁各部の名称

【包丁各部の名称】 
切っ先 ➡ 先端のとがった部分
刃線(刃先) ➡ 切る部分
峰(棟) ➡ 包丁の刃の背中部分
顎(あご) ➡ 刃線が終わるあたりで角になっている箇所
刃渡り ➡ 切っ先から顎までの刃線の長さ
口輪 ➡ 刀身側にある柄の端部
刀身 ➡ 刃の部分全体
柄(ハンドル) ➡ 持ち手の部分
柄尻(えじり) ➡ 包丁を立てた場合の一番下部

さらに和包丁では、「鎬(しのぎ)」「しのぎ筋」「切刃(きりは)」「平(ひら)」「区(まち)」……と、細部にわたって包丁独自の名称がつけられています。一本の包丁に数えきれないほど各部の名称があるのは驚きですが、これら包丁各部の名称を覚えるのが、料理人修業の始まりかもしれません。

料理人にとって、包丁は人生のパートナー

料理人にとって、まず揃えたい包丁はどのようなものでしょうか?

初めて自分のお金(給料)で買った一本や憧れの包丁、師匠や先輩から譲り受けたもの……。料理人の包丁には思い出がつまっているものですし、包丁は料理人のパートナーともいえる大切なもの。では、料理人人生のスタートを飾るにふさわしい包丁はどのようなものでしょうか? その一例を挙げると下記になります。

〇洋包丁(20cmくらいのもの)
〇三徳包丁
〇ペティナイフ
〇和包丁(出刃包丁)15~16.5cm

どれも価格帯・材質もさまざまですから、師匠や先輩料理人に相談するのもいいでしょう。なかには、背伸びをして買った高価な一本を使いこなそうという熱い思いから自然と修業に身が入り、師匠が驚くほどのスピードで技術を身に着けたというエピソードもあります。

料理の道は「研ぎ」の作業から始まる

包丁は料理人の「魂」「命」「相棒」などといわれることから、料理人は包丁がベストの状態で調理ができるよう、念を入れてメンテナンスします。調理場では毎晩、誰かしら包丁を研いでいる姿を多く見かけますが、そうした環境下で働く若い料理人たちは、自然と料理人としての自覚を身につけていくことになります。その感覚を表す言葉として、料理の道は「研ぎ」の作業から始まる、とさえいわれてもいます。
さらに、使い込むうちに姿を変え、少しずつすり減って小さくなっていく包丁の姿に、自身の歩みを重ねる料理人も多いようです。「パートナー」としていつも自分を支えてくれる包丁への信頼と愛情……、それはおのずと料理にも反映されるのではないでしょうか。

包丁は、材質によって特徴がまったく違う!

いまや、100円ショップで購入できるものから数十万円する高価なものまで、幅広い価格帯で販売されている包丁ですが、材質によって価格・使い勝手が大きく変わります。包丁の刃にはどのような素材と特徴があるのでしょうか。

包丁の材質は、主に「鋼(はがね)」「ステンレス」「セラミック」に大別されます。早速、簡単に比較していきましょう。まずは鋼やステンレスの主成分となる鉄材の説明から。

そもそも「鋼(はがね)」という日本語自体が「やいば」の金属を意味する「刃金(はがね)」に由来します。鋼とは一定割合の炭素(一般には0.4~2%程度)を含有する鉄合金。これにニッケル、クロム、コバルトなどの元素を添加してさまざまな性質を持たせて「刃金」が作られます。
鉄鉱石を溶鉱炉で還元して取り出したものが銑鉄(せんてつ)といわれるもので、これを鋳型に流し込めば鋳物が作れます。ただし、炭素が4~5%含まれる銑鉄はもろい特性をもち、叩いたり曲げたりするだけで割れてしまうため、刃金には向きません。炭素をある程度除去した鉄は強靱になり、曲げや延ばしに強い性質 〈可塑性(かそせい)〉のある優れた刃金に生まれ変わります。さらに、錆の原因となる炭素含有量を1.2%程度まで落とし、クロムを10%以上添加した鋼が錆に強いステンレス鋼となります。
刃物の切れ味を左右する硬度と可塑性、もろさ〈靱性 ──じんせい〉、錆にくさなど矛盾した性質をうまく両立させるため、さまざまな鋼材が工夫・開発され、その組み合わせが包丁に活かされています。

〇炭素鋼

鉄を主成分に、炭素やケイ素、マンガンなどを含む、硬い合金です。
包丁に使われるのは、一般的に炭素が多めの炭素鋼で「焼き入れ」により熱を加えれば一気に硬度を上げられる点から、純度100%の鉄よりも包丁作りに適しているとされます。鋼を用いた包丁の最大の特長は鋭い切れ味にあり、欠点は錆びやすさにあります。含まれる炭素が錆に弱いため放っておくと錆びてしまいますが、一方で、鋼の包丁はステンレスの包丁に比べて研ぎやすいといわれています。

〇白紙鋼

白紙鋼とは、上の炭素鋼から、さらに鋼の性質を劣化させるリンやイオウといった不純物を極力取り除いた鋼のこと。日本刀の切れ味を決める芯材、玉鋼(たまはがね)を源流とする鋼材で、砂鉄から作られており、高級包丁に使われます。
この鋼材には粘りがあるうえに水切れがよく、鋼ならではの切れ味で硬い食材でもしっかり切ることができます。白紙の名称は、製造した鋼材を区別するために貼られるラベルの色からつけられたともいわれています。また、炭素の含有率によって、含有率が多いほうから1号、2号と区別されます。炭素含有率の高いほうが刃の硬度(切れ味)や耐摩耗性が向上します。

〇青紙鋼

同じく玉鋼を源流とする鋼材、高級包丁に使われます。
白紙鋼にクロムと超硬合金の主成分であるタングステンを添加した鋼材で、強度や錆び、耐摩耗性に優れた素材に位置づけられます。また、名称は貼られるラベルの色によって異なります。青紙鋼の特性は鋭い切れ味にあり、その切れ味のレベルは、包丁の素材の中でも最高峰。料理人など本職の人々が多く使用していますが、プロ仕様だけあり、白紙鋼に比べて高価な点も大きな特長とされます。青紙鋼には最高級品質の「青紙スーパー」というランクもあるので、包丁を選ぶ際のポイントとして覚えておくとよいでしょう。

〇ステンレス

かつては不銹鋼(ふしゅうこう)と呼ばれたステンレス。
鋼材の一種ですが、炭素やクロムといった成分の含有量に応じて分類されます。ステンレスは炭素鋼と比べて炭素量が少なく、逆にクロムを多く含む金属に位置づけられます。錆びやすい性質の炭素とは反対に、クロムは錆びにくい成分であるため、ステンレスは錆びにくく、耐久性に優れている特長を持ちます。
何より、錆びにくさはステンレス最大のメリット。もちろん、まったく錆びないわけではありませんが、通常の鋼とは比べものになりません。ただ、錆びに強い反面、切れ味は鋼におよばず、研ぎやすさの面でも炭素鋼に劣ります。以前はステンレス包丁は業務用に向かないとされていましたが、近年は少量の炭素を添加するなどの工夫が凝らされ、硬度と靭性(粘り強さ)を持ったステンレス包丁も多く登場しています。

〇モリブデン鋼

ステンレスにモリブデンを加えた素材です。
添加したモリブデンは、高温下でも鋼の性質や強度を劣化させずに保ちます。このモリブデンは少量でも効果が大きい点が特長とされます。一般的に「ステンレス製の包丁」は、このモリブデン鋼を使用しているものが多いようです。また、モリブデンバナジウム鋼を略して呼ぶこともあり、バナジウムは鋼を強く丈夫にする成分で、耐摩耗性を向上させます。
つまり、この二つの成分を添加して、ステンレス鋼の弱点である強度や耐摩耗性を補うことになります。大量生産のもの、あるいは職人の作った一点ものを問わず、鋼やステンレス製の包丁は、目的に応じてさまざまな鋼材を組み合わせ、高温に加熱した状態でたたき、あるいは延ばす鍛造が施され、熱処理(焼き戻し、二つの工程)により仕上げられます。

〇セラミック

近年、刃物の素材として普及しつつあるセラミクス。
主として粉末化したジルコニウムを2700度という高温で焼き固めた、硬度と靱性の高いセラミクス素材で作られた包丁のこと。ジルコニウムは結晶状態では屈折率が高く、模造ダイヤなど宝飾品としておなじみの物質です。鉱物質の原料を高温の釜で焼き固める陶磁器と同製法からの連想によって、セラミック包丁は登場当時、“現代の新しい石器”などとも呼ばれていました。
何より強度が高く、熱に強い、さらに軽量な点が特長とされますが、硬度があるため、刃が薄くても一定の切れ味を保てる点が魅力とされます。加えて、軽いために長時間持っていても手が疲れにくく、金属ではないので錆びず、切れ味を長く保つ利点もあります。
その一方で、割れやすく、欠けやすい側面も……。硬くしなやかさに欠ける素材なので魚や肉の骨などの硬いもの、カボチャ、スイカといった大きなものを切ると、場合によって“刃欠け”を起こすこともあります。つまり、野菜を細かく刻んだり、皮をむいたり、葉物を切ったりといったシーンには適しているのですが、大きな魚をさばいたり、肉の解体を行うといった作業には不向きとされています。
また、セラミックの包丁は通常の砥石(といし)で研げません。ダイヤモンドシャープナーなどの専用シャープナーを使う必要があり、家庭でのお手入れはなかなか難しいのが現状です。

それぞれの特質や違い、メリットとデメリットが大まかにおわかりいただけたでしょうか? 

メーカーや価格などによって品質は異なりますので、ご紹介した内容はあくまで参考レベルのものとしてください。包丁専門店の店頭を訪れた際には、鋼に勝るとも劣らない切れ味をもち、錆びない特長をもつステンレス包丁も最近では店頭に多く並んでいるようですので、包丁の進化や材質の変化については店員さんに尋ねながら、一本一本比較するのも包丁選びのだいご味といえるでしょう。

包丁の材質を確認して、砥石選びを!

先述したように、包丁の切れ味を保つためには砥石での手入れが必要です。ひと口に砥石といっても「荒砥」「中砥」「仕上げ砥」 といった種類があり、材質や刃線の摩耗具合に合わせた砥石を使うことで、より研ぎやすく、包丁の切れ味も鋭くなります。

ポイントして、どの砥石にするのかを決める前に、砥石は包丁の材質に合わせて選ぶ必要があるため、まずは包丁の材質をしっかり確認しましょう。研ぎ方についてはネットでも画像検索ができますし、砥石の選び方や使い方を学べる講習を行う包丁専門店もあります。

四季があり南北に長い日本は、各地で地域に根差した多様な食材が用いられてきました。日本人の繊細な味覚が、四季折々の豊かな素材を生かすためにさまざまな調理技術、調理道具を編み出してきました。調理器具といっても多種多様なものがありますが、繊細な味覚に応えうる調理器具の代表選手こそ、包丁といえるでしょう。ただし、調理するだけの道具である包丁ではあるものの、その奥行は無限で無数の種類があり、一本一本が独特の美しさと存在感を放っています。料理をするためのアイテムを超えて、そこには日本人の“魂”や“精神”が息づいているのです。

しっかり手入れをした包丁は、半生から一生にわたって使える息の長いもの。ただし、たくさん発売されている多種多様な種類の中から、流行や見た目で選んでしまうと、後悔することになるかもしれません。包丁を選ぶ際は最低限のキホンを知っておくことが肝要です。

── 切れ味、形状やデザイン、握り具合、手入れのしやすさ……をじっくりと吟味して、納得のいく一本に出会うことも、人生における素敵な出会いとなるはず。一期一会の出会いから料理人としての腕を上げ、しっかりメンテナンスを施しながら長くつき合っていけたら、それは本当に素敵なことですね。

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