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水がまろやかになる!伝統的工芸品「南部鉄器」の魅力とは?

伝統的工芸品とは、一定の地域で伝統的な材料や技法により主に手作業で作られたもの。さらに、100年以上前から作られ使われてきたもので、なおかつ、ふだんの暮らしにおいて人々が長く使ってきた日用品という定義があります。

2019(令和元)年11月20日時点で、伝統的工芸品として経済産業大臣より指定されているのは、全国で235品目にも及びます。47都道府県において、いくつもの伝統的工芸品を持つところがあれば、1品目のみというところもありますが、今回は岩手県の伝統的工芸品である「南部鉄器」についてご紹介していきましょう。

南部鉄器とはどんなもの?

「南部鉄器」と聞いてまず思い浮かぶのは「鉄瓶」ではないでしょうか。鉄瓶は大仏様の頭のような独特のデザインが外側に施されていて、黒い鉄色で重量感たっぷり、重厚な趣で南部鉄器の代表といわれています。 

南部鉄器はさびにくく、丈夫で長持ちします。また、保温性が高く、熱が均等に伝わるという特徴があります。先ほど、大仏様の頭のようだと表現しましたが、鉄瓶の表面に見られる丸くぼこぼこしたものは「霰(アラレ)紋様」といわれる南部鉄器ならではのデザイン。この意匠こそ、鉄瓶が肉厚になり表面積が増える、つまりは保温効果が増すという先人の知恵でもあるのです。内部はもちろん、外部にもさび止めが加工されていて、ほんの少し使い方に注意して使っていくことで、南部鉄器は一生モノとして使える道具となります。 

さらに、南部鉄器の利点としては、鉄瓶でお湯を沸かすと水がまろやかになると言われていること。これは、水の中に含まれているカルシウムやマグネシウムなどのミネラル分が鉄瓶の内部に付着するために、水が軟水化して口あたりが柔らかく飲みやすくなるのだそうです。また、南部鉄器を使って沸かしたお湯には鉄分が溶けだすので、鉄分を吸収できるとも言われています。

なぜ南部鉄器という名前?

ところで、なぜ南部鉄器と呼ばれているのかをご存じでしょうか? 

南部鉄器の起源は17世紀の中頃、江戸時代です。今の岩手県盛岡市である南部藩で藩主が京都から釜師を招いて茶の湯釜を作らせたことが始まりと言われています。盛岡周辺では質の良い鉄の資源に恵まれていたため、南部藩では各地から鋳物師を呼び寄せるなど、鋳物の保護育成に力を入れていました。 

藩主が茶道を推奨していたこともあり、当初は茶釜が製造されていましたが、18世紀には茶釜を小ぶりに改良した南部鉄瓶が誕生しました。小さなサイズにした茶釜に持ち手のつると注ぎ口をつけて、片手でお湯が注げるようにしたのです。そのため、手軽に使えると人気を集め、鉄瓶は一般庶民にも広く親しまれるようになっていきました。 

また、現在の岩手県奥州市でも伊達藩の頃から日用品としての鋳物が盛んに作られていました。そのため、盛岡市周辺と奥州市周辺で作られているものが「南部鉄器」と呼ばれ、伝統的工芸品に認定されているのです。

南部鉄器の制作工程 その1

伝統的工芸品としての南部鉄器には伝統と格式があります。主な製品には前述の通り、茶釜や鉄瓶、花器や風鈴などがありますが、ここでは代表的な鉄瓶の作り方を簡単にご紹介しましょう。

鉄瓶の製法は、砂や粘土で作られた鋳型に溶かした鉄を流し込む「焼型法」です。まずは鋳型の原型をつくるところからはじまり、ひとつの原型からはひとつの製品しか作れないため、職人には熟練の技術が必要とされます。

1.作図・デザイン

作りたい鉄瓶をデザインし原寸大の図面を作ります。それをもとに木型(現在は鉄製)をつくります。

2.鋳型の作成

実型(さねがた)という枠に砂や粘土を入れ、木型を回しながら鋳型を作ります。

3.紋様つけ

 作った型が乾燥しないうちに、内側に霰(アラレ)紋様をひとつずつ捺(お)してつけます。

4.肌打ち

 独特のざらざらした味わいを出すために鋳型に砂をつけて肌打ちをしたら、約900度で焼き固めます。

南部鉄器の制作工程 その2

画像はイメージです

続いて、鋳型の中側に入れる中子(なかご)を作って組み立てたら、中子と鋳型の間に「湯」と呼ばれる溶かした鉄を柄杓(ひしゃく)で受け、鋳型に流し込んでいきます。鉄はキュポラや甑(こしき)ともいわれる溶解炉や電気炉を使って1400~1500度で溶かされ、鮮やかな赤味を帯びたオレンジ色となり、ドロドロとしています。それを冷やして固まった後で型から外すと、溶けた鉄がはみ出して固まった個所があります。それをバリと呼びます。

5.中子作り

砂に埴汁(はじる)を合せて中子型を作ります。埴汁は粘土を水で溶いたものです。

6.鋳型の組み立て

鋳型に中子をはめ込んで組み立てます。鋳型と中子の間が鉄瓶の厚みになります。

7.鋳込み(いこみ)

1400度で溶けた鉄(湯と呼ばれる)を柄杓で受けて、鋳型に流し込む「鋳込み」を行います。

8.型出し

冷えて固まったら、鋳型を外し、中子を崩して、はみ出したバリを取って形を整えます。

南部鉄器の制作工程 その3

鉄が固まって形を整えたら金ブラシなどでこすって磨き上げ、釜焼きをします。金気止め(かなけどめ)処理ともいわれる工程で、南部鉄器ならではの技術です。約900度の高温で30分ほど焼くことで鉄の表面に酸化被膜ができ、さびにくくなるのです。また、うるしを外側に焼き付けていくことで、さらなるさび止めの効果を発揮します。

ちなみに、鉄瓶を使用する際に内側を洗ってはいけないという注意事項が書かれていますが、その理由はまさしくこの酸化被膜を傷つけないためです。南部鉄器を長持ちさせるためには必須事項だと覚えておいてください。

9.釜焼き(金気止め)

南部鉄器独特の技術で、さびを防止するために約900度の炭火の中に鉄瓶を入れて焼きます。

10.研磨と漆塗り

外側を研磨したら鉄瓶を200~300度に加熱し「くご刷毛」で漆を焼きつけていきます。

11.着色

100~150度になったら「おはぐろ液(鉄のさびとお茶を混ぜたもの)」を塗って黒く着色します。

12.つる付け

ていねいに拭きあげ、専門の職人が作ったつるを取り付ければ、鉄瓶の完成です。

伝統の技を継承する職人たち

このように代々受け継がれてきた工程ひとつひとつを熟練の技術を持つ職人がこなしていくことで、伝統的工芸品である南部鉄器が作られています。その工程は細かく記載すると実に多く、上記の通り簡単に記しただけでもすべてが一から始まり、しかも手作業で行われていることがおわかりいただけたのではないでしょうか。 

伝統的な技法を継承している鋳物技術の数々は高度かつ複雑な工程であり、その習得には長い時間を経なければなりません。南部鉄器の職人として一人前になるにはもちろんのこと、伝統工芸士として活躍するにはさらなる年月が必要です。ましてや、意匠を凝らした鉄瓶を作るとなると、経験や勘に加え、独特の高度な技術が求められますが、南部鉄器の制作はプロセスを大切にコツコツと慎重に進めていくことであり、そこに南部鉄器の質実剛健さがにじみ出ているのかもしれません。 

作業場は炉を使うため高温となり、鋳込みや金気止め処理などでは1000度を超える鉄を扱うという危険も伴います。現場では細心の注意を払って作業が行われています。また、その一方で、新しいデザインを考案し、霰紋様を一つずつ付けていく繊細な工程もあります。このように危険かつ細かく複雑な作業をこなしていく職人たちには特に専用の作業着や作業服はないようです。動きやすくあらゆる工程の邪魔にならないような服装で、先人が築いてきた技術と知恵の数々を今後も後世に伝えていくことでしょう。

海外で人気のカラフルな急須は伝統的工芸品ではない?

江戸時代から400年もの歴史を持つ南部鉄器。鋳物産業として昔から親しまれ、使い続けられてきた中で、伝統工芸が今後も生き残るべく、新しいモノづくりにトライしている工房や企業があります。 

ある南部鉄器の会社がパリの紅茶専門店から「カラフルな急須を作ってほしい」という注文を受けました。南部鉄器は漆を使うため黒い色をしているのが定番です。そこで、その会社では安全な着色料を使うことをモットーに研究を進め、新商品の開発には3年を費やしました。いざ完成した製品を納品すると、大反響を呼び、パリだけでなく、瞬く間にヨーロッパ中を席巻することとなったのです。現在、海外ではその急須を制作した会社名の「IWACHU(岩鋳)」が南部鉄器の代名詞となっています。

日本でも逆輸入のような形でこの話題が伝わり、カラフルな急須が注目を集めていますが、ここで注意してほしいのは、これらの急須は伝統的工芸品としての南部鉄器とは違う、ということ。急須の中はホーロー加工され、鉄瓶のように直火では使えませんし、鉄分の補給もできないのです。欧米では硬水が使われていて、日本のように鉄分を摂取するという発想がなく、直火では使う必要がないのですね。 

その点、日本を含むアジアではやはり本来の南部鉄器である鉄瓶を買い求める人が多いのだとか。伝統的工芸品としての南部鉄器である茶釜や鉄瓶などを使用するにあたっては、まろやかな水を飲み、鉄分を摂取するという実用的な面とともに、大切に使うことでその経年劣化をも楽しむという、侘び・寂にも通じるものがあるのかもしれません。

── 伝統的工芸品には類似した製品との区別を図るべく、経済産業大臣指定伝統的工芸品のシンボルマーク(伝統証紙)が付けられています。購入する際には正しい品質管理がされていることを示す、このマークを確認してください。また、南部鉄器を使い始める前には必ず取扱説明書をよく読んで、注意点を守ることをおすすめします。一生モノとして大切に使い続けるために……。

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