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左官の仕事、技術、さらには資格、文化、魅力について徹底解説!

「左官(さかん・しゃかん)」とは、建物の壁や床を、専用の鏝(こて)を用いて塗り仕上げる仕事を指します。そうした仕事に携わる職人のことを、そのまま「左官」、あるいは「左官職人」などと言います。

日本、あるいは世界の建築には、古くから不可欠な技術・職人であったわけですが、近年の建築では、石膏ボードに壁紙を貼ることも多くなっています。そのため、左官の伝統技術を受け継ぐ職人が急速に減っているのが実情です。

── ここではそんな左官の仕事も魅力や仕事の内容を解説し、その技術や文化などについて紹介しましょう。

左官の魅力って、どんなところ?

左官仕上げの魅力は、第一にシームレスであることです。「シームレス」とは途切れのない、継ぎ目のない、縫い目のないといった意味の言葉ですが、左官は壁や柱などを継ぎ目なく塗り込み、平面だけでなく立体を作ることもできる技術を有した人のこと。加えて、その仕上げ方法が実に多彩だということも左官の仕事の大きな魅力です。

左官の仕事・技術は、例えば次のような方法があります。

●鏝(こて)で、均一に塗り込む

●刷毛やほうき、スポンジ、剣山などを巧みに使ってさまざまな表情を出す

●削る、引っ掻く、研ぐなど、いろいろな動作によっても無限の表情を出す

これら多彩な手法を用いて、装飾性豊かな表現ができることも左官の魅力といえるでしょう。

材料の特性、機能性を見極めることも左官の技術

また、土や砂、石灰などの左官材料は、吸湿性に優れているものが多く、建築物の室内環境を快適にする働きも持っています。

さらに土壁や石膏は、その材料自体が水分を保持しているために火災の延焼を防ぐ役割も持っています。もちろん、化学材料を使用しないので、燃えた場合も有毒ガスを発生させることもありません。また、土などは壊しても再利用することができるので、地球環境のためにも有効です。

古くから建築に使われてきたのは、その機能性の高さにも由来しているのです。

左官の名前の由来はどこから?

ところで「左官」という名前は、技術名としても職業名としても違和感があります。左官という名前には、どのような由来があるのでしょうか。

3つの説があります。

【官職名だったという説】

 昔は、宮廷に入るためには官位が必要だったことから、職人が立ち入るために「左官」という官職をつけたという説。

【大工を「右官」、壁塗りを「左官」とする説】

 昔は骨組みを作る大工と、下地から化粧をする左官が重要な仕事とされました。そこで大工を「右官」、壁塗りを「左官」と呼んだという説。これは俗説とも考えられています。

【階級からとった説】

 平安時代に宮殿の建築に携わる組織を「木工寮」と呼び、その階級で、下記の序列があったといいます。

1.守(かみ・大工)

2.介(すけ・桧皮葺き大工)

3.掾(じょう・金物大工)

4.属(そうかん・壁塗り職人)

これが壁塗り職人の「属」が「そうかん」から「さかん」という音になり、のちに「左官」の字を当てたという説になります。

はっきりしたことはわかっていませんが、③の説が最も有力とされています。

左官という字が古文書に残っているのは江戸時代初期といわれ、元禄時代には左官が定着したようですが、いずれにしても、古くから長いこと受け継がれてきた伝統技術と職業であることは間違いありません。

実に多彩な、左官の仕上げ技術

左官の仕上げには、材料や技術によって実にさまざまな表情があります。ここで代表的な仕上げについて説明しましょう。

【漆喰】

左官の代表的な仕上げのひとつが漆喰です。漆喰は、主に石灰を成分とした左官の材料です。作業性を高めるため、石灰にスサ(繊維)と糊分を練り混ぜて作ります。その歴史は非常に古く、奈良時代からあったといわれています。

防菌・防カビ・調湿効果が高いため、日本のお城やお寺の白壁によく使われているのを見ることができます。また、模様づけや色づけなどのアレンジも簡単なため、一般にも広く普及しています。

【土佐漆喰】

土佐漆喰は糊分を入れないこと、色が薄いベージュであること、雨風に強い点が通常の漆喰と異なる特徴です。土佐(現在の高知県)で独自に作られてきた漆喰で、台風が多い地域性のため、通常の漆喰よりも強度があり、雨風に強いものが発達していったと考えられています。

土佐漆喰の最高級の仕上げは、表面に光沢のある磨き仕上げ。非常に手間のかかる作業が必要ですが、完成すると顔が映り込むくらいの光沢を出すことができます。薄いベージュ色の場合、時間の経過とともに白くなっていきます。

【大津壁】

大津壁は、滋賀県大津地方で生まれた仕上げ技法で、日本の塗り壁の最高級仕上げ技法のひとつとして全国的に有名です。材料は石灰をベースに粘性のある左官用色土と、水によく溶けるスサを混ぜて作ります。

紙一枚くらいの厚さしかない、非常に薄い繊細な仕上げとなることが特徴です。表面はぼんやり光る仕上げと、顔が映るくらいの鏡面仕上げとがあります。表面を固く絞ったきれいな布で拭くなど、きちんと手入れを続ければ長年にわたって美しいツヤを保てます。

【聚楽壁】

日本独自の、ごく薄塗りの土壁の仕上げ。本来は京都・聚楽第の付近で産出した褐色の土を使った壁でしたが、現在は薄塗りの繊細な仕上げの土壁を聚楽壁、聚楽仕上げ、あるいは京壁などといいます。

材料は色土・みじん砂・みじんスサ・糊(入れない場合もある)で、仕上げ方法は大きく「水捏ね仕上げ」「糊差し仕上げ」「糊捏ね仕上げ」の3種類に分けられます。土の風合い、みじん砂やスサの量や大きさなどによって、その表情は大きく変わってきます。

聚楽壁

【樹脂系】

樹脂系の左官仕上げは、アクリルやウレタン、エポキシなどの樹脂の力で固める左官のこと。色むらが発生しにくい、クラック(ひび割れ)が発生しにくい、作業効率がよい、作業後の排水が少ない、表面に強度がある、水洗いできる……など、従来の左官材料の欠点をカバーします。

左官は古くから自然素材を使うというセオリーがありますが、樹脂系でも自然素材に近い風合いのものもあります。ただし、樹脂系は比較的新しい左官材料であるため、長い年月での耐久性などについての評価が定まるのはまだこれから、となりそうです。

【研ぎ出し】

研ぎ出しとは、セメントと種石を混ぜたものをしっかりと塗りつけ、硬くなった状態を見ながら砥石やオービタルサンダーという工具で研ぎ出す工法のこと。仕上げには表面にワックスを塗ってツヤを出し、学校の足洗い場、滑り台などに用いられます。

継ぎ目がなく、デザインの自由度が高い点が特徴とされ、立体的なデザインの施工も可能です。

【種石洗い出し】

種石洗い出しは、セメントモルタルに砂利や色石などを混ぜた材料を塗り、完全に固まってしまう前にブラシなどで水洗いして表面のセメントを流し、石の頭を出す仕上げのこと。玄関のたたきなどに用いられています。

種石の大きさや種類、モルタルの色の組み合わせなどによって、仕上げのバリエーションが広がり、さまざまな表情を演出できます。

左官に必要な道具といえば、まずは鏝(こて)

左官が使う鏝は、実にさまざまな種類があります。

【厚く硬い鏝】

いわゆる金鏝で、モルタルや荒壁など、重い材料を厚く塗るときは、厚く硬い鏝を使用します。材料の重さに負けず、平滑に仕上げるためには力と技術が必要です。

【薄い角鏝(ペンギン鏝)】

漆喰の模様づけや珪藻土仕上げなど、薄塗りをする場合は、ステンレス製で適度にしなる薄い鏝、通称ペンギン鏝を使います。

【木鏝、プラ鏝、ゴム鏝】

金鏝以外にも、木、プラスチック、木とプラスチックを組み合わせたもの、ゴムなど、いろいろな素材の鏝があります。鏝表面の素材の密度によって、仕上がりの表情が変わってきます。

鏝は、持ち手の「柄」、「鏝台(金属の部分)」、柄と鏝台をつなぐ「首」の3つから構成されています。構成はシンプルですが、その素材や形などがさまざまあり、日本の左官職人が使う鏝は1000種以上もあるといわれています。用途に合わせて使い分けることで、効率よく作業できます。

【鏝以外の道具】

仕上がりに表情をつけるのは鏝だけでなく、スポンジ、刷毛、ワイヤーブラシなどを用いることもあります。鏝で塗りつけた後、表面に装飾やパターン模様を生み出すことができます。

また、材料を攪拌(かくはん)するための攪拌機をはじめ、材料や水を入れるバケツ、壁や土間の水平垂直などを測る定木、材料が半乾きの時に上に乗っても沈み込まないモルタル用下駄など、数多くあります。

左官のキャリアアップ

一般的に左官になるために、特別な資格は必要ありません。左官会社に就職するか、先輩左官職人のもとで見習いや弟子として、仕事を教えてもらいながら雑用をこなすことがキャリアのスタートとなります。学歴はもちろん不問です。

しかし、そこは厳しい実力の世界。

「とりあえず左官でもやってみるか」といった甘えた態度では一人前にはなれないでしょう。その反面、熱心に親方・先輩の言葉を聞き、自分で努力をすることで、技術力を上げていくことができます。「腕がいい」と評判になれば、やがては独立し、自分だけの力で仕事ができるようになり、収入もアップします。

いずれにせよ、最初は親方や先輩の後について現場を体験し、手伝い、後片付け、そして材料を練ることなどから始まります。そして、下地の塗り作業などから徐々に基本を学んでいくことになります。

人によって異なりますが、左官仕上げ技術の習得には、少なくとも3〜5年、本当に独り立ちできるのは10年以上かかるといわれています。

近道はありませんが、とにかく親方や先輩の技術を見て学ぶことが大事です。日本の古い職人気質の親方などは、言葉では教えず「技は盗むもの」といった考えの人もいます。先輩の動きのすべてを余すことなく観察し、記録し、考え、覚えていくことが最大の修業といえるでしょう。

左官の資格①

左官には必要な資格はない、と先ほどいいましたが、確かに法的には資格や免許は不要の仕事です。しかし、左官にも資格はあります。それは、国家技能検定である「左官技能士」です。これは、働く人々の有する技能を一定の基準により検定し、国として証明する国家検定制度です。

技能検定には、特級、1級、2級、3級に区分するもの、単一等級として等級を区分しないものがあります。それぞれの試験の程度は次のとおりです。

試験は、検定職種ごとに実技試験及び学科試験があります。合格基準は、100点を満点として、原則として実技試験は60点以上、学科試験は65点以上となっています。

ちなみに、実技作業試験内容では、以下のようになっています。

1級/壁、天井およびそで壁の一部と仮定された下地に所定の塗り仕上げを行う。試験時間=5時間15分

・下吹きされた吹付け下地(普通合板)に仕上げ吹付けを行う。試験時間=10分

2級/壁およびそで壁の一部と仮定された下地に所定の塗り仕上げを行う。試験時間=5時間15分

・下吹きされた吹付け下地(普通合板)に仕上げ吹付けを行う。試験時間=5分

左官技能士の資格を得ることができれば、左官職人として断然有利になります。法律や営業上必ずしも必要ではないにしても、ぜひ取得をめざしたいものです。

左官の資格②

左官の資格はもうひとつあります。それは「登録左官基幹技能者」です。これは「高い左官技能を有し、技術者に施工方法の提案を行い、他職種の上級職長との工程等の調整を行い、部下の左官技能者に対しては、適切な指導や統率を行う者」として、国土交通省に登録された機関による一定の講習を修了した者をいいます。

登録基幹技能者講習の修了者は国土交通省による経営事項審査(公共機関からの仕事に応募するときの審査事項)で加点評価されます。つまり、公共事業を行う際に有利に働く資格ということになります。

登録左官基幹技能者は、一定の能力水準を保持し、技術進歩や法令改正等に対応した能力を習得する必要があるとされるため、5年ごとに「更新講習」を行うことが定められています。

左官の現在と、今後の可能性……

一時は減少傾向にあった左官ですが、いま再び注目を集めるようになっています。その理由は3つあると考えられます。

①【耐震工事・補強工事の増加】

大きなビル建設では、左官の活躍の場は少ないように見えますが、タイルや塗装の下地のモルタル工事、階段のモルタル工事、コンクリートの欠けなどの補修と、細部には左官の腕の見せ所はたくさんあります。

また、東日本大震災以降、耐震工事や補強工事などが増加していることは周知の通りです。耐震工事などでは、セメント系の材料を使用することが多く、それこそが左官の活躍の場となります。この分野はこれからも、左官の仕事が増加していくと見込まれています。

②【自然派健康ブームの影響】

近年の健康ブームの影響もあり、漆喰や珪藻土などの調湿仕上げの左官が見直されつつあります。体にやさしく、日々の生活にぬくもりや安らぎをもたらす左官は、一般建築にも復活傾向にあるのです。

③【左官アーチストの登場】

建築に欠かせない左官ですが、近年は芸術作品としても注目されているものもあります。超一流の左官職人はアーチストとしてメディアでも取り上げられ、彼らの作品は著名な施設のエントランスなどに飾られるようになっています。左官の世界的なアーチストが増えれば、今後ますます人気の職業となっていくかもしれません。

一時は減少した左官ですが、上記のような理由で再び増加傾向にあります。しかし、現状は職人の高齢化が進むなど、伝統技術の継承が難しくもなっています。そのため今日では、業界をあげて若い職人の育成に取り組むようになっています。各地で技能講習会やワークショップが開催され、左官の伝統技術を伝える努力がなされています。

左官職人やりがいとは

最後に、左官職人のやりがい、誇り、将来性について考えてみましょう。

先に、左官の魅力・メリットとして火災に強いこと、室内環境を快適にしてくれること、エコロジーであることなどを紹介しました。ではデメリットにはどのようなことが考えられるでしょうか。

左官の最大のデメリットは、職人によって仕上がり具合に差が出やすいということにあります。上手な職人、下手な職人で、左官の表情はまったく異なってきます。また、作業に時間もかかるので、どうしても工期が長くなりがちです。

実はこれらのデメリットこそが、左官職人のやりがいにつながってくるといえるのではないでしょうか。

職人の腕前によって仕上げに差が出やすいのであれば、誰よりもきれいに仕上げればいい。

あるいは、工期に時間がかかるのであれば、いかに効率よく、スピーディに作業が進められるかをじっくりと考えればいい。

そのあたりで他の職人と差をつけることができれば、どのような現場からも引く手あまたな左官職人になることができるわけです。

そうやって他の職人と差をつけていくことを積み重ねていけば、やがて超一流の左官職人としてのブランドを作り上げることができます。あるいは、左官アーチストとして世界を舞台に活躍できる日も来るかもしれません。

── 左官という仕事には、そんな夢や将来性があるのです。

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