【メカの秘密シリーズ】ブルドーザーが怪力なのは、なぜ?
2021.01.29道路やビル建設の工事現場で大活躍するブルドーザー(bulldozer)。
驚異的な怪力で大量の土砂や岩を押し動かすブルドーザーは、小さな子どもにも大人気の“はたらくクルマ”の代表格です。ブルドーザーは自身の重量の2倍もの重さの物体を動かすことができると言われ、工事現場にはなくてはならない存在となっています。
では、ここであなたに質問です。
ブルドーザーはどうしてあのようにものすごいパワーを発揮できるのでしょうか? この質問に、あなたは正しく答えることができますか?
今回は、工事用作業車の中で最も力持ちであるブルドーザーの秘密について探っていきましょう。建設現場で働く人はもちろん、自動車好き、メカ好きの人にとっても興味深い内容ですよ。
“横綱級パワー”を発揮するブルドーザー
ブルドーザーは、地面を削り取ってその土砂などを押し運び、車体の重さで地面を押し固める建設機械。主に土砂のかきおこし、盛土、整地のために用いられ、多くの建設現場で使われています。山や森を切り開いて道路を造る、荒地を整地して建物を建てるなどといった場合には必要不可欠な存在と言えます。
ブルドーザーの大きな特徴としては、まず車体前面に装備されたがっしりした「ブレード」が挙げられます。ブレードとは刃や刀を意味する言葉ですが、ブルドーザーのそれは地面を削り取り、その土砂を押し運ぶための頑丈に作られた板状のもの。「ブレード」とひとくちに言っても、多くの土砂を運べるように深くえぐられた形状のものや、樹木を掘り起こるように先端を尖らせた櫛のような形状のものなど、さまざまなものがあります。作業目的に合わせ、このブレードを付け替えることができることも大きなブルドーザーの特徴となっています。
また、どのような荒地でもスムーズに走行でき、大きな力を発揮できるのは、車輪ではなく「クローラー」と言われる足まわりを装備しているから。「シュー」と呼ばれる鉄の板を帯状につないだもので、一般的には「キャタピラー」とも言われますね。これは戦車などにも装備されており、接地面積が大きいために地面をがっちりとホールドし、どんな荒地でも安定した走行ができます。
大型ブルドーザーには、その後部に「リッパー」という大きな爪が装着されています。これは前面のブレードだけでは作業しにくい環境で使われるもので、岩を砕いたり、固い地面に突き刺して掘り起こしたりする役割を果たします。金やダイヤモンドの鉱山、砂利などを取る採石現場などで使用されていることが多いようです。
ブルドーザー誕生の歴史を振り返ってみよう
そもそもブルドーザーは、どうしてブルドーザーという名称になったのでしょうか。
一説によると、その語源は「ブルドーザーの出現によってBull(雄牛)が暇になって居眠りする(doze)から」というものも。また、スラングで「bull’s dose」は「強引に推し進める」というような意味もあります。
いずれにせよ、ブルドーザーの出現以前は、馬や牛を使って荒地を整地したり、耕したりしていたことがうかがわれます。その仕事をブルドーザーが請け負うようになった長い歴史があります。
ブルドーザーの起源をたどると、今からおよそ100年前に遡ります。1800年代半ばから米国では農業用トラクターが使用されていましたが、それに土を押し運ぶためのブレードを装着したものが1923年に登場。これがブルドーザーの原型と考えられています。
日本では、第二次世界大戦前までブルドーザーはほとんど普及していませんでした。日本で初めてブルドーザーを開発したのは、現在でも重機の製造・販売をしているコマツ(小松製作所)です。
大戦が開幕して間もない1942年、日本帝国海軍は占領したウェーク島に米軍が放置していったブルドーザーを入手。これをもとに、帝国海軍はコマツに国産ブルドーザーの開発を依頼し、翌1943年にわずか1カ月というスピードで国産初となる「G40ブルドーザー」の開発にコマツは成功します。戦時下ということもあり開発を急されたこともスピード開発の大きな理由となったようですが、そのほかの要因として、コマツが以前に開発した「G40型ガソリントラクター」を車体に流用したため、短期間での開発が可能だった……ともいわれています。
このG40ブルドーザーは終戦までに148台が製造され、各地で活躍。以前は設営に2カ月かったという飛行場の設営が、G40を使えば3週間でできたといいます。戦争のために開発された国産ブルドーザーでしたが、その後、平和を支えるインフラ整備の場に欠かせない重機となり、現在では世界市場の半分をコマツの製品が占めるまでになっています。
ブルドーザーが怪力を発揮する秘密
ブルドーザーが工事用作業車として、どの重機にも負けないほどの怪力を発揮するのには大きく3つの秘密があります。
クローラー
前項でも説明しましたが、クローラーはシューと呼ばれる金属製の板(素材にはいろいろあります)をつなぎ合わせたベルト式の足まわりのこと。このクローラーが荒地でも、ぬかるんだ地面でも噛むようにガッシリとらえるため、しっかりと前進することができます。ブルドーザーのクローラーは、滑らないように突起形状や幅を広くするなど工夫されています。ちょうどスポーツで使うスパイクシューズのように地面に食くい込むことで、大きな押し出す力を発揮できるのです。
ギア比
ブルドーザーの強力な力の源は、排気量の大きなエンジン自体にありますが、それをパワーに変えるギア比によるところも大きな要因です。エンジンの回転ともにまわるギアを大きくし、それに接続して車輪を回すギアを小さくすると、車輪は高速で回転しますがそのぶん力(トルク)は弱くなります。
反対にエンジン側のギアを小さくし、車輪側のギアを大きくすると、スピードは出ませんがパワーは大きくなります。したがって、前者のギア比はスポーツカーなどに使われ、後者はブルドーザーなど、強大な力が必要とされる車両に使われるのです。
車体の重さ
例えば、同じ程度の排気量を持つ自動車とブルドーザーを比べると、ブルドーザーは自動車よりも車体重量はおよそ10倍も重く作られています。一方、スピードは、自動車は100キロ以上の速度で容易に走行できることに対して、ブルドーザーは10キロ以下しか速度を出せません。つまり、車体を重くし、速度を遅遅くすることで、ブルドーザーはより大きな力を出せるのです。
ブルドーザーにはどんな種類がある?
ひと口にブルドーザーと言っても、その作業目的や使用環境によってさまざまなタイプのものがあります。ここでは、その一部を紹介しましょう。
ドーザーショベル
「トラクタショベル」「ショベルドーザ」などとも言います。ブレードの代わりに強靭、かつ巨大なバケットを装備しており、土砂を盛ったりトラックに積み込む作業ができます。ブレードを動かす仕組みと同様に、油圧式リフトシリンダーでバケットを動かします。これは、シリンダーに油を出し入れすることでピストンを伸縮させる仕組みです。
トリミングドーザー
両面を使用することが可能なブレードを装着したブルドーザーです。そのため、進行方向に土砂を押すだけではなく、バックしながら土砂を引き寄せることも可能です。土砂のかき寄せ作業ができるので、工事現場では重宝されます。
水陸両用ブルドーザー
文字通り、陸上でも水中にも使えるブルドーザー。1968年にコマツが開発し、遠隔操作する作業車(重機)の最初の例とも言われ、浅瀬や狭い水路での作業を行うために使われていました。操縦は車体上部に組んだやぐらの上か、陸地から無線で行いますが、1993年、残念なことに生産は中止となります。
しかし、東日本大震災が発生した2011年。コマツは採算を度外視し、その英知を結集して、老朽化した旧モデル(D155W)の改修を買って出ます。この決断によって、長い眠りについていた水陸両用ブルドーザーD155Wは、全パーツをオーバーホールして見事に復活! 幅約4000mm、奥行き約9300mm、高さ約9700mm、重量約43500kgにおよぶ大型の水陸両用ブルドーザーは、大津波によって破壊された宮城県閖上(ゆりあげ)大橋橋梁復旧工事において、素晴らしい活躍をなしとげ、「スイブル」の愛称で親しまれることに。
何より、水陸両用ブルドーザー特有の煙突から黒煙を吐きあげるその勇姿は、復興のシンボルとして人々に勇気と感動を与え、偕成社の「はたらくくるまの絵本」から「スイブル」を主人公にした物語も刊行されたのです。
世界に誇る日本の技術が結集した「スイブル」は、青木あすなろ建設で5台保有されており、現在も稼働中とされています。ネットで「水陸両用ブルドーザー スイブル」と検索すると、「復興へ頑張ろう!宮城」の文字が車体に掲げられた「スイブル」の勇姿を確認できますので、ぜひご覧になってみてはいかがでしょうか。
水中ブルドーザー
海底を走行し、作業を行う特殊なブルドーザー。ダイバーによる有線遠隔操縦によって作業が進められます。動力にはエンジンではなく、電動モーターが使用されています。
軍用ブルドーザー
戦時中に発達したブルドーザーだけに、現在も軍事用に使われることは多くあります。整地や塹壕掘り、バリケード破壊などに用いられます。民生品を改造したものと、最初から軍事用として開発されたものがあります。戦車と同等のスピードで走行できるブルドーザー、敵の砲弾に耐えられるよう、弾片や小銃弾に対する装甲仕様のブルドーザーなどがあります。
これからもずっと、“はたらくクルマ”の代表格として
現在、国内のブルドーザーの台数は年々減少しており、都市部では滅多に見かけなくなったかもしれません。これは先進国に共通したことで、ブルドーザーで整地しなくてはいけないような荒地が徐々に少なくなっていることを表しています。一方で、発展途上国ではまだまだブルドーザーが活躍するシーンは多くあります。
幼い幼児にも人気が高く、“はたらくクルマ”の代表として、ブルドーザーはいつだって工事現場の花形。これからも人々がより快適に暮らせるよう、インフラを構築し、インフラを守る最前線で活躍し続けることでしょう。その勇ましい姿を、ぜひいつまでも私たちに見せ続けてほしいものですね。
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