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【メカの秘密シリーズ】巨大な船が沈まず安定航行できる秘密とは

スマートフォンを水没させてしまった!などという話はよく聞きます。スマートフォンに限らず、鉄のかたまりを水に落とせばあっという間に沈んでしまいますね。例えばもっと小さなコインであっても、鉄のかたまりは水に沈む。これは誰もが知っている常識です。

では、スマートフォンの何倍も大きく重い鉄製の巨大な船が、海の底に沈まないのはどういうわけでしょうか。その原理をなんとなく知っていても、きちんと説明できる人は少ないのでは? そこで今回は、客船やタンカーなど、巨大な船がどうして沈まず、なおかつ安定的に航海できるのかということについて、そのメカニズムに迫っていきましょう。

世界一大きな船はどれくらい?

画像は2018年7月にハンブルクに向けて航行中のコンテナ船「MOL Treasure」のサイズも超ど級!

ひとくちに「船」といってもさまざまなものがあります。一人乗り用のカヌーから、乗員・乗客が1000人以上になるような豪華客船、大量の原油やコンテナなどを運ぶタンカーや貨物船まで、目的や用途によってそのサイズや形などにはいろいろです。船にはさまざまなタイプがあるわけですが、それでもひとつだけ共通点があります。それはズバリ「水に浮かぶこと」。当然ですが、水に浮かばなければ、船としての使用目的にはかなわないのですから。

大きな船といって思い出されるのが豪華客船です。そのサイズはどれくらいのものでしょうか。例えば人気の日本の客船「飛鳥Ⅱ」は、全長241メートル、全幅29.6メートル。このサイズの船に、旅客定員872名、乗員約470名が乗り込みます。世界的に有名な「クイーン・エリザベス2世号」は飛鳥Ⅱよりひと回り大きく、全長293.5メートル、全幅32.03メートルで、旅客定員1778名、乗組員1016名です。

貨物船ではもっと大きなものがあります。世界最大のコンテナ船とされるのは「MOLトライアンフ」。全長400メートル、全幅58.8メートル、積載重量19万2672メトリックトン(1メトリックトン = 1000キロ)、積載コンテナ数2万170TEU(20フィートコンテナ1個分は1TEU)もあります。

参考までに記しておくと、太平洋戦争時に建造され、当時世界最大の戦艦といわれた「大和」は全長263メートル、全幅38.9メートルで、全長241メートルの飛鳥Ⅱよりも大きな船だったことがわかります。大和はわずか3年余りで撃沈されてしまったにもかかわらず今なおファンが多い名艦として知られますが、「大和」を建造した広島県呉市の「大和ミュージアム」のシンボル「大和ひろば」には、縮尺10分の1サイズで精密に制作された大和が展示されています。10分の1ながらも、そのスケールには驚かされる人が多いそうですよ。

ちなみに日本で最も大きなビルである「あべのハルカス」の高さは300メートル。ニューヨークのエンパイヤステートビルは381メートルです。世界に名だたる高層ビルよりも大きな船が、水に浮かび、波や風の影響を受けながらも安定的に航行するのですから、その仕組みがどうなっているのか興味がわいてきますね。

大和ミュージアム(呉市海事歴史科学館)の「大和ひろば」に展示されている10分の1スケールの「戦艦大和」

船が沈ませないパワーの秘密は「浮力」

では、どうしてあんなにも大きな金属製の船が海中に沈んでしまわないのか、その秘密に迫っていきましょう。

答えはズバリ、船に「浮力」という力がはたらいているから。

浮力とは「水などの流体の中にある物体に作用する、重力と逆方向の力」のことです。船を水に入れると、船の上面には下向きの力がはたらき、船の下側には水圧によって上向きの力がはたらきます。このときの下向きの力が重力、上向きの力が浮力です。

鉄は水よりも7.9倍も重い物質です。したがって、最初に言ったスマートフォンやコインのように、鉄のかたまりであればそのまま沈んでしまいます。しかし、その重い鉄も中身をくり抜けば体積は変わらず、重量はどんどん軽くなります。こうして船の重量(=重力)が、船を押しのける水の重量(=浮力)よりも軽くなれば、船は浮かぶことができるわけです。

浮力の大きさは、物体の水中にある部分が押しのけた水の重さと同じになります。例えば1リットルのペットボトルを全部沈めると、水1リットル分(約1kg)の力が上向きにはたらきます。実際の船では、水に沈んでいる船底部分が押しのけた水の重さと同じ大きさの浮力がはたらいていることになります。そしてこれが船全体の重さが同じになります。このしくみは、古代ギリシャのアルキメデスが発見したことにより、「アルキメデスの原理」と呼ばれています。

重さが何万トンもある船では、何万トンもの水を押しのけて、船の重さを支えるための大きな浮力を生み出しています。この浮力が船を浮かせる力ですから、万が一船体に穴があいて水が入ると、浮力が失われて船は沈んでしまうのです。ちなみに、船の大きさを「排水量何トン」などという単位で表しますが、これは水面下で押しのけた水の重量のことで、これが船の重量と一致するのです。

海が荒れても転覆しないのは「復元力」のおかげ

外力によって船体が傾斜したとき、重力と浮力の2つの作用によって元の位置に戻ろうとする力が働く。これが復原力

船が沈まない秘密はわかりましたね。でも、船は沈まなければOKというわけではありません。大シケなどの悪環境にあっても、無事に航行できなくてはいけません。船が簡単に転覆しないのは、「復元力(STABILITY)」という力がはたらいているからです。

船は強い風や波を受けると、左右に大きく傾きます。すると、傾いた側の水につかる部分が増えることになります。このとき、沈み込んだ側の浮力が反対側より大きくなります。傾いた側は反対側より浮かびあがろうとするようになり、船は傾きを修正して元に戻ろうとするわけです。これが復元力、自然の原理なのです。この復元力を得やすくするために、船底の形状は十分に考えられています。

船は構造的にも復元力を高める工夫がなされています。例えば、船は重い設備をできるだけ下のほうに置く構造になっています。これは、重心が下にあったほうが復元力を高めることができるからです。これは、だるまや起き上がり小法師と同じ原理であり、大きなタンカーなどが、原油を下ろしたあとに海水を船内のタンクに入れて航行するのもこのためです。

横揺れ防止の秘密兵器は「フィンスタビライザー」

船の横揺れは、復元力で軽減されると説明しました。復元力は確かに横揺れ防止に有効な力ですが、それ加えて横揺れの軽減効果があると言われているものがあります。それが「フィンスタビライザー」です。

フィスタビライザーは、船底近くの両舷に魚のひれ(フィン)のように、あるいは飛行機の翼のように突き出している金属の板のこと。船が前進するとフィンのまわりに水流が起こり、適切な角度のフィンによって揚力(液体や気体などの流体の中の物体にはたらく、流れの方向に垂直な力)が生じます。その揚力によって横揺れを軽減させる仕組みです。飛行機の翼と同じように、フィンの角度を上げれば上向きの力が発生し、下げれば下向きの力が発生します。状況に応じて左右のフィンの角度を自動的に制御し、横揺れを軽減することができるわけです。

フィンスタビライザーは、船体に沿って流れる水流を利用するため、船の速度が速いほど効果が強く現れます。速度が遅ければ弱くなり、船が停止すればまったく効果を失います。狭い水路を航行するときや波がないとき、接岸時など揺れがないときには、フィンは船体内に格納できるようになっています。

このフィンスタビライザーは、戦前、日本の三菱造船(現三菱重工業)の元良信太郎博士が発明したものであり、現在では多くの客船やカーフェリーなどで使われています。

船の強度を高めて、縦揺れに対抗

船には横揺れだけでなく縦揺れもあります。船首から船尾へと向かう縦波は、船の前・中・後ろでその高さが変わります。それとともに船にかかる浮力は、その部分ごとに変化することになります。すると船には、縦に曲げようという強力な力がはたらくことになります。縦波の問題には「ホギング」と「サギング」があります。

サギング

逆に、船首と船尾が波の頂上に持ち上げられ、船体中央が波の谷間に沈み込むことを「サギング」と言います。サギングでは、船体の中央部に強い下向きの力が加わり、甲板の強度が弱ければ甲板が押しつぶされることにもなってしまいます。船は、サギングやホギングのような曲げの力に耐えられるよう、甲板や外板を特に頑丈に造る必要があるのです。

ホギング

船が、波の頂上に乗ることを「ホギング」と言います。このホギングの状態では、船体の中央部が持ち上げられるようになり、上向きの大きな力がはたらくことになります。このときに甲板の強度が弱ければ、甲板が真ん中から引きちぎられるトラブルを引き起こします。

大きな船が沈むことなく、安定航行できる秘密がご理解いただけたでしょうか。次に船に乗る機会には、浮力や復元力のことを考えながら乗れば、きっと楽しい船旅になることでしょう。

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