建築のプロなら知っておきたい「木材」の基礎知識
2020.09.08日本の建築材料としてもっともポピュラーなものは木材です。都市部でこそ鉄筋コンクリートのビルやマンションが立ち建ち並んでいますが、郊外や地方での住環境としては木造一戸建てが中心。近年は住宅だけでなく、公共的な巨大建物にも木材が積極的に使用されるようになっています。新国立競技場がその好例ですね。
最近の統計を見てみると、着工した建築物における全床面積に対する構造別の割合は、木造42%、鉄骨造37%、鉄筋コンクリート18%となっています。奈良や京都の古寺を例にとるまでもなく、日本の建築物は古の時代から木と深い結びつきを持っており、それは現代でも変わることがないのです。
今回は建築に携わる人、あるいは建築業界を目指す人はぜひとも知っておいてほしい、「木材」に関する情報をまとめてみました。
建材として使用する場合の木材の優位性、自然の樹木をどのように建材にするのかなど、木材に関するさまざまな基礎知識を紹介しましょう。
木材の使用目的は、建築材料によって異なる
建築材料には実にさまざまな種類があります。その分類法もいろいろありますが、代表的なものに用途別分類があります。建築の際、どのような用途によって使用するかの方法で、主に以下の3つに分類されます。
●構造材料
建築物の柱や梁など、主な骨組みに使われる材料のこと。強度や耐久性が求められます。(使用建材例)木、鉄筋コンクリート、鋼材など
●仕上げ材料
建築物の内装や外装の仕上げに用いられる材料。耐久性や保護材としての役割とともに、見た目の美しさも求められます。(使用建材例)木、ガラス、タイル、モルタル、レンガ、ボード、瓦、塗料など
●機能性材料
建築物の機能を向上させるために使用される材料。防水や防火・耐火、防音・吸音などの目的のために用いられます。(使用建材例)木、アスファルト、樹脂、アクリル、ゴムなど
いずれの使用目的でも、木は欠かせない材料のひとつとなっていることがわかります。
木材のメリット・デメリット
木材とは、樹木を伐採し、一定の形に加工したものを指します。木材は、古くから日本の建築の中心的存在でした。科学の発達によって新素材が数多く開発されてきたにもかかわらず、どうしていまだに使用され続けているのでしょうか。木材にはどのようなメリットとデメリットがあるのか、以下にまとめてみました。
●木材のメリット
- 加工性が高い
- 軽量で強いがある
- 湿度をコントロールする
- 熱を伝えにくい
- 温もりや優しさが感じられる
●木材のデメリット
- 腐朽しやすい
- 火災に弱い
- 変形や割れることがある
木材は上記のようなメリットがあるからこそ、これまで長きにわたって日本建築に用いられてきました。もちろんデメリットもありますが、今ではさまざまな新しい技術によって、その欠点を補えるようになっています。
材料となる「針葉樹」と「広葉樹」の違い
木材に加工する樹木には、針葉樹と広葉樹があります。それぞれどのような樹種があり、どのような特徴があるかを下記にまとめました。まずは、針葉樹と広葉樹の違いを理解しましょう。
●針葉樹/マツやスギなど、文字通り“針”のように細い形状の葉が多く、冬でも葉を落とさない常緑樹がほとんど(例外もあります)
●広葉樹/サクラやケヤキなど、文字通り“広”くて平べったい形をした葉が多く、(モミジの葉のような形状や複葉などもあります)、常緑樹と落葉樹がある
●針葉樹
- 特徴/材質がやわらかい、軽い、繊維がまっすぐ、加工しやすい、長大材が手に入りやすい
- 日本産の主な材種/スギ、ヒノキ、マツ、ヒバ、モミ
- 外国産の主な材種/ベイマツ、ベイツガ、ベイヒ
- 主な用途/柱や梁として建物の骨組みとなり、構造全体を支える材料として使われます
●広葉樹
- 特徴/材質が硬い、重い、複雑な組織を持つ、特有な模様の美しい木目を持つ
- 日本産の主な材種/ナラ、ケヤキ、ブナ、カシ、キリ、カツラ、クリ
- 外国産の主な材種/ラワン、チーク、オーク、マホガニー
- 主な用途/ 建物の天井や壁の仕上げ材として使われる他、家具などにも使われます
日本は国土に占める森林面積の割合が70%程度あり、森林資源は豊富にあります。これはスウェーデンやフィンランドなどにも近い高水準ですが、木材の生産量としては北欧諸国の2分の1〜3分の1程度。これは、伐採されずに残っている森林が多くあることを意味しています。今後は大きな木造建築を普及させていくなど、国産木材の使用を積極的に進めていく必要がありそうです。
木材の変形パターンを熟知することも、プロの基礎スキル
木造建築に携わる人ならば、木材は変形する性質があることを理解しておかなくてはなりません。
変形する最大の理由は木材に含まれる水分です。木材に含まれる水分が減少することで木材は収縮して変形し、逆に吸収することで膨潤して変形します。この水分の減少や吸収があり、板状の木材には「反り」「曲がり」「ねじれ」といった変形が生じるため、建築の部材として使用する場合には、あらかじめ木材の変形方向をしっかり想定しておくことが求められます。
収縮と膨潤の度合いは木材の方向、すなわち丸太からどのように木材をとったかによって変わります。木材は丸太からさまざまな方向で加工されますが、その取り方は繊維方向(長さ方向)、半径方向(厚さ方向)、接線方向(円周方向)のいずれかになります。このうちもっとも変形の度合いが高いのが接線方向で、繊維方向の約25倍、半径方向の約2倍の変形率があります。
例えば、接線方向でとった木材を使う場合、年輪の樹心(木の中心)側に凸状に変形します。つまり、このような特徴をもつ木材を方向を間違えて建具に使用した場合、変形して開閉できなくなることがあることを知っておく必要があるわけです。プロであるからには、変形の方向を十分に想定して部材を取り付ける必要があります。
樹木から木材に加工するまでには、多くの工程がある
自生する樹木からどのように木材をとり、製品化して出荷されるのでしょうか。樹木によって多少の差はありますが、おおむね次のような工程を経ます。
まず原木を伐採し、枝や葉を落として丸太にします。その状態で自然乾燥させ、その後丸太の樹皮を剥ぎ、製材工程へと進みます。製材作業では、丸太の長さや径、曲がり、節の位置、割れなど、さまざまな形状の特徴を見極め、もっとも合理的に製材できる個所を決めます。これを「木取り」と言い、製品の用途や求められるサイズに合わせて切断していかなければなりません。製材作業では最重要な工程となります。
樹心を含むように加工された木材を「心持ち材」と言い、それ以外は「心去り材」と言います。
●心持ち材(しんもちざい)/一般的に、吸水率が小さくて腐りにくい特徴を持ち、強度も高いために柱材などに使われます。「心材」などと言うことも。
●心去り材(しんさりざい)/辺材(丸太の外側)になるほど吸水率が高くなり、腐りやすく、弱い材料となります。このため、構造材以外の用途に使われることが多くなります。
木取りが決まった丸太は、まず大まかに切断する「大割り」、さらに製品のサイズに合わせて「中割り」「小割り」と進んでいきます。こうして木材として成形したのち、一定の含水率にするために人工乾燥機にかけたり、あるいは天然乾燥させたりして出荷されます。
このように、樹木が木材という製品になるまでには多くの工程が必要なのです。
「集成材」とは、どんな木材のこと?
木材を接着し、ひとつの材に加工したものを「構造用集成材(単に集成材とも言います)」と言います。集成材は強度を一定に保つことができる上、変形も抑制でき、加えて必要なサイズに合わせて製造できます。このため、長いスパンを掛け渡す梁、大きな力がかかる柱などに活用されます。建築現場では非常に重宝される木材です。
集成材は主に以下の3つに大別できます。
①木材のひき板や小角材を接着したもの
もっともポピュラーな集成材で、木材のひき板や小角などを繊維方向に平行に接着して作るもの。造作用(敷居、鴨居、建具枠などの仕上げ用)と、構造用(柱や梁など用)があります。
②単板(ベニヤ)を接着したもの
木材から切削した単板を、繊維が平行になるように接着して作るもの。LVL(単板積層材)と、PSL(平行ストランド材)があります。LVLは比較的幅のある単板を使い、PSLは単板を細長く割いたものを積層接着させたものです。
③木材の小片を接着したもの
長さ30cmほどの木材の小片を一方向に方向性を持たせて配列し、接着剤によって圧縮成形したもの。OSL(配向性ストランド材)と呼ばれ、主に構造材として用いられます。
集成材は強度が高く、変形もしにくいという、木材の“いいとこ取り”をした材料。これからの木造建築に、さらに普及していく材料です。
── わが国の一戸建て住宅では、今も木造建築が主流です。今後もそのニーズがなくなることはないでしょう。建築に携わる仕事をするのであれば、木材についてより詳しい情報を習得することが大切です。今回ご紹介したプロに必要な「建材・木材」への知識はあくまで基礎的なもの。その業界で活躍するには、基礎知識に加えて五感を使った臨機応変な実践力と、高い経験値が必要であることは言うまでもありません。
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