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基幹輸出品目「鉄鋼」。“鉄”にまつわる“ロストテクノロジー”とは?

ここ数年、半導体や集積回路などの電子部品の輸出が伸び悩んでいますが、粗鋼生産量1億1000万トンのうち、輸出向け鉄鋼の割合は約4割にのぼり、増加傾向にあります。

輸出だけでなく自動車を筆頭に、常に日本の基幹輸出品目のランキング5位以内に位置する「鉄鋼」は、産業機械、自動車、情報通信機器等の他産業と並んで基盤産業(製造業)に位置づけられ、国内総出荷額は18兆円※、鉄鋼業従事者数は22万人にのぼります。

また昨今、ガソリン車から電気自動車へ移行が加速する“EVシフト”は、日本だけでなく世界の潮流になっていますが、米電気自動車(EV)製造大手・テスラが、アルミニウムから安価な鉄鋼に置き換えた高級新車両を発売。その動向が、大きく紙面を飾りました。

こうした世界の産業界の耳目を集めるニュースが報道される中、今回は巨大産業に位置づけられる「鉄鋼」に注目しながら、私たちにとってなじみある「包丁」や、ロストテクノロジーの代名詞・紀元前の古代インドの刃物「ダマスカス鋼」、その作刀技法が現代科学をもってしても解明できない「日本刀」の謎をご紹介しながら、神秘に満ちたマテリアル・鋼(はがね)の“いま”に迫ります。

※2012年の総務省発表の数値より

古いマテリアル。その概念を覆し、反撃に転じた鉄鋼業界

「世界は鉄でできている」といわれる通り、私たちの“暮らし”に欠かせない鉄鋼は、高層建築物、大型船舶、自動車・鉄道の車軸や車体をはじめ、橋・道路・、護岸・防波堤・水門などの基礎インフラから、かんな、やすり等の工具や家電に至る多様なシーンに用いられています。そうした鉄鋼材は、含まれる炭素量の違いによって呼び名が異なります。ゴルフをする方なら、シャフトに炭素繊維を多く含むクラブほど硬いことはよく知られていますね。

純鉄(じゅんてつ/pure iron)  ➡ 炭素量 = 約0.0218%未満

●鋼(はがね/steel)        ➡ 炭素量 = 約0.02%〜2.14%

●鋳鉄(ちゅうてつ/cast iron)   ➡ 炭素量 = 2.14%以上〜6.67%

 「鉄」「鋼」「鋳鉄」は、炭素量の“多い””少ない”の違いによりますが、いずれも鉄(Fe)と合金、微量のマンガン(Mn)、リン(P)、硫黄(S)で構成されている点は同じです。つまり、“軟硬”を決定づける炭素の含有量が少ないほど軟らかくて加工がしやすく、さらに、炭素量を調整することで粘りのある強靭な鉄を作ることができます。このことから、鉄は以下のようなシーンで使い分けられています。

●炭素量が少なく、軟らかい特性の「純鉄」はジュースの缶などに。

●強さと粘り気のバランスがよく汎用性の高い「鋼」は生活関連商品などに。

●硬い反面もろい特性ももつ「鋳鉄」は、工作機器やマンホールといった鋳造品などに。

上記が“鉄”に対する従来の考え方や主な使用例でしたが、今年に入って“鉄”に関する大きな発表がありました。

それは日本製鉄が開発した、郵便切手1枚程度の大きさの上に象24頭が乗っても耐えうる「硬くて、軽くて、強い」鋼板のこと。軽くて強度の強い超ハイテン(高張力鋼板)を大半で採用した同新素材の特筆点は「アルミと同等の重量を実現」させた点にあります。

「重くて硬いものは、それだけ加工がしづらい」

「軽くて軟らかいものは、それだけ壊れやすい」

すなわち、今回発表された鋼板によって、上記のような鉄に対する常識や、ものづくりの共通概念は根底から打ち砕かれることになったのです。

かねてより、車体重量と燃費の関係について「車体100㎏を軽量化すると燃費は1㎞/L向上する」といわれており、“EVシフト”に伴って“軽量”=“正義”が自動車業界の共通概念となった昨今、いかにして車体の軽量化を図るかが喫緊の課題とされてきました。そうした中、ボディ強度、燃費向上、コスト削減、安全性能、製造効率、環境面などの観点から、各素材メーカーが熾烈な開発競争を繰り広げ、FRP(繊維強化プラスチック)」「CFRP(炭素繊維強化プラスチック)」「ハイテン(高張力鋼板)」などの軽量素材を採用した車が次々と登場。2015年には大量生産車の原点といえる米フォード・モーターが、アルミニウムを全面採用した主力ピックアップトラックを発表。この発表を受け、鉄鋼業界に衝撃が走ります。

その衝撃から2年──。2017年半ばに世界最先端EVメーカー・テスラが、アルミニウムからほぼ鉄鋼へ置き換えた高級車モデル2種を発表。「鉄への回帰」を旗印に、「鉄の限界」「鉄は古いマテリアル」という概念や弱点を克服すべく新素材の開発に乗り出した鉄鋼業界。いままさに、鉄鋼業界の反撃=快進撃が始まっているのです。

鉄について理解を深めよう

次に、鉄(鋼材)の主な種類を見ていきましょう。 

図では、10タイプの鉄の種類をご紹介しましたが、このほかにも、特殊鋼鋼材(こうこうざい)や鉄鋼製品、鉄鋼二次製品など、用途別ごとの使いみちがあります。

炭素鋼の「包丁」と、ステンレス鋼の「包丁」の違い

「鉄」とひと口にいっても、性質や形状、断面、長さ、加工法などさまざまな違いがあることがわかりましたが、ここでは私たちが日常的に使用する包丁を例に取り上げ、炭素鋼仕様の包丁(以下・鉄の包丁)と、ステンレス鋼仕様の包丁(以下・ステンレス包丁)の違いを見ていくことにしましょう。

鉄鋼業界の反撃をご紹介した章で炭素鋼について触れましたが、「炭素鋼」は炭素(C)、ケイ素(Si)、マンガン(Mn)、リン(P)、硫黄(S)の5つの元素を含む「鋼(はがね)」のことであり、「ステンレス鋼」は、5つの元素にクロム(Cr)、タングステン(W)などを加えて作ったもの。

ステンレス包丁が錆びにくい点はよく知られていますが、その理由はクロムメッキを施しているから。つまり、メッキ層が剥げない限り、ステンレス包丁は錆びないのです。

このステンレス包丁が明治以降に使われるようになった理由は、日本に西洋文化が伝わる中、ディナーナイフなどの洋食器が一部の人々に使用されるようになった生活様式の変化によるものといわれています。しかしながら、鉄製の刃物は錆びる(腐食しやすい)ことが当たり前だった日本人にとって、錆びにくい輸入ステンレス製什器の特性は驚くべきものでした。そこで今日も刃物の町として知られる新潟県燕市の職人が、その製造技術に着目し、試行錯誤の末にステンレス製の刃物の開発に成功。そうした努力の末、日本の家庭でも使いやすくて錆びにくいステンレス包丁が高い人気を集めるようになっていきます。

包丁の歴史をたどると、私たちにとってポピュラーなステンレス包丁が登場したのは、つい最近(明治中期)のこととわかりますが、逆の見方をすると、長い時間の中で剣、刀、包丁といった刃物のほとんどが鉄製であったことが、またわかります。

さらに、日本で最古の包丁として現存するほとんどが奈良時代のものとされていますが、それらの包丁は柄が非常に長い日本刀のような形状のため、現在の包丁の形状とは大きく異なります。その後、形状は少しずつ変化を遂げ、食文化が花開いた江戸時代から、現代包丁と同じような出刃や柳刃、菜切包丁といった形状に包丁は様変わりし、さらに昭和に入ると、先端部が丸みを帯びて持ちやすい「三徳包丁」が誕生することになります。

王に仕えた調理人・「庖丁(ほうてい)」さん 

荘子(荘周)を著者とし、無為自然の道教を説く古代中国の思想書『荘子』には、現在でいう“マイ包丁”を何十年にもわたって“マイ砥石”で研ぎ続けた「庖丁(ほうてい)さん」という、見事な刀さばきで知られた伝説的調理人が登場します。

「包丁」はもともと「庖丁」と表記し、「庖= 料理人」「丁= 王に仕えた職人」を指す意味をもっていました。このことから古来における「庖丁」は、位の高い人の食事作りを担当する調理人の呼び名であったことがわかります。

時は流れ、現在では海外からやってきた観光客の多くが、自国へのお土産に和包丁を持ち帰るなど、日本製の「包丁」の素晴らしさは世界に広まっています。その証に「三徳包丁」は「SANTOKU」、刺し身などを切る「柳刃包丁」は「SASHIMI」、「菜切包丁」は「NAKIRI」と、日本での呼び名がそのまま海外でも使われています。

しかし、鉄の包丁からステンレス包丁へと刃物の代表選手である包丁が進化してきた一方で、過去には存在していたけれど、現在では存在しない、あるいは再現不可能な技術もあります。

そうした謎に包まれた神秘の技術を「ロストテクノロジー (Lost Technology)」と総称します。

“ロストテクノロジ”ーを代表する「ダマスカス鋼」

「ロストテクノロジー」として最も有名なのが、紀元前の古代インドの刃物「ダマスカス鋼」でしょう。

インド産の「ウーツ鋼」を原材料に刀鍛冶が製造した刀剣「ダマスカスの刀」は、ムチのようにしなやかでありながら、折れず、曲がらず、切れ味鋭く、錆に強い特性を兼ね備えていました。こうした材質や特性から「比類なき名剣」として名を轟かせ、十字軍の時代には王家の宝とされ、騎士にとってその刀をもつことは誇りであり名誉とされていました。

そして何より、「ダマスカスの刀」の最大の特徴は、刀全体に「水が流れるような神秘的な文様」があしらわれている点にあります。その文様は、のちの研究によって鉄と炭素の成分が帯状になることで生じる文様であると判明したのですが、次のような疑問が長きにわたって解明されせんでした。

●鋼でありながら、なぜ錆びないのか?

●神秘的な文様は、デザインなのか、内部結晶作用によって生じたものなのか?

●どのような金属組織で構成されているのか?

「ダマスカスの刀」の原材料である「ウーツ鋼」にまつわる謎は、英国王立協会、学者、冶金や鉄鋼といったその道の学者や専門家にとって長年にわたる謎であり、今日に至る200年の長い年月の間で解明されなかった「ロストテクノロジー」だったのです。

みなさんは包丁やナイフ、鏡面仕様のライター表面にあしらわれた不思議な波、または木目のような文様を見たことはありませんか? それはきっと「ダマスカスの刀」の最大の特徴である水が流れるような神秘的な文様であり、神秘の金属「ウーツ鋼」を模したデザインであるはずです。

ちなみに、今日遺跡として登録されているものは、世紀の大発見と称されるツタンカーメンのマスクに代表される金(ゴールド)などの貴金属に彩られた装飾品や、神殿やピラミッドなどの石や土でできた遺構・遺跡などがほとんどを占めます。

「錆びやすい」「腐食しやすい」特性をもつ「鉄」は、長い時間の中で原型をとどめることは難しく、土中に埋もれていた場合、そのほとんどが朽ち果てて(腐食)しまいます。しかし先ほど、炭素鋼に含まれる炭素(C)、ケイ素(Si)、マンガン(Mn)、リン(P)、硫黄(S)の5つの元素のほか、クロム(Cr)、タングステン(W)などを加えて作ったものがステンレス鋼であると説明しましたが、クロムを含有していない純粋な「ウーツ鋼」であれば、一般的な鉄と同じく錆びて(腐食して)不思議はないのです。

このように、多くの専門家が素材の組成等について科学的論拠を積み重ねたにもかかわらず、「ウーツ鋼」は「錆びない」「腐食しない」という“神秘に満ちた鉄”として、今日に至るまで「ロストテクノロジー」の代名詞として不動の地位を保ち続けていたのです。

日本の“ロストテクノロジー”といえば、そう、日本刀!

前章では「ロストテクノロジー」の代名詞「ダマスカスの刀」をご紹介しましたが、日本の「ロストテクノロジー」といえば、そう、日本刀でしょう。

おおかたの日本人にとって本物の日本刀に触れる機会は少なく、日本刀を目にする機会は時代劇などになりますが、古い歴史をもつロマンあふれる日本刀を愛する刀剣ファンはいまなお多く、多くの人々の心をつかんで離さない貴重な美術品です。

例えば、時代劇を注意深く見てみると、大広間の上座に将軍が鎮座するシーンでは、将軍の左後ろに太刀(たち)を立ててもつ若者の姿が見受けられます。この若者は将軍専用の雑用係であり、「小姓(こしょう)」と呼ばれる役職。有名なところでは上杉謙信の小姓は直江兼続でしたし、豊臣秀吉の小姓は石田三成でした。

小姓は別名「太刀持ち」とも呼ばれ、太刀は刃の部分を下にして腰帯にぶら下げるようにして着け、一方の刀は、刃の部分を上にして腰帯に鞘をさし込む着け方になります。時代劇だけでなく大相撲の横綱土俵入りの際も、太刀を携えて横綱の後ろに付き従う「太刀持ち」がよく知られていますが、相撲の世界で「太刀持ち」が存在するのは、江戸時代の幕内力士は大名に召し抱えられる存在で、帯刀を許される立場であったことに由来します。

そのほか武士が登場するシーンでは、その武士が左手に日本刀を携えていると、それはすなわち“害心”があると判断される急を要する場面を意味します。それはつまり「右手で柄から刀を抜いて、すぐさま斬れる状態」であることを示すからです。あるいは雨が降っているとき、武士は袂(たもと)で巻くなどして柄を覆い、敵が斬りかかってきたときに手元が滑らないよう、常に注意払っていたといわれています。

このように、時代劇では刀の持ち方、置き方、柄の向き、帯同方法などの作法が時代考証によって描かれていることが多く、そうした点も刀剣マニアにとってのチェックポイントとなっているようです。こうした時代考証を含め、日本刀に関する知識がない人のために、ここでは日本刀のキホンをご紹介しましょう。

日本刀は、次の5つに分類できます(※年数には諸説あります)

●「上古刀」/「古刀」以前に製造されたもの。反りのない直刀が特徴

●「古刀」/鎌倉時代初期〜慶長元(1596)年以前に製造されたもの

●「新刀」/慶長元(1596)年〜安永末(1781)年に製造されたもの

●「新々刀」/天明元(1781)年〜明治9(1876)年の廃刀令までに製造されたもの

●「現代刀」/「新刀」の製造技術をもとに、現代の刀工が製造する日本刀

元祖ハイブリット素材ともいわれる日本刀は、刃先に硬い高張力鋼を用いていますが、高張力鋼は硬いゆえに衝撃にもろい特性があり、そのため衝撃を吸収したときに折れないよう背の部分を鍛造する必要がありました。こうした特性を踏まえ、この5つの分類の中で、現代科学を総動員し、断面図を分析し、成分を原子レベルで分析しても、どのような作刀技法で作られたか解明できないのが、「上古刀」と「古刀」なのです。

もちろん「上古刀」と「古刀」より強靭で切れ味の鋭い日本刀は、現代の刀工によって製造することは可能とされています。しかし、刀に現れる文様の美しさを表現するのに必要な“地鉄”を再現できない点が、「上古刀」と「古刀」製造の謎のひとつにもなっている、といわれているのです。それはなぜでしょうか。

遣唐使に代表されるように日本の“いにしえ”では、中国との民間貿易が盛んに行われていて、日本から中国に輸出された品目の中に日本刀があり、高度な鍛冶技術によって製造された刀は、中国でも重用されたといわれています。しかしながら、刀を製造する際に必要な「砂鉄を脱炭して鉄鋼に仕上げるための遺構」や「日本刀の製造に見合った鉄鉱脈が開発された痕跡」はいまだ発見に至っていません。そのため、古刀の原材料である鉄は、日本国内のものではなく、中国から調達していたという説もあり、いにしえの日本の刀工は輸入原材料をもとに、日本独自の製鉄加工技術や鍛錬技術を編み出したものかもしれない、といわれているからです。

こうした謎に包まれてはいるものの、これまで国宝級の刀工が「古刀」の製造に挑戦した際、文様や成分等で「古刀」に酷似したものを製造することには成功しています。しかし一流の刀工であっても、次に再び同じものを作ることができないジレンマにもぶつかっているのです。このジレンマは「古刀」を製造する確かな製造法(混合比率、焼入れ時間、鍛造製法など)に加え、厳密な鉄の成分が解明されていない点に理由があるとされています。

そしてさらに、その優れた技術や製造法がある時期を境に途絶え、現代に継承されなかった理由は、刀にとってかわって鉄砲という新たな武器が登場したことと、時代の変化によって日本刀を携えた武士がいなくなったことも、その大きな要因とされているのです。

日本と西洋の戦い方や流儀によって、刃物の形状は異なる?

時代が進むにつれ、ステンレス鋼の工業製品が実用化されるようになり、私たちの家庭でも今日、お手入れがラクなステンレス包丁が多く使用されています。そんなステンレス包丁の大量生産を可能にしたステンレス鋼は、「錆びない鉄」である「ダマスカス鋼」の謎を解明するための学術的研究が結実し、誕生した賜物でもあるのです。

私たちは暮らしの中で、包丁、はさみ、カッターナイフ、のこぎり、斧など、多種多様な工業刃物を活用していますが、ここでは鉄の包丁とステンレス包丁の特性の違い、西洋の刃物と日本の刃物の違い、西洋と和洋のこぎりの違いを比較してみましょう。

■鉄(鋼)の包丁= 切れ味がよくて研ぎやすいが錆びやすい

■ステンレス包丁= 錆の心配が少なく、手入れがラク

■西洋ののこぎり = 押す動作が主体。押して切る

■日本ののこぎり = 引く動作が主体。引いて切る 

■西洋の刃物 = 大柄な体格の西洋人が片手に盾をもち、もう一方の手に剣をもって戦うことから、押し切るための刃物が求められ、丈夫さや、しなりのよさが重視された。西洋刃物のほとんどが両刃。

■日本の刃物 = 小柄な日本人の体格から、戦う相手と力負けしないよう引き切りしやすい刃物が求められ、切れ味と硬さが重視された。日本刃物のほとんどが片刃。

明確な違いがわかりますね。

こうした戦いぶりの違いから、刃物の形状も大きく異なるようですが、のこぎりについても西洋のものと日本のものは仕様(刃の向き)が異なり、使い方が逆であることに驚かされますね。

上記の違いに加えて「刀」=片刃、「剣」=両刃と大別できますが、例えば映画などで描かれる古代西洋人の戦いぶりは、叩きつける、激しく突くといった直線的な戦い方が多い一方、日本の戦国期を描いた映画などでは、日本刀を構え、相手とある程度の距離を保ちながら、間合いが合った瞬間に距離を一気に縮め、刹那の中で刀の反りを最大限に活かして引き切りする戦法が多いことに気づかされます。

軽量化が求められるEV車に起きたパラダイムシフト

謎多き刃物や、文化や戦術による違いについてご紹介してきましたが、ここから話を鉄に戻しましょう。

家電、自動車、航空機、鉄道、通信機器などのあらゆる部分に使用されている鉄ですが、わが国の鉄鋼業における営業利益率は、長らく他産業を大きく上まわる水準が続きました。しかし、2009年に発生したリーマンショックの影響で急落し、さらに中国・韓国企業の生産能力増強による世界鉄鋼市況の変化や、中国企業の台頭によって、世界の主要鉄鋼メーカーのランクづけも大きく変動しています。

こうした変化に即応すべく、日本を代表する新日鐵住金、神戸製鋼所、日新製鋼の高炉各社は、価格競争力強化のため生産拠点を集約するとともに、集約先の設備強化を実施。さらに、粗鋼生産ではなく、最終製品に近い鋼材を現地ユーザに、タイムリーかつ低コストで供給することを目的に、海外生産拠点設立も加速させています。

鉄鋼業に従事する人のみならず、多くの人々にとって身近な存在である鉄にまつわるトリビアを知ると、わが国の基幹産業である鉄鋼業の動向から派生する自動車の変化や家電の変化にも、多くの“気づき”を得られることでしょう。

その“気づき”とは冒頭でもご紹介した通り、自動車業界で数十年にわたって繰り広げられる鉄鋼とアルミニウムのシェア争いもそのひとつでしょう。世界的にガソリン車から電気自動車への“EVシフト”が加速する中、「バッテリーの重量増を相殺するカギは、軽量素材のアルミニウムだろう」という考え方がおおかたの見込みとされていました。

ところがその見込みを覆し、米電気自動車(EV)製造大手・テスラが、軽さを誇るアルミニウムから、安価な鉄鋼に置き換えた新車両を2017年半ばに発売。この動きに追随するかのごとく、他メーカーもコスト削減のため鉄鋼に目を向け始め、アウディ社も「A8」の開発過程でコスト効率削減を掲げ、アルミニウムの大量使用から鉄鋼、アルミニウム、マグネシウム、カーボンファイバー混用にシフト。今日、世界をリードする自動車メーカーのパラダイムシフトが世界の耳目を集めています。

世界最先端の自動車開発競争下で、今後アルミニウムが自動車製造市場シェアを独占するだろうと誰もが考えていた矢先に起きたのは、鉄の限界に挑み、一気呵成ともいえる勢いで大反撃に転じた鉄鋼業界の新たなる台頭でした。結果として、“EVシフト”の渦中で鉄が一歩リードをおさめ、出鼻をくじかれることになったアルミニウム……。

── 100年に一度といわれる鉄の大変革は、自動車メーカーにとっても大変革になることは必至。

自動車業界でいま起きている顛末を読み解くと、社会現象を巻き起こした人気ドラマに似た逆転ストーリーのようにも感じますが、しかしながらアルミニウム業界がこのまま静観しているわけもありません。

今後どのような“倍返し!”が起きるのか、その動向から目が離せませんし、“鉄の最前線”を切り取った時事ネタに触れたとき、鉄にまつわるトリビアや知識を知っておくと、非常に興味深くその報道を読み解くことができますね。

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