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身近な日用品に至る広範囲で活躍する鍛造技術。その将来性を解説!

昔ながらの鍛冶屋の時代から「鉄を叩いて形を変える」職業は、常に日本のものづくりの象徴的存在でした。鍛造技術は、金属を加工するための技術のひとつで、もちろん現在においても、日本の製造業を支える大きな柱になっています。その高い技術で作られた製品は、人々の命を守る自動車や航空機を支える部品から、便利かつ身近な日用品に至る非常に広範囲で活躍しています。

日本工業規格(JIS)によれば、鍛造の定義は、「工具、金型などを用い、固体材料の一部または全体を圧縮または打撃することによって、成形および鍛錬を行うこと」となっています。

今回はその鍛造技術とはどのようなものなのか、そして日本の鍛造業が抱える課題、さらには将来的な展望について解説しましょう。

加工温度による鍛造技術の分類

鍛造技術といっても、その種類は実にさまざまでます。

大きく加工方法を分類すると、「工具を使う自由鍛造」と「金型を使う型鍛造」に分けられますが、この方法や詳細については、11月29日に配信された〈日本のさまざまな産業を支える「型鍛造」。そのキホンとトリビアを解説!〉の記事でも詳しく紹介しています。

一方、加工時の素材の温度で分類すると「熱間鍛造」「温間鍛造」「冷間鍛造」の3つに分けられます。型鍛造は熱間、温間、冷間のどの温度域でも行うことができますが、自由鍛造は熱間のみです。

ここから、素材の加工温度による分類について説明していきましょう。

〈1〉熱間鍛造

熱間鍛造は、材料を熱して鍛造加工する方法です。材料に熱を加えると、変形して歪んでいた結晶が歪みのない新しい結晶粒となります。この温度を再結晶温度と言い、材料をこの温度以上加熱して加工する鍛造を熱間鍛造と言います。

それぞれの金属によって、この再結晶温度は違ってきますが、加熱することで金属は加工しやすくなり、常温で加工しにくい材料も、加工しやすくなるわけです。さらに、一回の打撃・加圧で大きな変化を与えることができるようになるため、複雑な形に加工することもできるようになります。

〈2〉冷間鍛造

材料を加熱せず、常温で行う鍛造を冷間鍛造と言います。熱間鍛造に比べて加工しにくく、一回の打撃・加圧で大きく加工することはできません。無理に加工しようとすると、材料や工具が破損してしまう危険性もあります。

しかしその反面、製品の表面をきれいに加工することができ、寸法や形自体の精度も高く維持することができることが冷間鍛造のメリットとなります。したがって鍛造後の表面処理など、後仕上げをしなくても精度の高い製品を作ることができるという利点を得ることができます。

近年は、強度と加工のしやすさを兼ね備えた素材や工具の研究・開発が進み、この冷間鍛造の技術もより進化しています。

〈3〉温間鍛造

温間鍛造とは、熱間鍛造と冷間鍛造の中間の温度で行う鍛造技術であり、加工のしやすさ、一回の打撃・加圧で大きな変化を与えられるという熱間鍛造のメリットと、表面をきれいに仕上げられるという冷間鍛造のメリットをあわせ持つ鍛造技術という位置づけになります。

両者のメリットをあわせ持つ鍛造技術ですが、それだけに適用範囲が限られ、一歩間違うと両者のデメリットが製品に現れてしまうリスクもあるので、細心の注意が必要なことから経験値や高い技術を要します。

〈4〉複合鍛造

熱間鍛造、あるいは温間鍛造によって複雑な形に加工した後、冷間鍛造によってその精度を高め、表面を美しく仕上げていくという、複数の鍛造加工を組み合わせる方法が複合鍛造です。クオリティの高い製品を作れるため、近年、複合鍛造は急速に広まっている技術です。

また、熱間鍛造や温間鍛造で一時的に加工した後、切削などの中間加工を加えることで、その後の冷間鍛造による加工・仕上げの質が大きく向上することもわかっています。

日本の鍛造技術の課題とは

鍛造加工された製品の汎用性は実に広く、自動車部品の65%、土木建設機械部品の23%に使われていると言われています。

例えば自動車部品の鍛造品であれば、より高い強度を持つことで安全性が担保され、より軽量化されることで燃費が向上することになります。

これはつまり、高い強度と軽量化という相反する条件を求めることになり、これら相反する条件に加えて、自動車の開発現場では、製作コスト削減も求められてきました。こうしたレベルの高い目標をクリアすべく、技術者は新たな素材、新たな加工法といったさまざまな側面から開発を推し進め、日本の鍛造技術は進歩してきたといえるのです。

では、現在の日本産業界が直面する、鍛造品の課題にはどのようなものがあるでしょうか。

課題1/ 輸出減少、および生産拠点の海外以降のため、国内生産量が減少している。

鍛造品の生産量は、2007年の265万トンをピークに、わずかずつではありますが年々減少しています。鍛造品は自動車部品などに多く使われるため、自動車の輸出量の増減など、世界経済の動向に左右されやすい特長があります。

課題2/ 国内の鍛造技術者や研究者などの人材不足が懸念される。

鍛造加工は経験と勘が重要で、それらを養うためには時間が必要となります。当然ながら、現場の職人であれ、研究者であれ、すぐに優れた人材を育成することは難しいため、計画的かつ長期的スパンに立って、人材を育てていく必要があります。

課題3/ 鍛造技術におけるアジア諸国の成長が著しく、加えてアジア諸国での鍛造品の需要が高まりつつある。

戦後の日本は金型産業が大きく成長し、アジアで唯一の高品質な金型を製造できる国として発展を遂げてきました。しかし近年は、タイ、中国、韓国などに代表されるアジア諸国が、日本や欧米諸国から技術を学び、急速に台頭してきています。

課題4/ ITの進化により、産業のグローバル化が進んでいる。

インターネットで世界がつながる時代にあって、国内産業として独自に技術革新を進めるのではなく、世界を見渡した成長産業としての考え方が必要になっています。

課題5/ 環境問題やエネルギー問題に直面している。

製造過程での燃料コストの削減、廃棄物の削減、使用電力の削減など、地球環境問題を視野に入れた技術革新や品質が求められています。

今後も鍛造技術で世界をリードするために

日本の産業界が、鍛造技術をさらに発展させ、ものづくりの世界でリードしていくためには、前項に挙げたようなさまざまな課題を克服していく必要があります。

その最大のポイントは、人材確保と考えられます。

急速に少子化が進み、超高齢化社会に突入したわが国にあって、鍛造業を支える人材を確保することは非常に難しくなっているのが現状です。鍛造技術を支えるために必要な基礎研究を行うだけでも膨大な時間がかかりますし、日々刻々と進化していく先端技術を身につけることも、一筋縄でいくものではありません。

それらの人材を育成するためには、大手企業や国、自治体、教育機関などが鍛造の教育・研究センターなどを立ち上げるなど、長期的に取り組んでいくしか方法はありません。つまり、鍛造技術を将来へ継承するためには、産学官の連携なくして実現することは不可能なのです。鉄鋼業、そして鍛造技術は日本の基幹産業として、国の活力を生み出す重要な位置づけに置かれています。そのため、日本の産業界を支えるすべての力を結集していく必要がある、といえるでしょう。

また、環境やエネルギーに配慮し、古い製造過程を見直していくことも急務です。
環境への配慮やエネルギー削減のためには、鍛造材料の※リサイクルやリユースを考えていく必要があります。それを生かすための製造プロセス全体の見直しも求められています。

※リサイクル ➡ 回収したものを資源に戻して新たな製品を製造すること

※リユース ➡ 不用品をそのままの形で再利用すること

製造プロセスにおけるエネルギー削減と廃棄物ゼロは時代の要請であり、いかなる産業界も避けて通ることはできません。それらを実現しつつ、コストを削減する技術革新をめざしていく必要があるのです。

鍛造技術は、日本のものづくりを支える大事な技術であり、日本の大きな強みのひとつでもあります。今後もさまざまな分野で活用されていく技術であることは間違いありませんが、そこには多くの課題もはらんでいることは確かな事実であり、アジア諸国の台頭や産業のグローバル化を考えれば、残された時間はそう多くはありません。優れた人材を育成し、基礎研究や先端技術の研究をしっかりと前に進めつつ、国全体でこの産業を支えていく覚悟が必要なのです。

台頭する中国。巨大化する欧州。日本は量と質で健闘

林立する中国の高層マンション

昨今、資金力があれば技術力がなくても容易に参入できる……という製鉄業の特長を活かし、建設ラッシュにわいていた中国では、質より量を追求する経営システムを前面に押し出した中国勢の製鉄メーカーが大きく台頭。ここ数年の鉄鋼メーカー世界ランキングによると、上位10社中、6社が中国勢という躍進ぶりを示しています。近年ではその勢いに若干の陰りはあるものの、この台頭は世界のライバル企業を戦々恐々とさせる躍進ぶり、といえるでしょう。

一方、欧米では国際的なM&Aによる鉄工業の巨大化が大きな話題になっています。先に挙げた鉄鋼メーカーの世界ランキングのによると、ルクセンブルグを本拠地に置く国籍企業「ArcelorMittal (アルセロール・ミタル)」が第1位にランクイン。量的拡大を推し進めたのちの圧倒的規模を誇り、2位にランクインした日本の鉄鋼メーカーを大きく引き離す、ダントツの1位を堅持しています。

気になる日本勢は、同ランキングで「新日鉄重金」が第2位に、第9位に「JFKホールディングス」がランクインしていますが、日本では従来通り「量」と「質」を追求する両刀遣いでの経営を維持しており、世界の強豪を相手に大きく健闘している状態にあります。

リーマンショックの影響による世界鉄鋼市況の悪化、アジア勢の生産能力の増強といったさまざまな要因・背景の下で、世界の勢力図が大きく変わる鉄鋼業ですが、昨今では世界の鉄鋼需要が、過剰供給構造になっていると指摘する向きもあります。しかし「鉄は国家なり」の言葉がある通り、鉄鋼業が盛んでなければ国家の繁栄はありません。

これからも世界のものづくりの先頭を走っていくためには、日本が誇る高い技術力が大きな武器になることもまた確かな事実。そのためにも、国内の鍛造技術をしっかりと発展・成長させていくことが、とても重要なことであることは間違いないでしょう。

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