意外と知られていない撥水と防水の違い。失敗しない作業着選びの基本
2021.01.19作業服(ウエア)と言えば、作業現場などを含め何事にも動きやすく汚れてもいい仕事着として広く使われてきましたが、昨今ではその作業服が「カッコイイ」「機能的」などという理由からブームを呼んでいることはご承知の通りです。
これまで作業服の主な利用者は“現場で作業をする男性”というイメージでしたが、今ではその愛用者は老若男女を問わずに広がりを見せ、何事にもボーダレスになりつつある現代の世界を反映しているかのようです。動きやすく、着ていて快適、なおかつカッコイイとあれば、言うことなしですね。
冬に木枯らしが吹きすさぶ屋外で作業するとなれば防寒対策は必須であり、積雪のある地帯での作業では、なおさら風や雪を防ぐ必要があります。そのため、作業着の生地への防水加工や撥水加工が欠かせません。快適で機能的な作業着を着用すれば能率もあがるというもの。 では早速、加工方法などの違いをチェックしつつ「失敗しない作業着選びの基本」を確認してみましょう。
「撥水加工」とは表面で水をはじくこと
作業着の生地に必ず施されていると言ってもいいのが防水加工もしくは撥水加工ですが、その違いをご存じでしょうか。
「撥水(はっすい)」という言葉は「表面で水をはじく」という意味があり、作業着だけではなく小物やおしゃれ着など一般的に多く使われています。雨の日に服にかかった水やはねた泥水などが生地にしみ込まない、つまりは汚れを防ぐことから、作業着だけでなく、趣味のウエアやタウンユースのおしゃれ着においても便利な加工と言えるでしょう。
具体的に「撥水加工」とは、生地の外側にシリコンやフッ素などを用いて水をはじくコーティングを施したもの。撥水加工を施した生地に水が当たると、水は生地の表面に空気の層を作る“表面張力”によって、玉のような球状になって生地表面を転がる(はじかれる)ため、結果として生地に水はしみ込まない、というしくみです。
ただ、生地の隙間や縫い目などからは空気が通るため、大量に水がかかった場合や、霧雨やスチーム状の細かい水分が生地に当たった場合は、水がしみ込んでしまう可能性があります。撥水加工は完全に水をはじくわけではないことを覚えておきましょう。
逆に、撥水加工は「通気性がよい」、つまりは「蒸れにくい」というメリットがあることになります。使われている製品には一般的なコートやジャケット、傘などが挙げられます。
●撥水加工を長持ちさせるコツ
撥水加工をした製品は使っていくうちに徐々に効果が薄れていきますが、下記の方法が効果を長持ちさせるコツになり、長く撥水効果を保つことが可能となります。
●使用後は、生地に付着した雪や水をさっと落として、タオル等を押し当てるように拭く
●衣類を両手で持って上下に振りながら、雨粒を落として乾かす
●クリーニング時に、撥水加工を再度施す
●肩口や腕・ひざ・お尻など雨や水分に濡れやすい部分は、市販の撥水スプレーなどを併用して効果を維持する
防水加工があればOK?
一方の、「防水加工」とはどのようなものでしょうか。
「撥水」が生地の「表面の水をはじく」のに対して、「防水」は文字通り「水を防ぐ」「水を通さない」という意味を持ちます。つまり、防水加工が施されているということは物理的に水を遮断していること意味し、撥水加工よりも水が生地に浸透するのを防ぐ強い効果があります。
防水加工として、水を通さないゴムやビニールなどの素材を使用する、もしくは、生地にゴムや樹脂を塗り込むという方法が多くとられています。生地全体に防水コーティングを施すだけでなく、空気が通りやすい縫い目の裏側にはフィルムなどを貼り付けることで水の浸入を防いでいるのです。
ただし、撥水加工がされた製品は、とりあえず表面の水をはじいて蒸れにくいメリットがあるのに対し、防水加工された製品は強い雨でも水は通さないものの、そのぶん通気性が悪くにるため、蒸れやすい点がデメリットになります。
防水加工されたアイテムの代表例に、雨合羽やレインコートなどのレインウエアが挙げられます。雨の日でも傘をさすことなくレインウエアを着ることでウエア内部は濡れずに済むのですが、作業やスポーツなどで汗をかく場合は、残念ながら蒸れてしまうことが避けられません。 つまり、作業時のレインウエアを選ぶ際には、防水加工がしてあると同時に快適な作業ができるよう、蒸れにくい製品が求められます。
そこで重要な目安となるのが、「耐水圧」と「透湿度」です。
耐水圧とは、どんなもの?
「耐水圧」とは、生地に水がしみ込む力を抑える性能を数値で表したもので、JIS(Japanese Industrial Standardsの略で、日本産業規格*)で決められています(*2019年7月より日本工業規格から改称)。この数値が高ければ高いほど防水性に優れているという証です。
耐水圧が10,000mmの場合の計測方法は、生地の上に1cm四方で高さ10mの柱を置き、その中に10mまで水を入れたときに生地がその水圧に耐えられる、つまりは水がしみださない、ことを表しています。
耐水圧の一般的な目安は次の通り
・嵐 ⇒ 20,000mm
・大雨 ⇒ 10,000mm
・中雨 ⇒ 2,000mm
・小雨 ⇒ 300mm
ちなみに、傘の耐水圧は250mm程度とされ、傘はこの耐水圧で問題なく使用できるのですが、ウエアとなると意味が違ってきます。人が衣類を着て座ったりひざをついたりすると、そうした部位に集中して圧力がかかるため、自然と生地に圧がかかり、しみ込む力が強くなってしまうからです。
たとえば、体重75kgの人が濡れているところに座ると、約2,000mmの圧力がかかるといわれています。そのときに、もし耐水圧2,000mm以下のウエアを着用していると、座ったときにお尻部分に水がしみることになります。
また、同じ体重の人が濡れたところにひざまずいた場合の圧力は、約11,000mmです。もし、雨天時や路面が水で濡れた屋外の工事現場で、濡れたところにひざをついて作業する場合、耐水圧10,000mm以上のウエアを着用していないと、ひざ部分に水がしみてしまうことになります。
透湿度で、何がわかる?
また、もうひとつの指標である「透湿度」とは、1㎡(平方メートル)あたりの生地に24時間で何グラムの水分が透過したか(水分が出たか)を示すJIS規格の数値です。つまり“その生地がどの程度の汗を通すか”ということで、数値が高いほど蒸れにくいことを表します。
たとえば、透湿度20,000g/㎡/24hの場合は、1日24時間で1㎡あたり20kgの水蒸気(汗)を放出することができる、という意味です。
一般的な大人の1時間あたりの発汗量目安は次の通り
・安静時 ⇒ 約50g
・軽い運動時 ⇒ 約500g
・激しい運動時 ⇒ 約1,000g
(個人的な体質や季節によっても異なる)
工事などで作業をする際に、作業現場のユニフォームとして蒸れにくいウエアを選ぶのであれば、最低でも透湿度5,000g以上が必要です。できれば8,000g以上の透湿度があるものならば、より効果を実感できると言えるでしょう。
夏に、透湿性が高いウエアを着用するとき
透湿性が高い空調服を夏に着用する場合、空調ファンで汗が乾きやすいため、ウエア内はドライな環境となり、作業がしやすくなります。空調ファンが搭載されたユニフォームがここ数年とても流行っていますが、今年の夏に空調服を新調する人であれば、ぜひ透湿性に着目してみましょう。
冬に、透湿性に優れたウエアを着用するとき
積雪時の現場作業には、作業効率を維持するためにも、命を守るためにも、防水と防寒が施されたウエアが必須です。同時に防水・防寒性能とあわせて、透湿性に優れているウエアを選べば、体から出た汗(湿気)を外に逃がすのでべたつくことがありません。また、汗をかいてウエア内部が冷えることもないので、保温性が保たれ快適な着心地を得られるでしょう。
状況に応じて選ぶレインウエア
作業着には防水や撥水の加工を施したタイプとして、合羽、レインウエア、上下セットのレインスーツなど、さまざまなタイプがあります。業務でレインウエアが必要な人は、用途に応じてどのような作業着を選べばよいのでしょうか。目安を表にまとめてみました。
上記はいずれも目安であり、汗の量には個人差があることを踏まえましょう。また、作業の内容や生地の強度、デザインなどの好みにもよりますので、あくまで参考ですが、雨天時の長時間の作業により体温を奪われた場合は、命にもかかわることがあるため慎重なウエア選びが求められます。
ちなみに、これらの耐水圧や透湿度の数値は、使用法によってその機能が徐々に低下していきます。それは例えば……、
●ウエアの洗濯を繰り返すことで、機能が徐々に低下
●毎日同じウエアを繰り返し着用することで、機能が徐々に低下……など
機能を維持する方法として、日々簡単にできることは「脱いだあとに折りジワをつけないようハンガーにかけて、しっかり乾燥させる」ことが挙げられます。要は永久的な加工ではないことをあらかじめ理解することが大切であり、あわせて、適度に新調することで常に心地よい着心地を維持できるようになります。
抜群の高数値を誇る「ゴアテックス」
快適性を求めて蒸れにくい防水加工素材として開発された商品には、有名な「ゴアテックス」があります。
「ゴアテックス」の耐水圧は45,000mm以上であり、透湿性は13,500/㎡/24hで、同性能とされる素材では群を抜いた高数値を誇っています。
「ゴアテックス」は防水性と透湿性を兼ね備えた素材として、レインウエアやアウトドア製品を大きく変えたと言っても過言ではなく、この性能のよさから作業現場のレインウエアにも用いられています。さらに、キャンパー、釣り人、山登り愛好家、ライダーなどアウドドアでの趣味を持つ人にとっては、「ゴアテックス」製のウエアは憧れの的。性能がハイクオリティなぶん、価格も他メーカーの同ランク商品と比較すると高額です。つまり、唯一のデメリットは、簡単には手が出せない価格設定にある、といえるかもしれません。
── 現場作業をするにあたって、作業服としてのブルゾンタイプの上着やパンツなどのほか、欠かせないアイテムとして長靴や手袋、帽子などがあります。それらには防水加工だけではなく滑り止め加工や安全対策など、各種の工夫が施されています。汚れを防ぎ快適に効率よく作業を進めるだけでなく、不慮の事故を防ぐことは、道具やウエアによって可能となります。何よりも安全に作業をするために、さまざまな情報を活用して、適切なウエアやアイテム選びに役立てることをおすすめします。
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