経年美と精神性が世界を魅了! 日本庭園を創造する庭師の仕事
2019.08.23脈々と継承されてきたノウハウとスキルで、優美で美しい「日本庭園」をつくりだす日本の「庭師」。
昨今の“日本ブーム”も手伝い、訪日観光客向けの海外のガイドブック等で「日本庭園」が大きく紹介されるようになったことで、京都などの観光地には非常に多くの外国人が押し寄せています。この傾向は来日観光客に限りません。実は海外にも、日本庭園の専門誌が数多く存在しているのです。“人工美”を主体とする西洋庭園と対照的な位置に存在する、“自然のありのままの姿”を主体とした「日本庭園」が織りなす風情や美意識は、アニメ、和食と並んで日本らしさを顕著にあらわすものとして多くの外国人が興味を抱いているようです。
そんな日本庭園の大きな特徴であり魅力でもある“経年美=時間美”は、いにしえの日本人が築き上げてきた豊かな感性と、緻密な計算による空間芸術と呼べるもの。
ドイツの著名建築家ブルーノ・タウトは1933年の初来日時に京都の桂離宮と出会っていますが、その翌年の来日時にも再び桂離宮を訪れ、「涙がでるほど美しい」と日記に記し、称賛しています。このエピソードはとても有名ですが、タウトに限らず多くの海外の建築家、芸術家、著名人が日本庭園の素晴らしさに感銘を受けており、画家のクロード・モネや、QUEENのフレディ・マーキュリーが自宅の庭を和風庭園にアレンジしたこともよく知られていますね。
今回は、異文化の人々をも魅了する日本庭園を創造する「庭師」の仕事や世界での評価・活躍についてご紹介しましょう。
卓越した技術と、美的センスを兼ね備えた庭師
庭師とは、庭造りを業(なりわい)とする専門職人のこと。その仕事の領域は、庭の設計、施工、管理と、作庭技術全般に幅広く、「庭師」は専門的技能を有した技術者のことを指します。
具体的な仕事内容は、植木の剪定、害虫や草木を守るための消毒、成長を促すための移植や肥料管理などの植木関係はもとより、石組、切石加工、左官大工工事など、庭造りにかかわるすべてを担います。
加えて、苔むした石など“経年美 = 時間美”が魅力の日本庭園においては、庭を最適かつ最も美しい状態でキープするための専門的スキルが求められます。それは例えば、紅葉シーズン、桜のシーズン、青葉が燃える初夏など、季節ごとに変化する庭園の“表情”をあらかじめ想像し、空間のバランスや色彩美をプロデュースすることも庭師が担う職域となるため、技術はもとより空間認知力、美的センス、色彩センスなど多面的なスキルが必要とされます。
ちなみに、庭師と同一される植木屋ですが、植木職人は一般的に植木を専門に扱う職人のこと。いわば庭師の仕事の一部である植木の担当をしているのが植木屋といえます。
日本の職人が織りなす海外の日本庭園
日本だけでなく、海外にも日本庭園の名園がたくさんつくられていることをご存じでしょうか。公的なものだけでも海外100カ国以上に、500以上の日本庭園が存在しています。
なかでも、米国には300以上の和風庭園があるといわれますが、ここではオレゴン州の「ポートランド日本庭園」を取り上げましょう。同庭園は米国の日本庭園専門誌「ジャーナル・オブ・ジャパニーズ・ガーデニング」の「海外にある日本庭園ランキング1位」にも選ばれた名園であり、数多くの人々がアメリカ内外から観光に訪れます。
またヨーロッパでは、英国ロンドンにある「ホランドパーク内京都庭園」もそのひとつですし、親日家であり日本庭園をこよなく愛したグレース妃を偲んでつくられたモナコの「モナコ日本庭園」も非常に有名な名園です。
アジアにも当然ながらたくさんの名園がありますが、やや意外な国ではオマーンでしょうか。オマーンにある池泉回遊式の「平安日本庭園」は、2001年開園の比較的新しい日本庭園ですが、園内には3つの池があり、池には赤い欄干が印象的な太鼓橋が架けられ、園内のあちこちに藤棚、灯篭、十三重の塔や石灯籠、東屋などが配され、日本庭園らしい趣向と風情に満ちています。おそらく、ここを訪れた日本人の誰もが「ここがオマーン?」と目を疑うほどの完成度を誇ります。
いずれの日本庭園も繊細さとしなやかさ、時間が織りなす重厚さをあわせ持った日本の美そのものであることに驚かされますが、それもそのはず、これらほとんどの庭園を主体となって手がけているのは日本の庭師なのです。
国内外で日本庭園来園者急増中!
日本政府観光局(JNTO)の調査によれば、2018年の年間訪日外国人数は、3119万1900人であり、統計開始以来の最高記録を更新しました。
10年前の2008年の政府が掲げた年間訪日外国人数の目標は「2020年に20万人を突破」でしたので、わずか10年で当初の目標を大きく上まわったことがわかります。こうした数値は、昨今の「日本ブーム」によるところも大きいのですが、日本国内の庭園はもとより、海外に存在する日本庭園の多くで、外国人来園者数は増加傾向にあり、毎年過去最高来園者数を更新し続けている庭園も少なくありません。
ここでは三大名園のひとつに数えられる石川県の名勝「兼六園」と、先にもご紹介したアメリカはオレゴン州の「ポートランド日本公園」の年間来園者数の推移を例にしてみていくことにしましょう。
【兼六園の外国人のみにおける年間来園者数】
- 2014年 23万人 ➡ 2016年 36万人 ➡ 2018年 43万人
【ポートランド日本庭園の総年間来園者数】
- 2014年 28万人 ➡ 2016年 36万人 ➡ 2018年 45万人
どちらの日本庭園も来園者数は確実に増えていることがわかります。この数値から、日本の伝統美に対する興味・関心の高まりがうかがえますね。もちろん、この数字にはリピーターの数も含まれますが、リピーターの数は予想外に多いようで、そうした人々は決して一時の興味だけではなく、日本の伝統美に惹きつけられて庭園を何度も訪れているようです。
同様に、盆栽、鯉、苔に魅了される外国人が京都の名園や、盆栽や鯉で有名な産地に多くの国から人々が訪れていることも、日本庭園に満ちた精神性をはじめとする多様な要素や魅力が、まさに世界の人々を魅了しているといってよいでしょう。
異文化を超越する日本庭園の精神性
なぜ日本の文化を象徴する「日本庭園」に、多くの外国人が共感を得ているのでしょうか?
日本特有の美意識に「侘び寂び(わびさび)」という“枯れの中の静寂で美しい趣”という概念・精神があります。
日本庭園ならではの“長い時の中で静かに苔むし、美しさを増す経年美”や、“枯山水の極限のシンプルさにみる美しさ”は、まさにこの侘び寂びの精神によるもの。当然ながら、こうした魅力や風情は専門家による管理がなされて初めて実現するものですが、ここではなぜ和風庭園が日本人のみならず、様々な文化・風習をもった世界の人を癒せるのか……について、心理学の観点からみていきましょう。
【集合的無意識】
スイスの精神科医・心理学者カール・グスタフ・ユングは、「全世界の人類には共通する普遍的な部分が存在する」と提唱しており、これを「集合的無意識」といいます。
世界には神話や伝承における共通点が国や文化を超えていくつもみられます。それはたとえば、以下の3つの例のような共通点です。
- 母性の象徴としてヨーロッパ神殿には女神像、アジアの寺院には菩薩像がある。
- ドラゴンは架空の動物にもかかわらず世界各地につくられ、畏怖や尊敬の対象とされている。
- 太陽や海などの自然を神として崇める自然に対する畏敬の念。
このように、通信手段もなく国と国の行き来のないいにしえの時代から、人類には現代に共通する感性をもちあわせていたことがわかります。意味をわざわざ考えなくとも癒しや感動をおぼえる作用や、静寂の中に時の流れを感じる作用は、この集合的無意識のはたらきからくるものだともいわれているのです。
【ゲシュタルト心理学】
ゲシュタルトとはドイツ語で「形態」「現象」を意味するるともに、心理学の学派のひとつであり、ゲシュタルト心理学の創始者のマックス・ヴェルトハイマーや、ヴォルフガング・ケーラーらが中心的存在となって提唱された心理学のこと。
このゲシュタルト心理学は、“人間は部分・要素の集合体としてではなく、全体を総和として認識してはじめて意味をなす傾向にある”という知覚現象の概念を指します。
たとえば、点描画のひとつの点をみても意味をなしませんが、点が集合した全体をみれば、そこに何が描かれているかを認識することができることがありますが、ゲシュタルト心理学では、人間の精神を部分や要素の集合ではなく、全体性や構造に重点を置いてとらえています。この考え方は海外・日本を問わず庭園造りにも共通する考え方ですが、特に日本庭園の特徴とされる「白砂」「石組み」などの視覚法則に共通した部分があるといわれています。
リラックス感を得られるプレグナンツの法則
あるいは、刺激を単純かつ明快な方向へと知覚しようとする脳の働きを備えた人間は、グループ化されてないものをグループ化したり、グループ化のために不足した情報を補う傾向があります。これを「プレグナンツの法則」といいます。
情報を補う傾向にある一方、人間は、“簡潔(シンプル)な形状”を好む傾向にあります。これはつまり、視覚に入る簡潔さは脳を混乱させないので、形状として簡潔(シンプル)なほどリラックス感を得る効果が高いといわれています。
この思考を庭園に置き換えていきましょう。わかりやすい例として、ひとまとまりとして見やすい傾向にあるとされている代表的なものは、以下の4つです。
- 近接…… ▲▲ // ▲▲ //…… 距離の近いもの同士はまとまって知覚されやすい。
- 類同……○○●▲▲○○ ○○●▲▲○○……色や形、大きさなどが同種のもの同士はまとまって知覚されやすい。
- よい連続……~●~~●~~ ~~●~~●~……滑らかな連続性を持つものは自然な配列としてグループ化されやすい。
- 閉合……】【 】【 】【 】【……互いに閉じられているとグループ化されやすい。
ここで日本庭園の管理の特徴について説明すると、日本庭園では樹木を生い茂らせず、整枝剪定して管理をすることにあります。必要最低限の樹木や石の配置により庭を演出していきますが、この“必要最低限の加減”を生み出す緻密な計算こそが庭師の腕の見せ所とされます。自然のありのままを活かしながらも抑制を効かせ、最も美しいバランスに満ちた空間を保つことが庭師の仕事であり、だいごみでもあるのです。
これをプレグナンツの法則をもとに考えると、和風庭園を生み出す“シンプルさ”は単に偶然に生まれたものではなく、その背景には緻密かつ精巧な計算と、庭師の経験値なくして、存在しないものであることがわかります。
そして、そのシンプルさや意図的に創造された空間(間)に対峙したとき、鑑賞者はそれぞれ無限のイマジネーションを抱くことになります。それはまさに、“宇宙”と呼ぶにふさわしい空間芸術といえるでしょう。
禅の精神と、アニミズム
たとえば、水を使わずに石と砂だけで池などを表現する「枯山水」では、離れた位置に無作為のように感じる配置で石が置かれていても、同種の石や砂をつかうことによって、離れて置かれた石をグループ化することができるのです。また、小石や砂で表現された池がそうした配置に見えるのも、この法則による効果です。
そして、「枯山水」に代表される意図的につくられた空間(間)に対するイマジネーションは自分と対峙し、雑念を排除してひたすら生きることに専念する「禅」の精神につながっているともいわれていますし、そもそも禅の精神が誕生する以前から存在した、石・木・水すべてのものに霊魂が宿っているという古代日本人のアニミズムも、人々を魅了してやまない日本庭園の大きな要素となっています。
人類すべてに共通する心理「美」
高すぎない塀や竹垣で囲みをつくることは、空間のまとまりを知覚させ、リラックス感を与えるばかりではなく、外の景色も背景(借景)として取り込むことができる効果があります。また、その囲いの中に無意識レベルで親しみのある石や樹木、水を見て、さらなる癒しにつなげる効果があります。代表的な例では、座敷の壁にしつらえられた小さな丸窓の窓外に、真紅に萌えるもみじの葉が風にそよぐ……。これも「閉合の効果」といえます。
このように日本庭園は、「禅」の精神や「侘び寂び(わびさび)」の精神を理解できていない外国人に対しても、人類がうまれながらに持ち合わせている共通心理であり、文化や習慣を超越して五感に訴えかける「美」を持ち合わせているのです。
つまりは、ゲシュタルト心理学やプレグナンツの法則を知らずして、いにしえの時代に日本で庭をつくる仕事に従事していた人々は、自らの五感をフル活用して自然と対峙しながら、さまざまな作用を生み出す庭づくりの技術を創造してきた“名もなき偉人”ともいうべき存在といってよいでしょう。
モネに代表される欧米邸宅の日本庭園も
海外で本格的な日本庭園がつくられた歴史をひもとくと、その起源は明治時代にまでさかのぼります、1873年開催の「ウィーン万博」で明治政府に派遣された松尾伊兵衛や山添喜三郎らによって、屋外展示の日本建築(神社、商店)や日本庭園がつくられます。
「ウィーン万博」から少し時間が経過した1890年頃から、浮世絵の熱心なコレクターであり、日本庭園の美しさに憧憬を抱いていた画家クロード・モネは、パリ郊外の自宅の庭の池に日本から輸入した睡蓮をあしらった「水の庭」をつくり、池の周囲に柳や竹を植え、時間の経過とともに池面に映る影の移動や色彩を楽しんだといわれています。なかでも「Le Pont Japonais(日本の橋)」と呼ばれる太鼓橋を造設したことはとても有名ですね。こうしたモネに代表されるように、20世紀に入って、欧米の邸宅や公共公園内に日本風情が息づく庭園がつくられるようになっていったのです。
世界的画家のモネや、QUEENのフレディ・マーキュリーが自宅の庭に和風テイストを加味した庭をつくったエピソードはあまりに有名ですが、これまでにご紹介したとおり、日本庭園はユネスコに無形文化遺産として登録された「和食」につぐ勢いで世界的に人気が高まっており、その人気の高まりに伴って、海外にある個人邸の日本庭園風のカーデニング依頼も増え続けているのです。
このように長い時間経過の中で、日本庭園がもつ魅力や奥深さが世界の人々に認知されるようになったことで、最近の庭師の仕事もグローバル化してきています。そうした点に着目した政府も、その潮流に加勢すべく、「海外日本庭園再生プロジェクト」を2017年にスタートさせます。このプロジェクトは日本の魅力を広める発信源を「海外の地」に位置づけたものであり、内外から大きな期待が寄せられています。しかし、このプロジェクトがスタートした背景には、ある大きな理由があったのです。
それはどんな理由なのでしょうか……。下記でご紹介していくことにしましょう。
世界に広がる庭師のビジョン
これまでに日本人が主体となり、海外にはたくさんの日本庭園がつくられてきましたが、海外に派遣された庭師は、その土地の気候や庭の風景との兼ね合いを緻密かつ精巧に計算し、数々の日本庭園をつくりあげることに成功します。
しかし、日本庭園にはこまやかな気配りと高い造園技術が必要とされます、期間限定で派遣された庭師は、庭が完成すれば日本に帰ってしまいます。その後、維持管理を委ねられた現地の人にしてみれば、そのハードルが高く、完成直後の状態を維持することはかなりの困難とされたのです。そうした理由から、大掛かりな修復が必要なほど荒れ果ててしまった日本庭園も少なくないという現状がありました。
日本政府はこうした現状を重く受け取め、先に紹介した「海外日本庭園再生プロジェクト」をスタートさせます。このプロジェクトは、日本から庭師を派遣し、荒れた日本庭園の修復事業を実施するとともに、手入れ管理のマニュアル作成や現地庭師に向けた講習会などを行うことを目的としています。
つまり「つくったらそれで終わり……」ではなく、その技を海外の庭師に伝授していくことも、日本人にとっての今後の重要な課題・役割とされているのです。当初の目的はもちより、このプロジェクト施策の効果として、海外における日本庭園が適切に維持管理されることによる対日理解の促進、インバウンド促進、さらには造園業界の海外展開も見込まれています。
庭師になるには、約10年以上かかる?
庭師をめざす場合、たしかな技術を持った親方の下に弟子入りし、「見習い」からスタートするのが一般的な道筋とされますが、「見習い」期間である修業時代は、道具の片づけや落ち葉拾いなどの掃除からはじまります。さらに、道具や用具の使い方から石組みまでの基礎を理解するためには3年かかるといわれ、一人でそれらの作業を完結できるようになるまでには、約10年以上の月日がかかるといわれています。
“10年”と聞けば長く感じますが、この約10年の修業時代には、現場仕事以外のたくさんのことを学べるメリットがたくさんあります。それは、たとえば……、
- じっくりと親方や先輩”職人”の仕事を観察できる
- 基礎知識を固めるために通信講座を受講したり、スキルを証明できる資格を取得する時間がとれる
- 日本の美意識や精神を体得するために茶道・華道など、趣味と実益を兼ねた勉強もできる
このように修業の期間は、多角的に学び庭師に必要な素地をじっくり固められる重要な期間でもあるのです。
でも、修業時代に資格の勉強をすることも大事ですが、参考書や雑誌には記されていない奥義を学ぶことが、庭師として成長する大きな要素ともいえます。古来、庭師として学ぶべき技術、奥義、秘義は、そのほとんどを師が弟子にを口づたえに授ける「口伝(くでん)」によって継承されてきました。これは、現代においても変わりません。でもなぜ、口伝でなければならなかったのでしょうか。
その理由のひとつは、自然と対峙する仕事であるがため、さまざまな事象に応じて柔軟な対応がもとめられ、文字に記された知識だけにすべてをあてはめてはいけない、もしくは、あてはめられない事柄の多さが理由とされてきたからです。
また、あるがままの自然の中で生じる微妙な差異や、四季によって変化する樹木の色合いのバランス等を、書籍や座学でリアルに感じ取ることは難しいため、庭師に最も大切なことは「経験値」であると言われてきました。
さらに、この「経験値」に加え、「経験値」から編み出された知識や難度の高い技術を、いかに師が弟子に伝えていくか……。弟子は、師から言葉で伝授された教えをいかに体得していくか……。師と弟子がそれぞれの役割を満たした時に弟子ははじめて、庭師のエキスパートとしての称号を得られたのです。
40代〜50代の人が庭師に転身するケースも!
一般的に40代からの異業種への転身は難しいとされていますが、庭師は、異業種で働いていた40代〜50代の人が弟子入りできる可能性が高い、ある意味特殊な業界といえます。ただし、安易に転職できるたやすい世界ではありません。自然に対して愛着があり、自然の摂理に耳を傾ける心を持っていることが不可欠な素養となります。
というのも、屋外で作業する時間が多く、自然にかかわる庭師の仕事は、雨風や季節による暑さ寒さと対峙すること多く、土や砂にまみれることがデメリットの職業というイメージがあるからです。しかしながら、あるときは優雅で、あるときは優しく、ときには命をもおびやかす危険性をもつ自然と対峙することが自分の職責と認識している庭師にとって、自然がもたらすデメリットはむしろ当たり前のことでもあるのです。
あるいは、自分の知識・技術の向上や達成感を肌身で感じることができるメリットから、5年、10年先を見すえて向上し、長い時間の中で庭づくりに向き合っていくライフプランを描き、40代〜50代の人が庭師として弟子入りするケースも昨今増えているようです。また、庭師の仕事は生きた空間芸術を創造する喜びに満ちている点や、庭師に転身した人の多くがその感慨深さを得ていることから、畑違いの業種から庭師に転職する人も増えているようです。
また、10代、20代のときに理解できなかったことや、受け入れられなかったことも、経験や年を重ねていくに従って自然と違和感なく受け入れられるようになりますし、それまで気がつかなかったある事象の新たな魅力に、ふと気づくこともあります。そんな“気づき”や異業種で培ってきたスキルも、庭師へ転業したときの武器になることもあるでしょう。つまりこうした点が、40代や50代の人が庭師へと転身し、成功をおさめる理由のひとつにもなっているようです。
ここであらためて言いますが、庭師は「職人」です。職人としての“経験”が、“職人の腕”に直結することは間違いありませんが、フリーランスの庭師として活躍できるようになれば、定年もありません。「人生100年時代」といわれる現代において、ある程度の年齢になってからのスタートでも、十分に長い職人人生を歩めることにもなるのです。
庭師に人気の資格とは?
先にも触れた、庭師にかかわる通信講座や資格には以下のようなものがあります。
ここでは民間資格の「庭園管理士」と、国家資格の庭園管理士について簡単にご紹介しますが、庭師は資格がなくてもなれる職業です。しかし、現場で培った経験値に加えて資格があれば、フリーランスや転職の際に有利になる可能性が高く、チャンスが広がります。
知識や技術の証明になり信用を得ることや、自信を得ることができモチベーションの向上にもつながるので、ぜひとも挑戦してみてはいかがでしょうか。
- 庭園管理士(民間資格)
日本園芸協会主催。6カ月間の通信講座を受講すれば取得できる比較的ライトな資格ですが、庭園の歴史や植物の生理・生態、手入れについての基礎知識をしっかりと学ぶことができます。
- 造園技能士(国家資格)
庭師が取得する資格で最も有名な資格のひとつ。
試験は筆記と実技からなり、合格することによって造園のエキスパートである証になります。
1~3級があり、特に1級の合格率は約25%ほどなので高い難易度の試験で、大規模な公共工事では現場に参加することが義務づけられるほど信頼の厚い資格とされます。
1級造園技能士になると、官庁営繕工事における現場常駐制度や、建設業法における一般建設業の主任技術者として認められます。
今回は、グローバリゼーションにおける日本庭園と庭師についてご紹介してきました。日本庭園はしばしば「小宇宙」に喩えられます。
「日本国語大辞典」によると、小宇宙とは「あるまとまった美の世界、理念の世界などを形成していること。また、その世界」とあります。
四季折々に異なる表情を見せ、石・水・樹木といった自然界に存在するマテリアルで構成された「小宇宙」は、いまや日本のみならず、世界のいたるところに存在し、その魅惑の小宇宙は、世界の人々を魅了し続けています。これからも高い技術を有した庭師によって、それらの「小宇宙」はさらなる創造を遂げ、私たちの癒しの場になり続けるでしょう。
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