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かぶりものに名刺、護身具!? ──用途無限大の手ぬぐいワールド

古くから、日本人の生活になじんできた手ぬぐい。かつては生活の必需品だった手ぬぐいですが、西洋文化の広まりとともに、手ぬぐいよりも、しだいにタオルやハンカチが身近になってきました。

そんな手ぬぐいですが、もともとは何に使われていたと思いますか?

手や体、汗を拭く……。物を拭いたり包んだり……。あるいは、お祭りではハチマキとして使ったり、神輿(みこし)をかついだりお囃子(はやし)を演奏する際のかぶりものとして。また、工事現場などでは、頭皮が蒸れないためにヘルメットの下に手ぬぐいを巻く人も多いようです。

近年、便利さや色柄の豊富さ、デザイン性などから手ぬぐいのよさが見直され、手ぬぐいの専門店もふえているそうです。そういえば、土産物売り場などでもいろいろな絵柄の手ぬぐいを見かけますが、「手ぬぐいのよさにハマると、タオル中心の生活にはもどれない」という声もあります。

古い映画やドラマなどでは、男女が歩いていて、(女性の)切れた下駄の鼻緒を(男性が)腰に下げていた手ぬぐいを引き裂いてすげ替える……という定番の見せ場がありますが、たいていの場合、ここで恋が始まります(笑)。

恋の火つけ役にもなる手ぬぐい……ですが、手ぬぐいの活躍の場はそんなものでは収まりません。古典芸能の落語や歌舞伎、日本舞踊とも親密な関係にあり、今でも名刺代わりにオリジナルの手ぬぐいが配られる文化が根づいています。また、明治時代の武道の達人が、腰に下げた濡れ手ぬぐいひとつで何人もの暴漢を倒したなんて逸話も残っています。

日本の伝統と深く結びついた手ぬぐい……。一枚の布地に秘められた、奥深~い「手ぬぐいワールド」をのぞいてみましょう。

手ぬぐいとはどのようなもの? その特徴とは?

ではまず、手ぬぐいとはどのようなものか、特徴を挙げてみましょう。手ぬぐいは、顔や手を洗った後に水気を拭いたり、入浴時に使用する、木綿を使った平織りの布のことをいいます。

●一般的なサイズは90㎝×33㎝~35㎝。通常、手ぬぐいの長さはほぼ同じ。幅は生地によってサイズの異なる場合がある

●薄くて速乾性に優れている

●折りたたんでコンパクトに収納できる、携帯にも便利

●両端が切りっぱなしになっており、縫い目を作らない分だけ乾きが早く、ホコリがたまらない

●使っていくうちに布地がやわらかくなり、色落ちがして手ぬぐいの味わいになる

手ぬぐいは昔、反物の状態で売られ、必要な大きさに切り売りされていたのが、両端が切りっぱなしの由縁ともいわれています。

タオルは西洋手ぬぐいとも呼ばれるようです。それではここで、手ぬぐいとタオルを比べてみましょう。

いろいろある! 手ぬぐいとタオルの違い

●素材は同じ綿だがタオルのほうが柔らかく、吸水性は高い

●タオルは脱水をかけても乾くのに時間がかかるが、手ぬぐいは手でしぼって干すだけで容易に乾く

●同じ大きさでもタオルはかさばり、手ぬぐいはコンパクトに収まる

●生乾きのタオルは雑菌が繁殖していやなニオイのすることもあるが、速乾性の手ぬぐいはいやなニオイのすることはない

●両端が切りっぱなしの手ぬぐいは、使い始めはほつれる(ある程度で止まる)

●両端を縫製してあるタオルは、真ん中が乾いても両端がしめっていることがある。また、縫製部分にホコリがたまりやすい

●タオルは濡れると重くなる

●タオルはミニタオルからバスタオル、タオルケットなどサイズがまちまちで種類が多いが、手ぬぐいは(剣道や日舞用のものを除けば)サイズはほぼ同じ

●使い込むほどに手ぬぐいはしなやかになるが、タオルは毛足がなくなり、ごわつくようになる

このように手ぬぐいとタオルの特徴を知ると、一人で使う、家族で使う、旅先で使う、季節によって……など、さまざまなシーンで用途にかなった使い方ができます。

ちなみに、タオルにはさまざまなサイズがありますが、その分、用途によって使い分けられる利便性もあります。その一方、タオルはたたみ方や収納などに工夫を要しますが、逆にサイズが決まっている手ぬぐいが使いにくい場合は、はさみで自分の使いみちに合ったサイズに切って使う手もあります。

もともと手ぬぐいは、必要な大きさに切り売りされていたそうですから、ハンカチサイズで使いたい場合には、手ぬぐい(90㎝)を三等分するとよいでしょう。無地や連続性の柄が多い手ぬぐいなら、どこで切ってもデザイン的におかしくなることはありませんね。

建設現場では、タオルより手ぬぐいが重宝?

ワーク系の職人の間では、タオルよりも手ぬぐいの需要が多いといわれています。それはなぜでしょうか?

建設現場に従事する人にとって欠かせないヘルメットですが、夏場の汗対策としては頭にタオルを巻いた上にヘルメットをかぶると、生地が厚いため蒸れてしまったり、ヘルメットのヒモがしめられないことがあるようです。その点、手ぬぐいは汗をよく吸い取り、タオルよりも薄いため、頭に巻いてヘルメットをかぶっても邪魔になりません。

また、現場でタオルを首に巻いていると、首まわりに熱がこもって暑いそうですが、この点においても、手ぬぐいはサラッとして涼を得られる効果があります。

そうしたメリットがあるなら、自分もタオルではなく手ぬぐいにしようかな……と考えた方のために、次の章では「手ぬぐいのかぶり方・5選」をご紹介しましょう。

手ぬぐいのかぶり方・5選

手ぬぐいは、江戸から明治期にかけ生活の便利品として重宝されていました。体や物を拭く以上に、首に巻いたり腰にかけたり、帽子のようにかぶったり……といった具合に、ファッションとしても取り入れられていたようです。

そして、江戸っ子といえば「粋」ですね! お祭りなどで頭にキリッと手ぬぐいをかぶった人たちを見ると、思わず「粋だね!」と声をかけたくなりますが、手ぬぐいで「粋」を演出する5つのかぶり方とは? ここでは、簡単にできる手ぬぐいの粋なかぶり方をご紹介しましょう。

【姉さんかぶり】/女性がそうじの時のホコリよけや日よけなどに使うかぶり方。ドラマなどで、着物にタスキ掛け、手ぬぐいで姉さんかぶりにした女性がそうじに取りかかる場面など、見覚えありませんか? かいがいしくも小粋ですよね。

【泥棒かぶり】/頭をすっぽりおおって鼻の下には結び目、宴会芸でお目にかかりますね。今年の忘年会では唐草模様の手ぬぐいで泥棒かぶりはいかがでしょう。雰囲気もバッチリ、盛り上がりそうです!

【巻かぶり】/ご存じ「水戸黄門」! ご老公の脇を固める助さん格さん、ご両人でおなじみのかぶり方が「巻かぶり」です。手ぬぐいが下に垂れず、うなじがきれいに出ている点が特徴で、お祭りの囃子(はやし)方が使うかぶり方でもあります。そういえば、昔なつかしいドリフターズもよくこのかぶり方をしていたような……?

【置き手ぬぐい】/「水戸黄門」で手ぬぐいをかぶりものに、といえばもう一人。うっかり八兵衛のかぶり方が「置き手ぬぐい」です。縦に四つ折りにした手ぬぐいを、さらに横に四つ折りにして頭にのせる。そう、お風呂などで手ぬぐいを頭にのせる方法です。置き手ぬぐいでひとっ風呂、お湯の中で鼻歌でも歌えば……いい心持ちですね!

【喧嘩(けんか)かぶり】/そもそもは江戸時代、喧嘩の時にまげをつかまれないよう、ちょんまげを隠すために使われたかぶり方ともいわれます。ちょんまげがすたれた現在、祭りなどで神輿(みこし)をかつぐ際のかぶり方として残っています。髪の毛を手拭いの中に収め、しっかり結ぶことで髪の毛が乱れることなく祭りに参加することができます。

また女性の場合、男性的な印象の喧嘩かぶりが女性のりりしさを一層引き立たせます。本気で神輿をかつぎたい女性におススメのかぶり方です。

祭りでかぶる場合には、手ぬぐいの色や柄を半纏(はんてん)や、法被(はっぴ)に合うようにコーディネートしましょう。これで、かぶる側も見る側も、お祭り気分が一気に盛り上がりますね。

手ぬぐいの文様と意味、由来……

手ぬぐいの文様(模様)はさまざまあり、古くから伝わる伝統的な文様には、さりげなさの中に日本人らしい感性や心づかい、美意識……が息づいています。代表的なものを挙げてみましょう。

【伝統的な手ぬぐい文様】

●唐草/つる草が四方八方に伸びてからみ合う文様。緑の唐草はなぜか泥棒を連想させますが、本来はつる草の生命力にあやかって一族が栄え、長寿をまっとうすることを願う文様です。泥棒をイメージさせるのは、手ぶらで盗みに入った泥棒が、その家にある風呂敷で盗んだものを包み、背負って逃走するイメージから生まれたということです。

●豆しぼり/整列された青い丸の模様は広く知られ、最近では「水玉」と呼ぶこともあります。豆は、一粒まけばたくさんの実がなることから、 「子孫繁栄」を意味しています。

●麻の葉/麻の葉を模した文様で、浴衣や帯などいろいろな所に使われています。麻は育てるのに手間がかからず、すくすくと伸び魔よけの意味もあることから、赤ちゃんの産着や子どもの着物などに使われました。

●青海波(せいがいは)/寄せては返す波のように、扇状の波が幾何学的に並びます。平穏な幸せが永遠に続くようにという願いがこめられています。

●市松(いちまつ)/正方形または長方形を交互に並べた文様。着物や帯などによく使われます。かつては「石畳文様」と呼ばれていたそうです。江戸時代の歌舞伎役者、初代佐野川市松が演目でこの文様の衣装を身に着けたことをきっかけに、女性の小袖の柄として大流行。その名を取って「市松模様」と呼ばれるようになりました。

●矢絣(やがすり)/矢の羽を模した文様。放った矢は戻ってこないことから「出戻らない」として、嫁入りに矢絣の着物を持たせたといわれます。また「的」に「当たる」ことから縁起がよいとされ、商売や家紋にも使われます。

ユーモアやとんちも感じられておもしろいですね。ほかにも「七宝(しっぽう)」「亀甲(きっこう)」「千鳥(ちどり)」……あるいは「とんぼ」「菊」「ふくろう」「なす」「ひょうたん」など……。

どれも縁起がよいとされる文様ですが、それぞれ意味を持って重宝されてきました。由来や柄に込められた意味を正しく知れば、どんな文様の手ぬぐいを使おうか、TPOに応じて選ぶヒントになります。また、気のきいたプレゼントやお土産にもなりますね。

歌舞伎と手ぬぐいの関係性

江戸時代、歌舞伎役者は士農工商のうち、商人に区分され、市川一門の「成田屋」、尾上(おのえ)一門の「音羽(おとわ)屋」などの屋号とその家紋である「定紋」を用いていました。こうした定紋に対して、それぞれの役者個人の象徴となるのが「役者紋」。“推しメン”のグッズと聞けば、欲しくなるのは今も変わらぬファン心理ではないでしょうか。楽屋着や手ぬぐいなど、くだけた使い方をされることが多い役者紋、当時の江戸庶民の間で大流行しました。いくつかご紹介しましょう。

【役者紋】暗号のような「役者紋」が大流行!

●七代目市川團十郎愛用の「かまわぬ」柄。 「鎌」と「○(輪)」とひらがなの「ぬ」を組みあわせた文様。判じ絵になっており、江戸時代に登場した町奴(町人身分の遊侠の徒)の心意気 を示す「かまうものか」「おかまいなし」という荒っぽい江戸っ子気風をうまく表現した図案になっています。

●七代目市川團十郎と同時期に活躍した三代目尾上菊五郎なら「斧琴菊(よきこときく)文様」。「菊五郎」の菊が入った「斧」「琴」「菊」は三つの文様を組み合わせ「良き事聞く」(小型の斧を「よき」という)と読ませる、すごいアイデア。江戸っ子に大人気を博しました。

●初代中村芝翫(しかん)が、四本縞の格子に鐶(かん=環状の金属)をあしらい「四つの鐶」で「しかん」と読ませた芝翫縞(しかんじま)。

●三、五、六の縞を縦横に交差させ「三五六」で三津五郎と読ませた三津五郎縞。

●縦三本、横三本の縞に「中」と「ら」をあしらった中村格子。

洒落(しゃれ)や語呂合わせ……謎解きのような、知恵を競い合うような役者紋。まったく古さを感じませんね。暗号のようなデザインを読み解くのを、江戸っ子はさぞおもしろがったことでしょう。

歌舞伎の発展とともに、役者が家紋や独自の紋様をデザインした手ぬぐいが流行。屋号を入れて宣伝用、年末年始の配りものとしての手ぬぐいの用途が広まります。手ぬぐいの柄は時代の文化、流行を反映したファッション性の高いものとなり、人々の生活に定着していきました。

また、歌舞伎役者が稽古に使う楽屋手ぬぐいのデザインは屋号や役者ごとに異なり、一般には販売されません。そのため、ファンにとっては貴重なお宝となります。ファンはその楽屋手ぬぐいをもって役者の舞台に行き、客席から舞台上の役者に見えるように手ぬぐいを広げて応援したそうです。こうした点も、現代のコンサート会場で好きなアイドルや歌手の顔がプリントされたグッズを手に、客席から応援するファンの心理と同じなのでしょう。

噺家にとって手ぬぐいは名刺代わり

近年、空前の落語ブームといわれますが、みなさん、落語鑑賞の経験はありますか? 高座で噺家(はなしか)が使う小道具といえば噺家の符丁(ふちょう=業界用語)でいうところの「風」と「曼荼羅(まんだら)」、つまり「扇子(せんす)」と「手ぬぐい」です。このうち、風は筆、刀、箸……、曼荼羅は財布や手紙、巾着、焼きいも……などに見立てられます。

そうして、落語の小道具ばかりではなく、噺家にとって手ぬぐいは名刺代わりにもなるようです。「二つ目」以上になるとオリジナルの手ぬぐいを作り、持ち歩くだけでなく贔屓(ひいき)筋などに配る。これも大事な営業ですね。

「真打」昇進のおめでたい場面では手ぬぐいを新調します。どの噺家も名前を印刷するだけでなく、色やデザインに工夫をこらした個性豊かな手ぬぐいを考えますが、パーティやイベントで販売されたり配られたりしますが、贔屓にとってはぜひ手に入れたい一品となります。落語ブームに便乗して、落語を楽しみながら噺家の手ぬぐいをコレクションにするのもステキな趣味といえますね。

武田惣角と濡れ手ぬぐい

かつて空手や古流柔術、剣道などの達人たちは袴(はかま)やズボンに下げた手ぬぐいを濡らし(濡れ手ぬぐい)、武器や護身用具としても用いていたといわれます。

そんな達人の一人、武田惣角(たけだ・そうかく/1860〜1943年)にはこんな逸話があります。

惣角が大阪に巡回修行に訪れていた時、街中でたちの悪い5人組が若い女性にいやがらせするのを見かけ、止めに入ります。身長150㎝ほどの小柄なこの男が、大東流柔術の創始者と知る由もない暴漢たち、惣角をなめてかかり、因縁をつけてケンカに発展するのですが……。

暴漢のうち二人が刃物を抜くと、惣角はすかさず腰の濡れ手ぬぐいをムチのように振り回して一方の足にからめ、そのまま引きずって川へ叩き落とします! さらに、刃物をもったもう一人の相手は、なんと濡れ手ぬぐいを叩きつけられ腕の骨を折ってしまいます。さらに兄貴分らしき男には、首に手ぬぐいを巻きつけ頭から地面に叩きつける……。これはもう、映画のワンシーンともいえる見事さ。手ぬぐいを使って暴漢5人組をまたたく間に戦闘不能状態にした武田惣角の姿に、大勢の見物人は息をのんだことでしょう。

手ぬぐいの上手なお手入れ法

では最後に、手ぬぐいのお手入れについて、簡単にまとめましょう。

●新しい手ぬぐいは単独で手洗い(最初の数回には色落ち〈他の物と洗うと色移り〉する)

●風通しのよい、直射日光の当たらない場所に保管する

●洗う時に洗剤や洗濯機はなるべく使わず、石けんを使って手洗いにする

●ほどよく乾いたらアイロンをかけて収納

手ぬぐいの歴史は日本の織物の歴史といわれ、1000年以上にもなるそうです。粋なかぶりものに歌舞伎の「役者紋」、噺家の名刺に武道家の護身用具……!? たった一枚の手ぬぐいに驚くべき技(?)が秘められていますが、コレクションにしている手ぬぐいや、使う予定のない手ぬぐいの場合も、そのままにはしないことが大切。物にもよりますが、手ぬぐいの生地が傷む場合もあるそうです。のりや染料は、まず一度洗うことが長持ちの秘けつといわれています。

ほかにも、タペストリーや額に入れて飾ったり、ラッピングや敷物、ブックカバーとして、また、速乾性でコンパクトな手ぬぐいはタオルに比べて旅行にはうってつけ! 四季折々の柄があり、季節ごとにかえる楽しみもありますね。何より手ぬぐいは、使い込むほどにしなやかにほどよく色あせて、風合いが増すのが魅力といえますので、気に入った手ぬぐいを大切に使い込んで、長くつき合いたいですね。

── こうして、手ぬぐいのあれこれを見ていくと、手ぬぐいの使い道、楽しみ方は無限大であることがわかります! あなたも、手ぬぐいをハンカチ代わりにポケットにしのばせてみたら……手ぬぐいがクセになるかもしれませんよ。

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