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鳶職の華麗なる技が東京タワーを組み上げた!「死のキャッチボール」とは?

足首まで隠れるダボダボズボンに地下足袋、夏でも長袖の手甲シャツに手首には手甲を巻く。一般には「作業着」「鳶服」「鳶装束」……と呼ばれるようですが、鳶(とび)の間では「ゴト着」といわれます。関東と関西で銘柄や形、色……の傾向も異なりますが、鳶は職を極めれば極めるほど、濃紺を好むようになるそうです。

鳶職人は、建設現場で働く建設作業員の中でも最も高い場所での作業が多く、命の危険と隣り合わせ。しかしながら、命を落とすかもしれない場所へも真っ先に乗り込み、他の職人や大工のために足場を築き、地上数百メートルの高所でも華麗かつ繊細に動き回ることから、イギリスではなんと「スパイダーマン」という愛称で呼ばれているそうです。

建設業界では、昔から「建設は鳶に始まり、鳶に終わる」とうたわれ、高所を自在に動きまわるその姿から「現場の華」とも呼ばれてきました。

ゴト着に身を包み、命がけで華麗かつ繊細に動きまわるスパイダーマンこと鳶職! それはどんな仕事なのでしょう?

鳶装束、ゴト着とは?

鳶装束を着たくて鳶になる人もいるほど、ファンの多いゴト着。特に若者には絶大な人気があるようです。江戸の火消しの流れをくむ鳶装束、そこには驚きの秘密が……!

■手甲(てっこう・てこう)

手首から手の甲部分を保護する布。平形と筒形があり、甲の部分は三角形または半円形につくられ、これは「やま」や「さめ」と呼ばれ、「やま」の先端に丈夫な糸で輪をつくり、中指を通して手の甲に固定し、手首を巻き紐かコハゼでとめる。

鳶ならば知らない人はいないという、 伝説の作業「種田」の手甲。 品数の少ない「4枚コハゼ」 は手首になじみやすく、 昔から職人に絶大な人気を誇っています。

機能

・手首が守られ、動脈が傷つくのを守る。

・袖をしぼることにより、高所で袖口がひっかかる危険から身を守る。

・特に引っ張る作業の時に力が出る。

■ダボダボのズボン

鳶のトレードマークのようなズボン、鳶職人はこのズボンを、ニッカ(ポッカ)や七分と呼んでいます。ニッカポッカの意味は、膝下でくくるゆったりとしたズボンを指し、七分はズボンの長さが七分丈が由来になっています。

機能

・鳶は足を高く上げて仕事することが多く、腿が太いと足がスムーズに上げやすい。

・高所作業中は足下が狭く、鋭利な足場など危険な場所が多い。七分のダボダボな部分があることで足下に対する意識が高まりセンサーの役目を果たす。

・高所作業で一番怖いのが強風。風が強いと七分がバタバタとなびき、地走り、下まわりの職人が状況にあった作業をこなすことができる。

そして、このズボン。もとは軍服だったという説があり、機能的に優れている軍服を進化させたのが現在の七分ともいわれています。

また、一流の職人は老舗の鳶装束専門店での購入が一般的ですが、オーダーメイドする職人も少なくないとか。「寅壱」(鳶装束のアルマーニ!)、「丸源」(鳶装束のエルメス!)が、高級ブランドとして人気を博しています。

■地下足袋

足の裏にゴム底がついていて、つま先が親指と残りの指の二股に分かれ、履物を履かずに直接地面を歩くことができます。

機能

・足裏の状況を掌(てのひら)のような感覚で把握し、足場の状況が足袋を通して直接伝わる。

・指が二股に分かれているため、足のつま先に力が入り、踏ん張れる。

・素足の感覚に近いため地面の状態を把握でき、凸凹やぬかるんだ場所でもバランスがとりやすい。

・足にフィットするので動きやすい。

・安価で丸洗いできる。

建設現場の足組はネジで組み立てられ、ネジが劣化して足場が崩れる危険性をはらんでいます。そのため、鳶職人は足の裏にも目がついているといわれ、ネジのゆるみを職人がいち早く察知するためにも、地下足袋はなくてはならない存在なのです。

「玉掛け」「足場」「鉄骨」に必要不可欠な鳶の資格

鳶職人は「足場鳶」「鉄骨鳶」「重量鳶」に分類されます。 

●足場鳶:建築図面から建物をイメージして、建設現場で足場を組む職人。他の職種の職人が作業しやすいよう、足場を組む。

●鉄骨鳶:鉄骨造の建物で、鉄骨をクレーンでつり上げ、高所で骨組を組む職人。

●重量鳶:建築物の内部に機械などの重量物を据え付ける。

鳶職人には、「玉掛け」「足場」「鉄骨」という、「三種の神器」と呼ばれるほど、必要不可欠な資格があります。

●玉掛け:最初に取る資格で、クレーン等で荷を吊る時、ワイヤーロープなどを吊り荷に掛ける作業のこと。

●足場:玉掛けの次に取得する資格。 足場作業の経験が3年以上必要。

●鉄骨:3年以上の実務経験の後に取得する資格。

「足場鳶」「鉄骨鳶」が一般的によく知られる鳶職人ですが、「足場鳶」と「鉄骨鳶」を兼ねる職人もいます。

鳶職人は見習いから始まり、先輩職人の厳しい指導を受けます。現場の安全と工事の成功を根本から支える責任はそれだけ大きく、それは職人が自らの仕事にもつ誇りとやりがいにもつながります。

無事に竣工すれば、足場、鉄骨、重量……鳶職人が手がけた仕事は目に見えるかたちでは残らないものの、完成した建造物を見上げたとき、そこに何物にもかえがたい達成感と満足感を得るのだそうです。

鳶の名の由来

そもそも、どうして「鳶」なのでしょう?

「鳶」は別名「鳶の者」「鳶工」とも 呼ばれます。

名前の由来をたどると、一説に棟上げ(むねあげ)の時、梁から梁へ文字通り飛んだので鳶といわれるという説や、 あるいは、古くは鳶口という、鳶の嘴(くちばし)のような形状(長い柄の先に鉄製の穂先を取り付けた)の道具が、組織された町火消の消防作業に使われたことから、鳶職の名がついたという説もあります。

名前の由来を知ると「鳶」と呼ばれる理由が理解できますが、実際に現場では、長さ1.5〜2mほどの木製の棒の先に、名前の由来となった鳶の嘴のような、金属製の金具が取り付けられているそうです。現在でもこうした用具が、手作業が必要な木造解体や移動、消防作業では消火作業での障害物の除去や解体に使われています。

東京タワーは、地下足袋の鳶職が手作業で組み上げた!

現在、東京スカイツリーに次ぐ、日本で2番目に高い建造物(電波塔)「東京タワー」。東京のシンボルとして長く君臨し、日本人に愛されてきた地上333mの東京タワーは、驚くことにすべて鳶の職人たちが手作業で組み立てたそうです。

東京タワーは、パリのエッフェル塔を模してつくられましたが、高さ333mはエッフェル塔よりも13m高く、自立鉄塔としては世界一。世界有数の地震国で台風の多い日本にエッフェル塔を越える塔を建て、しかも使用鋼材はエッフェル塔の半分、工期も半年以上短かった点から、日本の技術力を世界に示すことになりました。

実際の工事期間は、昭和32(1957)年6月29日から、昭和33(1958)年12月23日までの1年半。昭和34年初頭の開業がすでに決まっていたため、異例のスピードで工事を完成させたようです。

現場では常時400人もの関係者が、朝6時から夜6時までフル稼働。鳶の職人たちは想像を絶する高所で、しかも、安全帯や落下防止の手すりやネットがない中、俊敏に30センチほどの足場をつたいながら作業していたようです。

この歴史的現場で働いていた鳶職人は、”鳶の世界に黒崎あり”とうたわれた黒崎建設の精鋭部隊。作業自体もすべてがアナログで、例えば当時の鉄骨と鉄骨を接合する方法は、

1. リベットと呼ばれる鉄のピンを火鉢で800度になるまで熱する。リベットは赤い鉄の塊となる。

2. それを職人が長い鉄箸ではさみ、様子をうかがって上の作業場へ投げ上げる。

3. 上で待ち構えていた職人が柄のついた鉄バケツでキャッチ。

4. バケツでリベットを受け取った職人は、鉄骨の穴にリベットを差し込み、ハンマーで一気に打ち付けて接合。 打ち付ける力が強すぎると鉄骨が歪んでしまうので絶妙な力加減を要する。

5. これを28万回繰り返す。

800度もの高温リベットを20メートル上にいる職人に放り投げることもザラにあり、このやりとりは「死のキャッチボール」として有名になりました。想像するだけで冷や汗が出そうですね。

この歴史的現場では、建設中の昭和33(1958)年6月30日に鳶職一人が強風に煽(あお)られて転落死し、麓(ふもと)の増上寺で葬儀がとり行われました。

1件の死亡事故を出したものの、1958年当時の建設業における年間死亡者数は1846人であったことと照らし合わせると、東京タワーの工事の難易度や当時の安全設備の不備などを考慮しても、驚異的な数字といえるでしょう。また、東京タワーが完成した1年後に全国に甚大な被害をおよぼした伊勢湾台風が上陸しましたが、風速52mの風にびくともしなかったことも、大きな話題になりました。

地下足袋から安全スニーカーへ

地下足袋の鳶職が、命がけで組み上げたともいえる東京タワー。高所で作業する鳶にとって、地下足袋はなくてはならない命綱とも思えるのですが……。

足に重いものを落としてもケガしないようにと、大手ゼネコンでは地下足袋が禁止になり、指先に鉄板などが入った安全靴が今では主流になっています。しかし、高いところで仕事する鳶にとって足下は悪く狭いうえに、安全靴だと重くて指先に力が入らず、バランスが取りにくいとされています。なかには、高所用の軽い安全靴もあるようですが、地下足袋ほどにはしっくりとこないようです。

それでも時代の変化や状況に合わせ、いま最も流行しているのは安全スニーカーだそうです。安全スニーカーの分野には一流スポーツメーカーも参入しており、ぱっと見は普通の運動靴に見えますが、先端に硬いプレートが入り、しかも軽いそう。ただし実際のところ、どれだけの鳶職が地下足袋でなく、安全スニーカーを履いているのかは定かではありません。

鳶職になるには? 待遇は?

鳶職人になるためには、中学や高校卒業後(高校中退も可)に、鳶職人や土工など専門の建設会社で見習いとして働き始めます。 真夏も真冬も屋外で働き、先輩から厳しい指導を受け、仕事に慣れるまでは精神的にも肉体的にもきつい仕事とされています。

一人前の職人になると、「職長」というポジションで建設現場を任され、工程管理・施工管理・安全管理を行います。

【主な仕事の内容】

●建設現場での作業はだいたい8時~17時 。

●勤務中は10時、12時、15時の3回必ず休憩がある。

●残業はほとんどなし。

●休日は、日曜祝日。 その他の休みは、お盆と年末年始。普段の休日が少ない分、比較的長めに休暇をとる。

●雨の日は作業を行わず、休日。

●台風がくる際には、足場の倒壊を防ぐため養生シートを一時的に外したり、仮囲いの設置、足場の補強や点検を行う。

●状況によっては、建設現場に泊まり込むこともある。

【気になる鳶の収入】

鳶職人の給料を日給に換算すると、

●見習いで7000円~1万円程度

●普通の鳶職人で1万円~1万4000円

●職長クラスで1万2000円~1万8000円程度

近年、新築物件の着工は減少傾向にあるものの、マンションの建設ラッシュを迎えた2000年頃から、12年ごとに行われる改修工事の時期を迎えています。そのため大規模な改修工事が続き、鳶職人の需要は高まっています。その一方、鳶職人の高齢化や中堅層の人材が育たなかったこと、人材不足も深刻化しているようです。

学歴不問、ヤル気と元気な体を武器に鳶としての活躍をめざす若者も増えているなか、深刻な人材不足から、生きのいい若い人材はどこでもウエルカムとされ、鳶職の見習い前にアルバイト募集も多く、アルバイトからの正社員登用もあるようです。

鳶職は、一職人として活躍するほかにも、「とび技能士免許」という国家試験に合格し、将来的に鳶の親方として独立するという道もあります。

ただし、東京タワーの鉄骨部分をスイスイ歩いて渡れる度胸のある人はともかく、いくらヤル気があって健康でも、高所恐怖症では無理といえるかもしれませんね(笑)。

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