警察組織の歯車として働く警察官の仕事──ピラミッド型の「階級」と手厚い待遇
2021.07.06前回の記事では、警察組織全体を管理・運営していくことを主な業務とする「警察庁」と、犯罪や事件、事故に対応しながら地域住民の暮らしを守る「都道府県警察」の違いを通して、警察官について学びました。また、警察官の業務や適性、なり方などを学び、「警察官採用試験」合格者が、警察官として心身ともに鍛え上げられる警察学校についてご紹介しました。
警察組織全体を管理・運営する「警察庁」においては、いわゆる「キャリア」と呼ばれる国家公務員、「都道府県警察」所属の警察官は「ノンキャリア」と呼ばれる地方公務員で、仕事内容やなり方は大きく異なりますが、警察組織は巨大であり、「警察庁」と「都道府県警察」が国の治安を維持し、私たちの生活を守るという大きな任務をまっとうするため、24時間、365日、力を合わせて働いています。
今回は、警察学校を卒業してからの警察官の歩みを中心に、みていきましょう。
一年以上におよぶ研修期間
警察学校で厳しい規律に基づく集団生活を過ごしながら、警察官としての心構えや、業務に必要な基礎体力、武道、法律知識、けん銃の取り扱い方などを学び、「初任科過程」を修了(警察学校を卒業)した新任警察官は、各警察署に配属され「職場実習」を行います。
職場実習では、まず交番に勤務し、先輩警察官と街をパトロール、書類の書き方を教わり、刑事課での実習では容疑者の自宅の張り込み捜査というような、かなり実戦的な業務もあるようです。
職場実習の期間は大卒などの学歴に関係なく、共通して3ヵ月間。職場実習を終えると再び警察学校に戻り、「初任補習科」という研修を受けます。研修内容はより実務に即したものとなり、被害届や実況見分調書といった書類の作成方法などを学びます。ここでも全寮制であることに変わりありませんが、初任科過程のような厳しい規律はほとんどなく、自由時間も設けられています。
初任補習科の期間は大卒で2ヵ月間、高卒・短大卒で3ヵ月間。初任補習科を終えると再び警察署での実習(実践実習)が再開され、その期間は大卒で4ヵ月、高卒・短大卒で5ヵ月。これらを経て、ようやく新卒採用時における教養課程は終了となりますが、それらに要する期間を合計すると大卒で15ヵ月、高卒・短大卒で21ヵ月。つまり、新任警察官は一年以上が研修に費やされることになります。
このように警察組織は、民間企業などと比較してもかなり手厚い教育体制が敷かれているといえるでしょう。
警察法に定められた9つの階級
警察官には、警察法で定められた9つの階級があり、それぞれの名称は下から巡査、巡査部長、警部補、警部、警視、警視正、警視長、警視監、警視総監となります。階級を上げることを「昇任」といいます。
このほか、警察法にある正式な階級ではありませんが、巡査と巡査部長の間には「巡査長」、警視総監の上には「警察庁長官」という地位として運用されている階級があり、実質的には11段階とされています。
なお、身分としては、基本的に警視までが地方公務員、警視正からは国家公務員となります。
警察学校を卒業して各都道府県警察に警察官として新任されると、全員「巡査」として横並びのスタートを切りますが、警察官は実力主義の世界であり、その後昇任していくスピードは学歴や個人によって異なり、昇任して階級が上がれば収入も上がり就くことのできる役職も多くなります。
また、制服には階級章(バッジ)をつけることが義務づけられ、一目で階級がわかるようになっています。
警察組織はピラミッド型の厳しい縦社会
では、各階級について、簡単にご紹介しましょう。
①巡査
〇高卒・大卒関係なく、ノンキャリアは全員が巡査からスタート、交番や駐在所などに勤務し、パトロールや事務作業などを行う。
〇警察学校を卒業した新任警察官は、巡査として数年間の交番勤務を行うケースが一般的。
②巡査長
〇巡査とともに交番勤務などをこなすとともに、巡査の指導的役割を担う。
〇警察法上は正式な階級ではないが、仕事上の地位として明確に規則に定められ、給与も巡査を上まわる。
〇巡査として数年間のキャリアを積み、勤務成績が優良であると認められた者から巡査長が選考される。
③巡査部長
〇警察本部の係員や警察署の主任として担当業務を行いつつ、上司である初級幹部の警部・警部補を補佐したり、巡査・巡査長の指導監督を行う。
〇警部補以上になると管理職としての業務が多くなり、現場の第一線で働きたい場合には、あえて昇任せず、定年まで巡査部長として勤め上げるケースもある。
〇そのため階級としては巡査部長であっても、上位の階級保持者よりはるかに実務に習熟しているケースもあり、警察官の実力は階級だけでは一概に判断できない面もある。
④警部補
〇警部補は、警察庁・警察本部の主任、係長クラスで、現場責任者として指揮命令を発することが主な役割。
〇各種令状の請求ができるようになり、部下の勤務評定を行ったりと、手がける事務作業の幅が一気に拡がり、年齢的にも30代や40代が多く、警察官として気力・体力ともに充実している頃といえる。
〇ノンキャリアが「巡査」から横一列にスタートするのに比べ、キャリアは新任警察官として「警部補」から横一列のスタートとなる。
⑤警部
〇役職としては警視庁・警察本部の係長や各都道府県警察本部の課長補佐などで、それぞれが担当する分野の責任者として部下を束ねる。
〇逮捕状の請求が可能なのは警部の階位から。
〇ノンキャリアの場合には、警部補として実務経験が4年以上あれば警部として昇任試験の受験資格が得られ、キャリアの場合は採用直後の研修と交番実務を経て、試験なしで昇任するため、最年少の場合23歳で警部になることも。
〇管理職としてのデスクワークがほとんどであり、現場に出る機会は少ない。
⑥警視
〇警視の役職として代表的なものは、警察本部の管理官(捜査一課や捜査二課といった複数の課を統括するポスト、重大事件の捜査指揮などを行う)や中小規模の警察署の署長など。
〇ノンキャリアの場合、警視になるには警部として6年以上の実務経験が必要、一方のキャリアの場合は、20代後半で警視の役職に就く者も多い。
⑦警視正
〇警視正は、警視では就けない大規模警察署の署長になることができる。
〇警視正以上に昇任するためには、基本的に都道府県警察が実施する警察官採用試験ではなく、国家公務員試験を受けたいわゆる「キャリア」として警察官になる必要がある。
〇警視正に昇格すると地方公務員であった場合でも、警視正からは国家公務員という扱いになる。
〇国家公務員総合職採用試験に合格し、警察庁に採用されたキャリア組の警察官であれば採用後15年、国家公務員採用一般職試験に合格(いわゆる準キャリア組)の場合は、採用後25年で昇任する。
〇ノンキャリアの場合、最短で昇任し続けても警視正にたどり着けるのは50代半ばで、ほどなく定年退職を迎える。
⑧警視長
〇警察本部の部長、また警察学校長として主任される場合もある。
〇キャリアの警察官は、採用22年目に優秀な者から警視長になり、準キャリアの警察官は定年前に全員が就くことができる。
〇ノンキャリアでは最高位だが、警視長まで昇任できる者はほぼいない。
⑨警視監
〇警察庁で「次長」「局長」「官房長」などを務めるほか、警視庁で「副総監」などを務める。
〇警視長まで昇任すれば全員が警視監に昇任。
〇キャリアの警察官は50代で基本的に全員が昇任し、警察官の中でも40人ほどしかいない。
⑩警視総監
〇警視庁のトップで、日本で一人。
〇国家公安委員会が都公安委員会の同意を得て、内閣総理大臣の承認も得ることで任命される役職。
⑪警察庁長官
〇日本の警察官の最高位の官職名・職位であるが、階級を有しない警察官。警察法にある正式な階級ではないものの、警視総監よりも階級は上。
警察官の階級は、人数・権限ともに完全なピラミッド型で厳しい縦社会といえるでしょう。警察官は階級ごとに階級章(バッジ)や肩章、活動服(業務中に着用するユニフォーム)、活動帽が細かく分けられており、一目見ただけで階級がわかるようになっています。これは、警察官には時として命にかかわるような危険な業務もあり、どのような場合にも現場が混乱しないよう、命令指揮系統がしっかり整っている必要があるためです。
交番勤務は24時間勤務のローテーション
警察学校を卒業した直後の新任警察官は、まず交番に配属されることが一般的であり、「当番(休憩を挟んだ24時間勤務)→非番→日勤」というローテーションを繰り返して働きます。
では、当番の日の警察官の一日を例にあげてご紹介しましょう。
【ある交番勤務の警察官の一日】
8:00/ 出勤
制服に着替え、前日当番の警察官から引き継ぎや連絡事項の確認を受ける。
8:30/ 業務開始
交番前に立ち(立番)、通勤・通学する人などを見守りながら道案内や迷子、落とし物、急病人などに対応。
11:00/ パトロール
活動計画に基づきパトロールへ出発。パトカーに乗り担当エリア内を巡回する。
パトロールの途中、無線機で交通事故(人身事故)発生の連絡が入り、事故発生現場に急行。負傷者の救護や事故発生状況の聴取、二次被害防止のための交通整理などを行う。
駆け付けた交通事故係員とともに、交通事故の捜査を行う。
12:30/ 昼食休憩
交通事故の処理に時間がかかり、計画より30分遅い休憩。持参した弁当や出前を取る。
14:00/ 在所勤務
交番で先ほど取り扱った人身事故関係の書類作成。 交番内に常駐し、110番通報に備えたり来訪者に応対する。
18:00/交番連絡協議会の開催とパトロール
交番連絡協議会を開催し、交番管内の治安情勢等について説明し、地域の要望・意見等をうかがい意見交換を行う。その後、合同パトロールを実施し管内の警戒重点等を確認。
※交番連絡協議会とは、交番の受持区を単位として設置し、地域社会の多様な意見、要望等を決め細かく把握、受持区内の活動に反映し、安全で平穏な地域社会の実現を図るために行う会議 。
21:00/現場急行
交番管内でひったくり事件が発生し、緊急配備発令。被疑者はノーヘルに皮のジャンパー、スクーターに乗った20代男性とのこと。被疑者が立ち寄りそうな場所を重点パトロール。
23:00/ 在所勤務
交替で仮眠を取りながら、書類作成などを行う。
8:30/ 勤務終了
翌日の当直担当者へ引継ぎを行い、帰宅。
交番勤務を行う場合も休憩時間は設定されてはいますが、常に不測の事態に備えておく必要があるため、食事は交替で取り、できる限り時間をかけないよう交番内ですませることが一般的。
また当番の日は24時間勤務となり、仮眠の時間はありますが、食事と同じく複数の警察官で交替しながら眠ります。忙しい日は仮眠もままならず、ほとんど寝ずに仕事を続けることもあります。とくに交番が繁華街に位置する場合、犯罪や事件も起こりやすく、都市部であれば深夜でも交番にひっきりなしに人がやってくることも珍しくありません。
なお、休憩時間や仮眠時間は労働時間としてみなされないため、それらの時間に仕事した場合は別途時間外勤務手当が支給されます。
部署移動を繰り返しながらキャリアを積む
警察官の一日の業務スケジュールは部署によって違いがあり、たとえば事務業務中心に行う場合は、一般的な会社員と同じように8:30~17:30前後の日勤となります。さらに刑事であれば、事件発生後は昼夜を問わず長時間の捜査にあたり、そもそも業務スケジュールなどあってないようなもの、という部署もあります。
刑事は、数ある警察官の仕事のなかでも花形といえますが、同時に激務であることも確か。犯罪者を一刻も早く捕まえなければ人々の安全が脅かされ、さらなる被害者を生んでしまう恐れかあるため、ひとたび事件が発生すれば、ほとんど不眠不休で事件の捜査にあたることも珍しくありません。
通常、警察官は数年単位で部門間の異動を繰り返し、多様な職務を経験しながらキャリアを積み、警察官としても人間としても鍛えられていきます。高卒でも大卒でも、生活安全部門や交通部門、刑事警察部門など、数年単位での部署異動を繰り返し、さまざまな経験を積んでいくことは共通しています。
高い給与設定と諸手当も充実
警察官の給与は階級ごとに明確な差がつけられ、個人間でのばらつきの大きいのが実状ですが、総じて一般的なサラリーマンを超える水準であり、市民の安全を体を張って守るという業務にふさわしい手厚い待遇といえるでしょう。
総務省の「地方公務員給与実態調査結果の概要」によると、警察官の平均年収は約700万円と想定され、行政職をはじめとする一般的な公務員と比較しても高く、警察官の業務には大きな危険がともなうぶん、高給に設定されているといえます。
さらに警察官の諸手当は、ほかの職業よりも圧倒的に数が多く、その支給額も非常に高くなっています。一般的な超過勤務手当(残業手当)や通勤手当、扶養手当、住居手当はもちろん、勤務地に応じて「地域手当」や「寒冷地手当」などが支給され、そのうえ、業務の専門性や危険性の高さを評価した「特殊勤務手当」もあり、それらを合計した支給額は月平均13万円を超え、年収に換算すると約170万円にのぼります。
このため、警察官の給与は諸手当が占める割合が非常に高く、諸手当は採用区分や勤続年数、階級などに関係なく支給されるため、警察官は誰でも一定以上の待遇が保証されているといえるでしょう。
また、警察官の福利厚生は非常に充実した水準にあり、警察官専用の独身寮や社宅も完備、生活費を抑える待遇が用意されたケースも目立ち、健康診断費用やスポーツ観戦費用、ジム利用料、旅行費用、引っ越し費用、さらには運転免許取得費用の補助も受けられます。とくに、警察共済組合などが斡旋する警察官向けの保険契約は、民間向けの契約に比べ保障も厚く、掛け金も低く抑えられているようです。
一方、キャリア組といわれる、いわゆる「警察官僚」は順調に出世すれば30代後半で年収1000万円前後、その後も最大2200万円まで昇給し続けます。
── 事件や事故はいつ何時、起きるかわからず、警察官はその不測の事態に備え、また事件や事故が起きた場合には、危険も顧みず向き合わなければなりません。警察官といえば、交番で道を聞いたり、落とし物を届けたりなど、私たちの生活に身近ともいえる職業ですが、その業務の重さや大変さは、私たちの想像を絶するものでしょう。
個人でも組織でも、警察の業務は細かく分担され、また「階級」分けされる厳しい縦社会は警察の特徴といえます。これらは、どのような緊急の事態にあっても、無用なトラブルや混乱を少しでも回避するための策であり、ひとりひとりの警察官が、「我」を捨て、組織の歯車に徹することが求められます。
「警察官採用試験」の合格者が全員入る警察学校では、歩く時の腕振りの角度、敬礼の角度、起立の仕方などまで細かく決められ、「地獄のような」と形容する警察官もいるほど、その厳しさに学校を辞める者も少なくありません。それは逆に、これから警察官という厳しい任務を担っていくだけの適性があるか、ふるいにかける意味があるのだともいわれます。
自分の感情や意志を捨て、警察組織の1個の歯車に徹する……。警察官に求められる心身の強靭さ ── それが私たちが平和に暮らせる礎(いしずえ)ともなっていることを覚えておきたいですね。
上の階級に昇任することで、権限も収入もアップする警察官ですが、階級が上がれば上がるほど管理職としての仕事が増え、現場に出る機会は減少します。このため、あえて昇任試験を受けず、現場の最前線で働くことにこだわり続ける警察官も大勢います。
営利を追求する一般企業とはやや事情が異なり、収入を増やすことや出世だけが警察官としての成功ではないようです。
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