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24時間365日、人々の安全を守る警察官の仕事と適性

警察官は国の治安を維持し、私たちが安心して暮らせる社会を守るという大きな任務を担っています。その業務は日々のニュースや新聞などで報じられるものから、私たちの生活に身近なものまで多岐にわたりますが、警察官には任務をまっとうするため、逮捕権や拳銃の使用など、ほかの職業にはない強力な権限が多数与えられています。

危険と隣り合わせのハードな仕事ですが、 それに見合うだけの社会的な信用、やりがい、公務員という安定性もあり、人気の高い仕事です。

犯罪はその時代を反映し、近年、捜査活動では科学技術が取り入れられる機会も増え、今後はハイテク分野に強い人や、外国人犯罪者に対応できる語学力や国際感覚の需要も高まっていくと考えられています。今回は、警察官について、なり方や適性、仕事内容などをみていきましょう。

「警察庁」と「都道府県警察」の違い

警察職員は全国におよそ30万人いるといわれ、国の行政機関であり各地の警察を指揮する「警察庁」と、その地域で発生した事件に対処する「都道府県警察」で成り立っています。

「警察庁」に所属する警察官(いわゆるキャリア=国家公務員)と「 都道府県警察」に所属する警察官(ノンキャリア=地方公務員)では、なり方から業務の内容、待遇なども大きく違うことをまず念頭におきましょう。

一地方で発生した事件は管轄の都道府県警察が担当し、広域犯罪や大規模な災害については都道府県警察が警察庁をまとめ役とし、ともに協力して解決を目指します。

また警察庁では、警察行政に関する計画や管理、都道府県警察間の調整業務などを行い、各都道府県警察では、各自治体によって違いはあるものの、パトロールや犯罪捜査、生活指導、警備、交通の取り締まりなどを、それぞれ行っています。

都道府県警察の役割は組織によって違い、また同じ組織に所属していても部署などによって実際の仕事内容はさまざまですが、平和な社会を実現するという共通目的の下、日々各人の仕事をまっとうしています。

警察官の業務

警察庁と都道府県警察に分けて、それぞれみていきましょう。

【警察庁の業務】

〇警察庁は、金融庁や国税庁などと同じ国の行政機関のひとつであり、警察に関する法律に基づき、警察組織全体を管理・運営していくことを主な業務としている。

〇各都道府県警察の監督、複数の都道府県をまたいで発生した犯罪や事件の調整業務を行うが、基本的に実際に犯罪を捜査したり、犯罪を取り締まることはない。

〇例外的に、警察庁内には「公安」という特殊組織が存在する。公安は一般的な警察とは異なり、「国」そのものを守ることが役割であり、政治事件やテロ、国際犯罪など、国家全体の安全を脅かす犯罪を専門的に取り締まる。

【都道府県警察の業務】

都道府県警察は、それぞれの都道府県内で起きた犯罪や事件、事故に対応し、地域住民の暮らしを守ることを任務とし、複数の部門に分かれ、さまざまな方面から地域住民の安全を守っています。代表的な部門について、以下にあげましょう。

〇地域警察部門

110番対応、パトロール、道案内、職務質問、任意同行など、地域に密着して市民の安全を守る部門であり、交番や駐在所などに常駐するいわゆる「おまわりさん」もこの部門に所属している。また、周辺で凶悪事件が起きた際は刑事の指示を受け、張り込み捜査や犯人の追跡を行うこともある。

〇生活安全部門

ストーカーや悪徳商法、少年の非行など、生活に身近な犯罪に取り組む部門であり、各家庭に対して防犯活動を呼びかけたり、学校で覚せい剤に関する講習を行ったり、ストーカー被害などの相談にのったりする。さらに、繁華街や夜間に出歩いている青少年の補導を行うなど、犯罪を取り締まるというよりも、犯罪を未然に防ぐ役割が大きい。

〇刑事警察部門

殺人、傷害、窃盗、詐欺、違法薬物などの犯罪を取り締まる部門。事件が発生すると現場に急行し、被害者の事情聴取や周辺への聞き込みを行い、事件を捜査する。証拠をつかむために張り込みや尾行することもあり、犯人特定後には逮捕・取り調べなどを行う。

〇交通部門

白バイなどで街頭に出て、速度違反や駐禁といった交通違反の取り締まりを行う部門。交通事故の捜査や交通安全指導、交通規制、暴走族対策などにかかわる仕事もあり、白バイを意のままに操る高度な運転技術に加え、状況を的確に判断する観察眼を要する。

「警視庁」は東京都を管轄する日本最大の警察組織

〇警備部門

社会情勢の緊迫によるテロやゲリラ活動などを未然に防ぐため、国会や官庁、駅、空港といった要所を警備し、要人を警護する。さらにお祭りやイベントなど、大勢の人が一斉に訪れる場所の警備、災害時の救助活動、地域のパトロールも行い、「機動隊」もこの部門に所属する。

〇総務・警務部門

警察官が安心して仕事に取り組める労働環境をつくるなど、警察組織をバックアップする部門。総務や広報、福利厚生、会計など、組織をきちんと運営するためのさまざまな仕事を担っている。デスクワークが中心だが、事件や事故などで手助けが必要になると、現場へ応援に出向くこともある。

ここまでご紹介した通り、警察庁と都道府県警察の業務の違い、あるいは都道府県警察の業務部門を理解していると、刑事もののドラマもさらに面白く感じるのではないでしょうか。

また、ドラマに登場する「刑事」が、「刑事警察部門」に所属する警察官を指すこともおわかりいただけましたね。そして、警察本部について、都道府県警察では、たとえば「神奈川県」なら「神奈川県警察」と呼ばれますが、「東京都」の場合には、「東京都警察」ではなく、「警視庁」と呼ばれます。警視庁はよく刑事ドラマの舞台にもなり、別名「桜田門」とも呼ばれますが、警視庁は東京都の警察本部、警察庁は全国の警察本部のボス、と覚えましょう。

ドラマでもおなじみの警視庁(別名・桜田門)の建物

個人でも組織でも、役割が明確に分担される

警察組織は巨大なため、たとえばひとつの事件に対しても、目撃証言を集める者、犯人の足取りを追う者、捜査全体を指揮する者など、個々の警察官に異なった役割が与えられ、チームで解決にあたります。

さらに、各都道府県で起こった犯罪や事件に対し、他の都道府県警察が捜査に乗り出すことは基本的になく、無用なトラブルを避けるためのすみ分けがなされています。複数の都道府県にまたがるような広域の事件が発生した場合には、警察庁がそれぞれの都道府県警察を調整し、「合同捜査本部」を設置するなど事件の捜査にあたります。

それぞれの組織単位でみても、互いの権力が衝突しないよう明確な役割分担がなされ、個人単位、組織単位で、おのおのの役割がはっきりと分かれていることが、警察官という職務のひとつの特徴といえるでしょう。

警察官の適性

では、どのような人が警察官に向いているのでしょうか。簡単にみていきましょう。

〇強い正義感がある

警察官の仕事は心身ともに非常にハードであり、ときに自分のプライベートを多少犠牲にしてでも、長時間におよぶ事務対応や事故処理、犯罪捜査などを行わなければならないこともあります。

自分中心の考えでは、警察官はつとまりません。社会秩序を尊重し、犯罪のない世の中をつくっていきたいという強い正義感がなければ、厳しい業務をこなしていくモチベーションを維持することは難しいでしょう。

〇協調性がある

警察は、さまざまな役割・専門性を持った人間がチームを組み、一致団結して日々の難解な事件や大規模な事故に対応し、組織としての強みを生かすことが不可欠です。単独プレーは許されません。

警察学校においても、訓練だけでなく食事や入浴など、あらゆる状況で集団行動が求められ、警察官に必要な協調性を身につけるよう指導を受けます。

チームの和を乱すような身勝手な行動は警察官として最も避けるべきことであり、厳罰の対象となります。よって警察官には、自分優位ではなく周囲を尊重できる、協調性のある人が向いているといえます。

〇モラルの高い人

近年、警察官の不祥事やスキャンダル報道が目立ち、警察官が問題行動を取ることで、警察官に対する世間の目は非常に厳しくなっています。

無論、このような問題行動を起こす警察官はごく一部であり、ほとんどの警察官は日々、真摯(しんし)に業務に取り組んでいますが、ごくわずかな一部の警察官の過ちが、警察組織全体のイメージを悪化させてしまっているのも現実です。

警察官として軽はずみな行動をとるのは許されることではありません。これから警察官を目指す人には、高い理想、倫理観のある人材が求められます。

〇体力がある

警察官の業務はさまざまであり、デスクワーク中心の部署もありますが、基礎的な体力は警察官として不可欠といえます。

とくに新人や若手のうちは休憩もなく24時間の当番勤務にあたったり、事件の捜査で何日間も帰宅できない、炎天下で何時間も立ちっぱなしで警備にあたらなければならない……なども珍しいことではありません。

採用の条件として突出した体力が求められるわけではありませんが、警察官を目指すなら、学生のうちから積極的に体力づくりに励んでおくとよいでしょう。

〇柔道・剣道などの武術スキル

体力と同様、いざというときに相手を組み伏せられるだけの武力は警察官として備えておかなければなりません。警察学校でも柔道や剣道の授業がありますが、警察官として勤務してからも、警察内のクラブなどに所属して、継続的に武術の鍛錬に励む人は多くいます。

〇パソコンスキル

警察官の仕事では、報告書や調書の作成、各種手続きに必要な書類を取りまとめるといった事務作業も多数発生します。警察の仕事はある意味、書類作成に膨大な時間と労力を費やす面が多いため、基礎的なパソコンスキルは必須とされます。とくにIT化が急速に進展した現代では、スマートフォンなどの情報端末が捜査における重要な手がかりになることも増え、IT知識が仕事で役立つ場面もあります。

「警察庁所属」は警察大学校、「都道府県警察所属」は警察学校

それでは、どうすれば警察官になれるのでしょうか。簡単にご紹介しましょう。

警察官になる方法は、警察庁に所属する国家公務員、いわゆる「キャリア」か、都道府県警察に所属する地方公務員の「ノンキャリア」になるかで、大きく分けられます。

警察庁に採用されるためには、「国家公務員総合職採用試験」に合格後、警察庁に対する「官庁訪問」を行い、数回にわたる採用面接を突破する必要があります。

これに対し、都道府県警に採用されるためには、各都道府県が実施する「警察官採用試験」を受ける必要があります。

警察官採用試験には、Ⅰ類・Ⅱ類・Ⅲ類といった難易度の異なるいくつかの区分があり、どの試験を受けて警察官になったかで、就職後の昇任スピードなどが異なります。

Ⅰ類・Ⅱ類・Ⅲ類の区分は、大卒程度のⅠ類、短大卒程度のⅡ類、高卒程度のⅢ類というようなもので、それらは問われる知識レベルを表したもの。学歴が必須となるわけではなく、たとえば中卒でも試験を受けることはできますが、警察官は人気の職業であり、いずれの区分においても高い倍率(6~10倍前後)となり、容易に合格できないことは覚悟しておきましょう。

キャリアを目指す場合には、警察庁は数ある省庁のなかでも人気があり、さらに採用人数は例年10人前後と非常に狭き門、名門国立大学や難関私立大学出身者との熾烈な競争になります。

国家公務員総合職採用試験を突破した場合、採用後は「警察大学校」に入学し、幹部候補生として必要な知識を学びます。一方、都道府県の警察官採用試験に合格した人に対しては、採用後に「警察学校」に入学することが義務づけられています。

全寮制の警察学校で、精神・体力を鍛えあげる

警察学校は全寮制で、自宅が近くにあっても在籍中は寮に入って生活しなければなりません。6ヵ月~10ヵ月間(Ⅰ類採用者は6ヵ月、Ⅱ類・Ⅲ類採用者は10ヵ月 )にわたる研修を受け、寮にはコミュニティスペースや、クラブ活動に使う談話室、自習室、シャワールームなどがあり、警察官としての基礎を身につけながら同期生との絆を深めます。警察学校の授業は平日のみ、土日祝は休日となり、休日は届け出をすれば外出・外泊が可能です。

また、警察学校で学んでいる間も身分は警察官であり、警察官としての給料が支給されます。

では警察学校でどのようなことが行われているのか、具体的にみていきましょう。※下記にあげるケースは代表的なものであり、詳細は自治体によって異なる場合もあります。

【基礎体力をつくる】

〇警察学校の敷地内を早朝に走る「駆け足訓練」などが代表的。警察官に必要な強靭な足腰、持久力を身につける。

〇警察学校では、入浴、食事、授業と授業の間の移動など、さまざまな局面で迅速な行動が求められる。

〇走ること以外にもあらゆる場面で筋力トレーニングを行う。

【武道訓練】

〇いざというときに犯人を制圧するため、柔道、剣道、合気道などを習う。ほとんどの研修生が初心者のため、授業は礼法などの基本動作を習得するところから始まる。

〇習う科目については、男性警察官は柔道または剣道、女性警察官は、柔道、剣道のほか合気道から授業を各人で選択できるケースもある。

【実務訓練】

〇警察官としての実践的なスキルである「逮捕術」( 最小限の力で効率よく犯人を取り押さえる)、「けん銃操作」(片手撃ちや両手撃ち)などを習得する。

〇これらのスキルは、警察組織内部の検定制度(「逮捕術中級」や「けん銃操作上級」 )もあり、警察学校卒業後も引き続き授業を受け、技術向上に努める。

〇そのほかの実務訓練としては、無線通話、交通整理、鑑識実習など。

【座学】

〇警察官業務に必要な、憲法、刑法、刑事訴訟法、民法などの法学、事件・事故の取り扱いなどの知識を学ぶ。

〇増加するサイバー犯罪に対処するため、パソコンを用いたIT知識の授業も行われる。

【教練】

〇警察官としての定められた動きに慣れるとともに、厳正な規律、協調性といった精神を身につけるための訓練。

〇敬礼などの警察礼式を身につけるところから始まり、「気をつけ」の姿勢で長時間立ち続けたり、一糸乱れぬ集団行動を訓練する。

【そのほかのカリキュラム】

〇上記のほかにも、通常の学校と同じように、ホームルーム、朝礼、グループディスカッションなども行われる。

〇人間性豊かな警察官となるために、華道、茶道、書道といった日本の伝統文化を学ぶ情操教育も実施される。

ここで警察学校の一日はどのようなものか、一例をあげましょう。

【ある警察学校の一日】

AM 6:00 起床

AM 6:30  点呼

AM 8:30  ホームルーム

AM 8:50 1限目 座学

AM 10:45 2限目 教練

AM 11:45  昼食・休憩

PM 12:45 3限目 柔・剣・合気道

PM 14:20 4限目 拳銃操法

PM 15:55 5限目 華道

PM 17:15 終業

PM 19:00 入浴

PM 22:30 点呼

PM 23:00 消灯

6時の起床から23時の消灯に至るまで規則正しい団体生活を送ることで、警察職員に必要不可欠な規律意識を高め、仲間と協力しながら問題を解決する力を養います。

警察学校では、警察官としての心構え、剣道や柔道といった武道、拳銃の取り扱い、法律などを学びますが、いずれの訓練も、体力面・精神面ともに厳しいものであることは覚悟しておきましょう。

この新任警察官が警察学校で受ける「初任科過程」といわれる研修の期間は、大卒の場合6ヵ月、高卒・短大卒の場合は10ヵ月。これを終えると警察学校を「卒業」し、配属先の警察署での勤務が始まります。

警視庁 警察官採用ポスター2020より

いつの世も犯罪や事件が絶えることはありません。犯罪や事件は時代を反映する側面をもち、今も新型コロナウイルスの影響下のなか、さまざまな現象が生じています。

警察庁は2020年の犯罪情勢統計(暫定値)で、警察に寄せられた配偶者などパートナーからの暴力(DV)の相談、虐待の疑いで警察が児童相談所(児相)に通告した子どもの数がともに過去最多となったと公表しています。

DVや児童虐待をめぐっては、新型コロナの感染拡大にともなう生活への不安やストレスによる増加のほか、家族以外との接触機会の減少による潜在化が懸念され、同庁は「事案を分析し、関係機関とも連携して対策を進める」としています。

またサイバー攻撃も急増し、新たな不正プログラムが出現し続けていることなどが背景にあるとみられています。
一方で、警察が認知した刑法犯全体は6年連続で戦後最少を更新。とくに、ひったくりや自転車盗などの街頭犯罪が著しく減少。これは新型コロナ対策の外出自粛が影響したと考えられています。

犯罪件数が戦後最小を更新したからといって、警察官が安心できるわけでないのはいうまでもありません。外出を控える行動パターンは経済面での萎縮を引き起こし、めぐりめぐって国民の経済不安、生活不安を高め、容易ならざる事態も予測されます。

── 24時間、365日、人々の安全を守る警察官の業務の重さ、大変さ…… だからこそのやりがいを、認識したいですね。

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