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次世代型エネルギー供給システム「VPP = 仮想発電所」とは?《No.3》

政府による導入促進の後押しもあり、再生可能エネルギーに対する意識が高まり、官民挙げた取り組みがさまざまなシーンで展開されています。そうしたなか、新聞紙上等で「VPP」というキーワードを目にする機会が多くなってきました。一般にはまだなじみの浅いVPPとは、バーチャルパワープラント(Virtual Power Plant)の略称であり、日本語では「仮想発電所」といわれることが多くなっています。これは、2018年6月の「未来投資戦略2018」でにおいて、“高度なエネルギーマネジメント社会”を構築することを目的に、安倍首相が打ち出した政策のひとつに位置づけられます。

いままさにホットなトピックである「VPP = 仮装発電所」は、従来のエネルギー供給システムを一新する構想に基づいたもの。市場調査会社の富士経済の調べによれば、VPPの関連需要は現在の7600億円から、2030年度には一気に2倍強の1兆6000億円に達すると予測されるほど、成長著しいものと見込まれているのです。

2回にわたって「再生可能エネルギー」「小水力発電」についてお伝えしてきましたが、3回目の今記事では、再生可能エネルギーをスタンダードとして定着させていくうえで必要不可欠になるであろう、この次世代のエネルギー供給システム「VPP(仮想発電所)」についてお伝することにしましょう。

「VPP(仮想発電所)」導入の背景とは?

まずはVPPの言葉を簡単に説明しましょう。VPPとは、多数の小規模な発電所や電力の需要抑制システムを通信技術であるIoT(Internet Of Things)で束ね、一つの発電所のように遠隔制御して機能させるエネルギー供給システムのこと。

従来の電力システムは、電気事業者が自社電源を使って需給調整をおこなってきましたが、再生可能エネルギーの普及に伴い、そのシステムの革新の必要性が出てきました。というのも、電気は貯めることができない特性をもつため、電気事業者は需要に対して、随時、供給(発電)をおこなわなくてはなりません。逆に、供給能力を超える供給はできないことになります。これに加えて、太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギーは、天候などによって電力の出力が変動する特性をもつため、安定した電力供給には至らないというネックがあります。

こうした特性や背景もあり、再生可能エネルギーの取り組みが遅々として進ませない現状にあったのですが、今後は地域や事業者ごとに供給力を確保する仕組みではなく、全国的なレベルで小規模なエネルギーでも広域的に系統運用を取り込めることを目的に、電力の受給調整能力を高めることで安定した電力を供給すべくVPPが構築されたのです。

「VPP(仮想発電所)」の仕組み

VPPの具体的な構造を以下の図表1のとおりになります。

図解説1:アグリネーションコーディネーター/「アグリゲート(aggregate)」は直訳すると「集める(動詞)」「集合(名詞)」。「アグリゲーター」は「集める人」。リソースアグリゲーターが制御した電力量を束ね、一般送配電事業者や小売電気事業者と直接電力取り引きを行う事業者。

図解説2:リソースアグリケーター/各需要家とVPPサービス契約を直接締結し、電力リソースの制御調整を行う事業者。

アグリネーションコーディネーター、リソースアグリケーターとは、需要家側エネルギーリソースや分散型エネルギーリソースをIoTでつないで統合制御し、エネルギーサービスを提供する事業者のことをいいます。図表1のように、役割によってリソースアグリゲーター、アグリゲーションコーディネーターに区分ができます(両役割を兼務する事業者も存在)。

需要家側エネルギーリソース(DSR※3)や分散型エネルギー(DER※4)の保有者もしくは第三者が、発電量が多いときは蓄電池やEVへの充電や生産設備の稼働をおこない、その逆に電力が足りなくなると予想されるときには、蓄電池やEVから放電や生産設備の稼働の停止をおこなうなど、エネルギーリソースを調整(DR※5)し、これらの小さな電力を束ねて発電所と同等の機能を提供をします。

※3:DSR(Demand Side Resources/ディマンドサイドリソース)/需要家の受電点以下(behind the meter)に接続されているエネルギーリソース(発電設備、蓄電設備、需要設備)を総称するもの。

※4:DER(Distributed Energy Resources/ディストリビューテッドエナジーリソース)/DSRに加えて、系統に直接接続される発電設備、蓄電設備を総称するもの。

※5:DR(Demand Response/ディマンドリスポンス)/主な意味は文中のとおりです。

すでに始まっているエネルギーリソースアグリゲーションビジネス

先に述べたとおり、エネルギーリソースを有効に活用するためには、アグリゲーターの存在が必要不可欠ですが、このアグリゲーター事業がいま注目を浴びています。

「バーチャルパワープラント構築実証事業」

経済産業省は2016年から「バーチャルパワープラント構築実証事業」として、VPP構築における「エネルギーリソースアグリゲーションビジネス」の補助事業を始め、2019年は30社の共同参画が発表。エネルギーリソースアグリゲーションビジネスとは、「Energy Resource Aggregation Businesses」を略して「ERAB」といわれるアグリゲーション事業のことであり、VPPやDR(ディマンドリスポンス)を活用し、一般送配電事業者や小売電気事業者などの取引先に対して、調整力やインバランスの回避、電力料金削減、出力抑制回避などのサービスをおこなう事業を指します。

「計画値同時同量制度」

インバランス(imbalance)とは、直訳すると「不安定」「不均衡」という意味の名詞ですが、電気におけるインバランスとは、電力の需要量(消費量)と供給量の差の意味合いになります。日本では、発電事業者や小売事業者は、30分ごとに需給を一致させることが定められており、その需給偏差は「インバランス」とされ、発電・小売電気事業者は市場価格をベースに算定されたインバランス料金を支払うよう規定。これを「計画値同時同量制度」といいます。

ちなみに、日本人にはインバランスよりアンバランス(umbalance)という単語のほうがなんとなくなじみ深い傾向にありますが、インバランスの意味が不安定や不均衡であるのをみれば、インバランスよりアンバランスの言葉の違いのほうがわかりにくく感じます。しかし、電力における意味においては、その意味は厳密には異なります。

その決定的な違いは品詞にあり、unbalanceは「不安定にする」「不均衡にする」という意味を示す“動詞”になり、unbalancedになれば、「不安定な」や「不均衡な」という意味を示す“形容詞”になります。このことから「不均衡」という名詞の意味は持たないことがわかります。いま現在の日本では、和製英語の名詞としてアンバランスと表現したほうが万人がすぐに意味を理解できるといえますが、ビジネスシーンにおいてはやはり使い分けることが大切であることは間違いありません。

米国から始まったネガワットの概念

少し話がそれましたが、ERAB(エネルギーリソースアグリゲーションビジネス)に話を戻しましょう。ここからはERABのなかのひとつで、2017年4月から始動している「ネガワット取り引き」についてご説明していきます。

ネガワットとは、英語では「Negawatt」といい、「Negative Watt」の負・マイナスの意味をもつ「ネガ」と電力の単位「ワット」からできている造語です。一方それと対比して、「発電」はpositive(ポジティブ/肯定的)な電力という意味からポジワット(posiwatt)と表現されることもあります。

ネガワットは、“節電や自家発電によって得られた余剰電力分の電力を発電したことと同等である”という概念であり、1989年に米国の世界的に著名なエネルギー学者エイモリー・ロビンス氏(Amory Bloch Lovins)によって提唱されました。それまでの節電は「善意」によっておこなわれるものでしたが、節電を新たなエネルギー源としてビジネスにするという発想の転換は、米国で非常に大きなマーケットを生み出すきっかけになり、日本はもちろん、世界に再生エネルギーの普及を広めるカギになったのです。

エネルギー資源をつくりだす“下げDR”

ネガワットシステムの中心となるDR(ディマンドリスポンス)には、「上げDR」と「下げDR」の2つの区分があり、その定義は以下のとおりです。

【上げDR】DR発動によって、その発動前より電気の需要量を引き上げること。

上げDRは、やみくもに電力を消費するということではなく、発電量の増える時間帯(昼間)に電気を使うということで、そのほかの時間帯はそのぶん電気を使わないという意味にもなります。

例1:蓄電池を充電する。 例2:需要機器の稼働。

【下げDR】DR発動によって、その発動前より電気の需要量を引き下げること。

電力需給が逼迫する時間帯に、要請によって需要家が電力の消費を抑制することにより、ピーク需要のために必要なエネルギーをつくりだすことができ、環境保全や震災等の災害後の電力確保にも期待されています。

例1:電気のピーク需要時にエアコンの温度を2~3度上げる。

加えて、DR発動によって電力の需要量を細かく上げたり下げたりして、電気の質(周波数)を一定に保つことを「上げ下げDR」といいます。

ネガワット取り引きの流れ

ネガワット取り引きの流れは以下のとおりです。

① 電力会社が需給状況を予測

② アグリゲーターが、電力会社から節電の要請を受ける

③ アグリゲーターが、家庭や企業などの需要家ごとに節電量を設定

④ アグリゲーターが、各需要家へ節電要請をおこなう

⑤ 各需要家が、要請に基づいて節電をおこなう

⑥ アグリゲーターは、各需要家からの需要抑制量を束ねる

⑦ アグリゲーターは、電力会社へ需要抑制量を提供

⑧ アグリゲーターは、電力会社から報酬をもらう

⑨ アグリゲーターは、報酬を各需要家へ支払う

9つのおおまかな流れを整理しましたが、需要家の最大のメリットは「節電」によって報酬が得られるということといえるでしょう。また、報酬には2種類あり、その経済産業省が定めるその概要は以下のとおりです。

【kW報酬】

下げDRは、契約で決められた時期・時間帯であれば、何時でも発動される可能性があります。そのため需要家は、いつ発動されても対応できるような体制を整えておく必要があります。実際の発動の有無にかかわらず、需要抑制可能な容量(kW)に従って支払われる報酬(契約内容によっては支払われない場合もある)。 

【kWh報酬】

下げDRによって、たとえば実際に削減された電力量 (kWh)に従って支払われる報酬。

ERABの「ベースライン」とは、DR要請をしなかった場合に想定される電力需要量を指し、ベースラインから電力使用量を引いた電力量が節電量(需要抑制実績)となります。基本的に事前・事後計測の考え方に基づいて、一定時間帯の平均値をベースラインと設定していますが、ネガワット取り引きでの報酬は、ベースラインに大きくかかわってくるため、推計などに関する標準的な算出手法を確立することが重要とされています。

また、ネガワット取り引きは、事業者だけでなく一般家庭の需要家もアグリゲーターと契約して参加できることから、そのすそ野は広く、再生可能エネルギーのウイークポイントである電力量の不安定さを解決する調整力として大きな期待が寄せられています。

“下げDR”に活用しやすい設備とは?

ネガワット取引の下げDRに活用しやすい設備として経済産業省は以下の6つの設備を挙げています。

①空調/●使用電力が数十kW以上のもの。●高負荷で常用運転しているもの。

②照明/●活動・業務に影響を与えない共用部のもの。●調光率の調整がしやすいLED照明など。

③生産設備/●一定程度の生産能力があり、500kW程度以上の需要制御が可能なもの。 ●常用運転している生産ラインなど。

④自家発電/●発電量500kW以上など一定の規模があるもの。●常時は停止または低出力運転をしており、余力をDRに活用可能なもの。

⑤蓄電池/●10kW以上など一定の規模があるもの。●非常用電源用途などで導入しており、常用運転していないもの。

⑥蓄熱槽/100kW程度以上の蓄熱空調システムなど。

従来の報酬型との違い

節電が報酬につながる新しい仕組みであるこのネガワットですが、実はこれまでにも下げDRと似た特性を有した「需給調整契約」という仕組みがありました。

旧一般電気事業者が大口需要家と締結していた「需給調整契約」は、旧一般電気事業者の依頼に応じて需要家が需要抑制をおこなうことを条件に、電気料金の割引をおこなうことを対価としていたもの。ネガワットとの大きな相違点は2点あります。

ひとつ目は、アグリゲーターの存在です。これまでは、電気事業者と需要家の二者間における締結であったのに対し、ネガワットではアグリゲーターが電気事業者と需要家の間を取り持ち、需要家のエネルギーを束ねることができるので、一般家庭でも参加できるようになりました。

ふたつ目は、従来の仕組みはエネルギーが逼迫したときの需給調整の最終手段とされ、実際に需要家に需要抑制を依頼する機会は限定的でした。しかしネガワットでは、緊急時のみではなく、平常から積極的に運用をおこなうことが期待されています。

エネルギーマネジメントアドバイザー

再生可能エネルギーの普及と将来性から、一般社団法人日本PVプランナー協会エネルギーマネジメントアドバイザー認定センターが2015年に資格認定研修、資格認証が開始した「エネルギーマネジメントアドバイザー(EMA/Energy Management Adviser)」という民間認定資格が注目を集めています。

一般消費者が正しくエネルギーマネジメントを理解するために、消費者に対して正しい知識を提供する専門家を認定する資格で、同センターによれば、2019年9月時点で、EMA認定者総数は2598名にものぼるといいます。

受講者は、エネルギーや省エネ機器に関連する職業に従事する人が当然多く、業界の発展をうかがい知ることもできます。また、深い専門知識がなくとも、申し込み後に送られてくる事前配布のテキストでしっかり予習すれば、合格は可能とされていることもあり、ネガワット参加に興味のある人の参加も多い現状にあります。

エネルギーマネジメントアドバイザー認定センターによる、EMA認定講座のカリキュラムは以下のとおりです。

①エネルギーマネジメント活動を実践するためのスタートアップ

●エネルギーの基本知識。●エネルギーと環境問題。●第5次環境基本計画。

②エネルギーマネジメントビジネスの市場性

●国の政策とエネルギーマネジメント。●第5次エネルギー基本計画。

③エネルギーマネジメント製品や省エネ住宅の動向

●省エネ基準、ZEH基準。●創エネ、蓄エネ、省エネ、HEMS。●卒FIT、ESG投資、SDGs、RE100など。●グローバルな視点でのサプライチェーンの展開について。

①~③のカリキュラム修了後、事前送付のテキストと当日の講義から40問出題の認定試験(設問選択方式)が実施され、その後、試験の合格者に結果が通知、認定登録となります(ただし、2年ごとに更新が必要です)。

ここ数年で、自然環境の破壊は臨界点に達する可能性がある

エネルギーに関する話題が世界の関心事となり、一人ひとりの暮らしから産業、経済といったマクロな視点で、環境に配慮した取り組みが喫緊の課題となっているいま、VPPの構築によって参加者の裾野は広がり、再生可能エネルギーはわたしたちにとって身近な存在となりつつあります。

3回にわたり、エネルギー関連のホットトピックスにまつわる“あれこれ”をご紹介してきましたが、ここで喫緊の課題という言葉を提示した理由は、「ここ数年で、自然環境の破壊は臨界点に達する可能性がある」と専門家が強く危惧・警告している点によります。それは例えば、アイスランドの氷塊がある地点まで融解すると、その後、気温が上がらなくても融解が継続し、海面推移が上昇し続けることになる……といった取り返しのつかない状態に陥ることが、ここ数年で起こり得ると指摘されているからです。

── もはや、待ったなしのなか、一人ひとりが主体的意識をもってエネルギー問題へ取り組み。勢いを持って動き続け、日々変化を遂げているエネルギー問題の動向に、“地球に暮らすひとり”として、ぜひ注視していきたいものです。

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