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「堺打刃物」を知っていますか?生活に欠かせない包丁や刃物の伝統的工芸品をご紹介!

伝統的工芸品の要素は見た目の美しさや華麗さなどだけではなく、いかに実用的であるかも重要です。長い間多くの人に使われてきた歴史的事実があり、現在に至っても毎日の日常生活で使用され続けているものでなければなりません。

人々が生きていくにあたり、さまざまな道具が考案され使われてきましたが、最も歴史ある道具のひとつが「刃物」だといえるでしょう。古代の石器から始まり、金属製の刃物が作られ、用途に応じた包丁やナイフ、ハサミなどが開発され、重宝されてきました。

日本でも全国各地に刃物類を作る技術が伝えられています。なかでも古い歴史を持つのが大阪府の伝統的工芸品に指定されている「堺打刃物(さかいうちはもの)」です。今回は「堺打刃物」についてご紹介しましょう。

堺打刃物とはどんなもの?

堺打刃物が製造されているのは、大阪府の堺市や大阪市を中心とした地域です。ここで製造された包丁やハサミは、板前などの多くのプロの料理人に愛用されていることでも知られています。業務用でのシェアは実に90%以上といわれるほどです。

人気の理由は切れ味のよさ。堺打刃物は「地金(じがね)」という軟らかい鉄と、「刃金(はがね)」という硬い鋼(はがね)の異なる素材を合わせて作られていて、製造工程における「鍛冶(かじ)」と「研ぎ(とぎ)」の技術の融合が大きな特長です。鍛冶師(かじし)は地金に刃金をつけて炉の中で熱し、ハンマーで叩き打ちのばして刃物の形を作ります。その刃先を研師(とぎし)が数種類の砥石を使って繰り返し研いで美しい包丁に仕上げるのです。

代々受け継がれ培われてきた優れた技を身につけた熟練の職人がそれぞれの専門分野で分業することで、強くしなやかで、抜群の切れ味を有する刃物の製造を可能にしています。

古い歴史を持つ堺打刃物

堺市周辺にはいくつもの古墳があるのをご存じでしょうか。

なかでも「仁徳天皇陵」という名で呼ばれる「百舌鳥耳原中陵(もずのみみはらのなかのみささぎ)」は、世界文化遺産にも登録された、日本最大の前方後円墳として有名です。

面積は約46万4000平方メートルにおよび、三重もの堀を巡らせたこの巨大な古墳を築造するためには、大勢の人手に加えて、鋤(すき)や鍬(くわ)などの大量の工具が必要でした。そのため、日本中から道具を作る鍛冶職人が集められます。古墳は15年の歳月をかけて造られましたが、その間に鍛冶職人たちは堺に住み着き、工具類を作る技術を磨いていったと伝えられています。

つまり、堺打刃物の歴史は、古墳が作られた時代である5世紀頃から始まっていると考えられるのです。

時代ごとの需要に応えて発展

平安時代には鋳造や鍛造の技を蓄えていた堺の職人たちは日本刀を作っていましたが、戦国時代になると、ポルトガルから伝来した火縄銃が持ち込まれるようになります。優れた技術を有していた鍛冶職人たちは火縄銃や鉄砲をも製造することができるようになり、やがて堺は武器の主要な産地として発展していきました。

その後、火縄銃の需要は減少しますが、時代の移り変わりとともに人気を得たのがたばこでした。当初はポルトガルから持ち込まれたたばこが国内でも栽培・製造が開始されるようになると、たばこの葉を刻む包丁が必要になります。そこで、堺の職人たちは「たばこ包丁」なるものを作り始めました。

たばこ包丁はよく切れるうえ長持ちすると評判になったことから、江戸幕府から政府専売品としての認可を得ることになります。品質を証明する「堺極(さかいきわめ)」の刻印を入れて販売すると、“堺”の名は瞬く間に全国に知れ渡ることになるのです。

出刃包丁の開発から世界の包丁へ

やがて、たばこの生産が機械化されたことにより、たばこ包丁も需要がなくなってしまいます。とはいえ、職人たちにはこれまでに培ってきた豊富な経験と長い間育まれてきた技術がありました。

鍛冶職人と研ぎ職人が互いの技に磨きをかけ、分業で専門の仕事に集中することで、何度も叩いて鍛え上げ、繰り返し研ぎ上げた品質の高い刃物が生産されていたのです。

江戸時代には、片側だけに刃が付けられた包丁が作られます。堺ならではの「片刃」が特長の「出刃包丁」は魚を捌くために開発されたもの。刃に厚みと重さがあるため、魚をぶつ切りにしたり、三枚におろしたりするのに適しています。この包丁を作り出した鍛冶職人が出っ歯だったため、当初は「出歯包丁」といわれていたとのだとか。

その後、堺市周辺では片刃だけではなく、両刃やはさみなど、各種の料理用刃物が作られるようになっていきます。歴史ある伝統を受け継いだ技術で作り続けられた刃物は、1982(昭和57)年3月5日に「堺打刃物」として伝統的工芸品に指定されました。

堺打刃物の種類

では、刃の違いによる堺打刃物の代表的な包丁を紹介しましょう。

■片刃包丁

・出刃包丁:刃に厚みと重さがある包丁。魚を捌くために使う。頭を落とし、三枚におろすことができる。

・薄刃包丁:野菜を切るための包丁で、鋭角な刃で幅が広いのが特長。

・柳刃包丁:刃が長く鋭角な包丁。主に関西で刺身を引くのに使われる。

・蛸引包丁:主に関東で刺身を造るために使われる包丁。先が四角い角になり尖っている。

■両刃包丁

・三徳包丁:文化包丁とも言われる一般的な包丁。家庭で使われることが多い。

・牛刃包丁:いわゆる洋包丁でヨーロッパから伝わったもの。肉だけではなく何でも切れる。

・菜切包丁:野菜用の四角い形の包丁。桂剥きや千切りなどに適している。

・ペティナイフ:サイズの小さな包丁。野菜や果物の飾り付けなど細かい作業に使う。

この他にも、高級魚ハモの小骨を切る「はも骨切包丁」、うどんやそばを切る「麺切包丁」、製菓用の「菓子切包丁」など、専用の包丁があります。バリエーション豊かなのが鰻を捌くための「鰻裂(うなぎさき)包丁」で、各地域によって鰻の裂き方が違うため、それに合わせた形やサイズがあります。

堺打刃物の製造工程(鍛冶編)

堺打刃物の包丁ができるまでを簡単にご紹介します。

1.刃金つけ

熱した地金(柔らかい鉄)を叩いて、刃金(硬い鋼)を接着して、約900度の炉に入れて熱します。

2.先付け・切り落とし

熱した2つの材料をハンマーで叩いてなじませ、包丁の形をつくり、不要な箇所を切り落とします。

3.中子とり・整形

再度、約700度の炉で熱して、ハンマーで叩いて密着させてうちのばし、柄になる部分を作ります。

4.焼きなまし

包丁をわらのなかに入れて、熱を冷まします。

5.荒たたき・裏すき

上記4の包丁の表面にできた酸化被膜を叩いて剥がしたら、動力ハンマーで粗く叩き、グラインダーで研磨します。裏側にくぼみである裏すきを付けます。

6.仕上げ卸・断ち回し・歪みとり

ハンマーで叩いてならし、包丁を鍛えあげます。ゆがみをとったら型に合せて余分な箇所を落とします。

7.刻印打ち・摺り回し

裏に「堺打刃物」の刻印を打って、全体をグラインダーで仕上げたら、ねじれなどの修正をします。

8.泥塗り・焼き入れ

焼きムラをなくすために泥を塗って乾かしたら、約800度で加熱し、一気に水につけて冷却します。これで刃金の硬度が高まります。

9.焼きもどし・泥落とし

包丁を再度約200度の炉で熱したら、垂らした水滴の走り具合で温度をチェックします。この作業で刃金に粘りが出て、欠けにくい刃が生まれます。

10.歪みなおし

木製の台の上に乗せて槌で打ち、わずかな歪みを修正します。 

堺打刃物の製造工程(研ぎ編)

続いて、研ぎ職人が何度も研いで刃をつける作業を行います。

1.荒研ぎ

木型にはめた包丁を目の粗い回転砥石で荒く研いだら、刃先の角度を決め、ゆがみを調整します。

2.本研ぎ

刃の厚さを調整しゆがみをならしながら、本格的に研いで刃をつけていきます。職人の技の見せ所です。

3.裏研ぎ

鍛冶ですいた刃の裏を研いでくぼみを整え、刃をさらにうすく研ぎます。

4.パフ仕上げ

回転パフ(研磨布)を当てて磨き、刃に光沢を持たせます。

5.ぼかし

砥石の粉を練った泥状のものをゴム片につけて刃に擦り付けます。地金部分はくもりますが刃金部分はツヤが出るので、刃紋が浮き出て境目がはっきりします。

5.仕上げ

目の細かい砥石で研ぎあげ、切れ味よく仕上げたら、錆止めの油引きをして柄をつけて完成です。 

── 「用の美」として美しい佇まいをもち、利便性があり、長く広く愛されてきた伝統的工芸品「堺打刃物」。手間のかかる手作業が多く、後継者不足という問題はなきにしもあらずですが、手作りのよさや品質の高さが再評価されています。私たちの暮らしを彩ってくれる素晴らしい伝統的工芸品に注目していきましょう。

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