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食品加工の現場から広がる「トレーサビリティ」の“いま”

ここ数年、ブーム再来ともいわれるバーベキュー。この夏もキャンプ場などでバーベキューを楽しまれた方も多いのではないでしょうか。さて、バーベキューといえば牛肉!ですよね。スーパーなどに並ぶ焼き肉用、ステーキ用、ローストビーフ用塊肉……さまざまな牛肉を見比べて買い込まれたと思いますが、その牛肉のパックにもれなく10桁の「個体識別番号」が表示されていることをご存じですか?

「個体識別番号」とはその名のとおり牛一頭一頭に割り当てられた番号で、国内で飼育されるすべての牛が出生時に付与され、10桁の番号が印字されたプレートを両耳に装着することになっています。この仕組みは、その牛が「いつ・どこで生まれ・誰が育てたか」など、「産地」から「屠殺(とさつ)場」までのそれぞれの段階の情報を記録し管理するためにできたものなのです。

「トレーサビリティ」の正確な意味とは?

冒頭で、その牛が「いつ・どこで生まれ・誰が育てたか」など、「産地」から「屠殺場」までのそれぞれの段階の情報を記録し管理する方法について記述しましたが、でもなぜ、そんなことをする必要があるのでしょうか?

それは「トレーサビリティ」のためといえます。“トレーサビリティ”という言葉を耳にする機会は近年とても増えていますが、みなさんは正確な意味を知っていますか? 

●トレーサビリティ(Traceability)=トレース(Trace:追跡)とアビリティ(Ability:能力)による造語

●日本語に直訳すると「追跡可能性」

トレーサビリティとはつまり、ある商品(製品)の原材料や部品の流通経路を追跡・確認できるようにすることで、商品に問題が起きた際に、「流通のどの段階」での「何が原因」なのかをいち早く突き止めるための仕組みを指します。

トレーサビリティは、牛肉に限らずさまざまな分野で大変重要とされています。今記事では、日本におけるトレーサビリティへの取り組みとその重要性を解説していきましょう。

BSE(狂牛病)問題で火がついたトレーサビリティへの意識

21世紀初めに起きたBSE(狂牛病)問題を覚えていますか? BSE=Bovine Spongiform Encephalopathy。これはすなわち「牛海綿状脳症」という名の牛の病気で、病原体「BSEプリオン」に感染した牛の脳がスポンジ状になり、異常行動を起こし、やがて死亡するもの。

イギリスなどを中心にこのBSE感染が広がり、日本でも2001年9月に国内でのBSE発生を確認。36頭の感染牛が発見されました。BSEが広がった原因は、感染牛の脳や脊髄(せきずい)などを原料としたエサが他の牛に与えられたこととされ、そういったエサをどこのどの牛が食べているのかわからない、また、BSE感染牛を口にしたらヒトへも感染するのではないかという不安・恐れが広がったことで、この当時、消費者の牛肉離れが起きました。結果、たくさんの焼肉店が倒産に追い込まれる事態となったのです。

世界で約3万7000頭(1992年)におよぶBSE感染が確認されたことで、世界中を震撼させたBSE(狂牛病)問題。この問題によって、牛の脳や脊髄(せきずい)などの組織を家畜のえさに混ぜないなど規制が敷かれたことで、今日では発生件数は激減し、落ち着きをみせています。

そして日本ではこの問題を端緒に、また、食の安全を脅かされる事件のたび重なる発生を契機に、トレーサビリティの制度化が進むことになりました。特に牛肉は2003年に「牛肉トレーサビリティ法」が成立し、個体識別番号によって牛の履歴(飼料・衛生管理実績など)をインターネット検索で誰でもすぐに調べられるようになりました。

牛肉のトレーサビリティ

牛が生まれた時点で、その牛の管理者は速やかに出生年月日・雌雄・種別・母牛の個体識別番号など個体情報を農林水産大臣に届け出ることになりました。届け出が受理されると、個体識別番号が表示された耳標が支給され、これを当該の牛に装着します。飼育されている牛の譲渡、死亡などがあれば速やかに届け出をし、屠殺(とさつ)の際も屠殺届け出が必要となります。

また、牛肉を販売する業者や牛肉料理を出す飲食店には、仕入れや販売の記録が義務づけられました。個体識別番号・年月日・相手先・重量を記録し、帳簿は一年ごとに取りまとめ、その後2年間保存します。これは万が一、流通過程で問題が見つかった時に追跡調査するためによるものです。

さらに販売時には、個体識別番号の表示も必要です。みなさんがスーパーなどで目にする牛肉パックにも個体識別番号が表示されていますが、「独立行政法人 家畜改良センター」のWebサイトで調べると、牛肉の出生年月日・雄雌・種別・母牛の個体識別番号・飼養場所の履歴が公開されています。※ちなみに、同じ牛肉でもハラミなどの内臓、スジ肉、タン、ほほ肉、ひき肉、切り落としなどは対象外です。

農林水産省(地方農政局等)では、トレーサビリティ制度が確実に実施されるためにチェックを行っています。たとえば牛のDNA鑑定のため照合サンプルを採取・保管し、小売店などで販売されている精肉と同一個体かどうか分析することも……。もし何らかの違反が見つかれば、厳しく罰せられる場合もあります。

自分の口に入る食品が、どこで生まれ、誰が育て、どのような経路を経てきたのかがわかるということは、消費する側にとって大きな安心感になります。BSE(狂牛病)問題や食品偽装問題などで失墜した「信頼」を回復するためにも、トレーサビリティ制度は非常に有効な方法となったのです。

いち早くトレーサビリティに取り組んだ自動車業界

BSE(狂牛病)問題が起きる前から、トレーサビリティに取り組んでいた業界があります。それは自動車業界です。

リコールが制度化されたアメリカを参考に、1969年、日本で最初のリコール制度がいち早く施行されたのです。この施工により、車に不具合が生じた際には届け出をし、問題のある部品が使われている車を回収・修理することが定められ、再発防止のために原因究明や改善策を講じることも義務づけられました。“問題のある部品が使われている車”を特定するためには……そう、トレーサビリティが非常に有効な方法だったのです。

そもそも、自動車業界に限らず製造業におけるトレーサビリティ概念は戦前からあったようです。製造業では古くから「製番管理・追番管理」という手法で生産管理が行われていました。製番管理とは、その製品に関するすべての加工と組み立ての指示書を準備し、同一の製造番号をそれぞれにつけて管理を行うことで、個別生産や生産量が少ない場合に用いられます。

また追番管理とは、累積生産数を表す「流動数曲線グラフ」によって製造の進捗管理を行うことを指し、戦前にゼロ戦を製造していた中島飛行機が、その発祥といわれます。最初に生産する1号機の原材料や部品も「1号機」と呼び、生産管理を行っていた由来から、いまも「号機管理」といわれています。

トレーサビリティの重要性

このように、日本の製造業には古くからトレーサビリティの意識が根づいていたわけですが、BSE(狂牛病)問題によってトレーサビリティの制度化が一気に進むことになります。同時に、それ以前から積極的にトレーサビリティに取り組んできた自動車業界も、リコール制度は当初自動車本体の不具合に限定されていたものを、近年では後づけ装置(タイヤやチャイルドシートなど)にも範囲を拡大させます。

さらに、2007年施行の「改正消費者用製品安全法」では家電製品や住宅設備など多くの製品にリコールが義務づけられましたし、製品の品質や安全性を確保するための制度が次々と生まれています。

気づけば、牛肉はもちろん食品業界全体、製造業、出版業界やアパレル業界、医薬品や化粧品業界、IT業界まで……いまやトレーサビリティに取り組まない業界のほうが珍しいくらいなのです。

トレーサビリティによって、メーカーなど供給側は製品に問題が生じた際に原因究明や回収作業がスムーズにでき、消費者側は製品の安全性や信頼性を推し量ることができるというメリットがあります。

消費者保護の法律によって、問題製品を速やかに回収するよう義務づける事例が増えていますし、供給側の対応が不適切な場合、消費者や取引先など社会的な信頼を損ね、企業存続が危うくなることもありますから、いかにトレーサビリティを確立するか……これは企業にとって、大変重要な課題といえるでしょう。

トレーサビリティの課題

とはいえ、製品によっては数千・数万におよぶ部品の製造から廃棄まですべてのデータを管理・把握することは容易ではありません。

グローバル化が進んだ現在、原材料の多くを海外から輸入していたり、東南アジアなど海外に生産拠点を置き、最終製品をまた世界各国へ、というケースもあるでしょう。国内外を問わず、競合とのコスト競争も激化している中、グローバル視点でのトレーサビリティの構築が急がれます。

さらに今後、資源の有効活用という観点からも「リサイクル」への意識はますます高まるでしょう。すでに家電や自動車などの特定品目では、リサイクル法によってメーカーや輸入業者が廃棄品を回収・再利用することが義務化されていますが、メーカーは製造・流通過程のみならず廃棄まで追跡する責任を負っているのです。このように、トレーサビリティの必要性は、現在、あらゆる方向へ広がっています。

こうした課題の解決を含め、今後のトレーサビリティシステムの確立に欠かせないのがIT技術です。そもそもトレーサビリティには、牛の個体識別番号のようにさまざまな情報を製品に付与し、それを記録・伝達するシステムが必要で、みなさんが日ごろよく目にするバーコードもそのひとつです。

ところが、トレーサビリティの範囲が広がり、付与される情報が多様化するとともに膨大になったことで、通常のバーコードでは収まりきらなくなっているのも現状です。膨大なデータをスピーディかつ正確に記録・伝達できる技術こそ、トレーサビリティでいま最も求められているものといえます。

表現様式・伝達媒体・記録媒体

牛の個体識別番号のように、情報伝達のために用いられる記号には、文字や数字のほか、バーコードや二次元コード、電子情報などがあります。これらの記号や表現方法を「表現様式」と呼びます。

記号である表現様式を製品などに付与するには、ラベルや電子タグなどが必要で、これを「伝達媒体」と呼びます。

表現様式と伝達媒体を組み合わせることによって製品に情報を付与できますが、その情報を収集・管理しなければトレーサビリティを確保できないため、次に紙の台帳やパソコン、クラウドサーバのようなものが必要となります。これを「記録媒体」と呼びます。

かつては、文字や数字の羅列 = 表現様式をラベル化して伝達媒体に置き換えたり、記録媒体である紙の台帳に手書きで記入する方法が一般的でしたが、やがては、次のような方法に変化していきます。

表現様式であるバーコードをラベルや外装箱などの伝達媒体に印字 ⬇

その印字をコードリーダで読み取る ⬇

情報をパソコンに取り込み管理する

ご存じのように現在も製造業から食品業界、医薬品業界、小売業界など幅広い業界で上記の方式が採用されています。コンピュータによる管理は間違いが起きにくく、比較的安価に導入できるのも利点です。

そして、近年新たに増えているのが、小さなスペースに多くの情報を盛り込むことができる「二次元コード」を表現様式とするものです。たとえば、小型化や高密度化が著しい電子デバイスの基板などにも、二次元コードならば印字可能ですし、個別管理も可能となります。二次元コードが普及した背景には、印字の技術や読み取り精度の向上も挙げられます。

ダイレクトパーツマーキングとOCR

二次元コードなどの表現様式を、部品や製品に直接印字することをダイレクトパーツマーキング(Direct Parts Marking)と呼びます。印字技術の向上により可能になったダイレクトパーツマーキングは、トレーサビリティの分野にも変革をもたらしました。

前述した電子デバイスの基板などでは、偽造チップ対策としてもダイレクトパーツマーキングが有効です。また、屋外で使用される製品は、ラベルだと剥がれる・変色するなどして読み取れなくなる心配もありますが、ダイレクトパーツマーキングなら安心です。そして、部品に直接印字するダイレクトパーツマーキングならラベルなどの伝達媒体が不要となり、コストを抑えることもできるのです。

一方、コードリーダなどの読み取り精度はOCRによって飛躍的に向上しました。OCR(Optical Character Recognition:光学文字認識)とは、カメラ撮像した画像に含まれる文字を認識する技術で、これにより部品や製品の複雑な情報を正確に識別・記録できるように。OCRを活用した読み取り工程のオートメーション化は、人の目や手で起きるミスを激減させたのです。

ダイレクトパーツマーキングやOCR、二次元コードは、すでに多くの企業で導入されトレーサビリティに役立てられていますが、技術革新はまだまだ序の口……。インクジェットプリンタなどの印字技術や、RFタグと電波を使って情報の読み書きを行うRFIDなど、さらなる新技術も開発されているのです。

RFタグとRFIDの活用

そうしたなか、いま最も注目されているのが「RFタグ」です。

電子情報を表現様式とした「RFタグ」は、電子タグ、ICタグとも呼ばれ、数ミリ程度の大きさに大容量のデータを収めることができる伝達媒体です。

●RFタグのメリット/RFタグの情報読み取りは、電波を使って通信を行うRFID(Radio Frequency IDentification)でなされるので、バーコードや二次元コードのように製品の外側にある必要がなく、梱包の内側でもOK。

●RFタグのメリット/数メートル・数十メートル離れた場所から読み取ることも、複数のRFタグの情報を一括で取得することも可能。

●RFタグのメリット/段ボールに詰められた複数の製品を、段ボールを開封することなくすべて一気に読み取ることができる。

●RFタグのメリット/バーコードでは実現できなかった情報の書き換えが可能。

このようにとても便利なRFIDですが、実はすでに私たちの日常生活に浸透しています。交通機関で使われているSuicaや、プリペイド型電子マネーの楽天EdyなどもRFIDを利用しているのです。しかし、トレーサビリティにおいてRFIDを活用するには、下記の問題点も指摘されています。

■コスト……RFタグは徐々に価格が下がっているとはいえ、いまだ1枚あたり10円程度と言われます。単価100円などで売られている食料品では、コストが吸収できず経営の負担になります。

■金属の影響……RFIDの通信は金属の影響を受けます。たとえば製品がアルミ箔で覆われていた場合、リーダライタからの電波がアルミ箔で反射されてしまい、RFタグから発信される電波が読み取れなくなってしまう。ただし今年、ある企業が金属対応RFタグ・RFIDシステムの開発に成功しており、今後の普及が期待されている。

■RFタグの重なりに弱い……複数の製品についたRFタグ同士が重なると、情報の認識が難しい。

便利なことは間違いないRFIDですが、このように現状にあるため、「どの現場でも問題なく使える」わけではないのです。

RFタグ・RFID推進への国をあげた取り組み

小売り・流通業界においては、すでにRFIDによるトレーサビリティが進んでいます。製品を「ロット」で管理することから、「1個ごと」に管理・追跡することが可能になり、作業スタッフの労力削減に効果を発揮しています。さらに万が一、異物混入などのトラブルが発生すれば、速やかに原因を突き止め、対策を講じることもできます。

国もRFIDの普及を推進しており、2003年に政府高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)が策定した「e-Japan戦略Ⅱ」の重点計画にもRFIDが含まれています。

経済産業省は2004年からの2年間で、業界標準のRFタグの開発によってコストダウンを目指す「響プロジェクト」を実施し、総務省は電波法を改正してUHF帯周波数をRFタグに割り当てました。農林水産省が制定した「牛肉トレーサビリティ法」では、RFIDの利用が推進され、さらに野菜や鶏卵、魚介類などの品目別に、RFIDを利用したトレーサビリティのガイドラインも作成。

── 今後、コスト面での改善やさらなる技術向上によって、RFIDのトレーサビリティへの活用が進むのは間違いないでしょう。近い将来、「RFタグが付いていない製品のほうが少ない」……。そんな時代がやってくるかもしれませんね。

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