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大工や鳶職に必須の地下足袋は、あのブリヂストンタイヤと深いつながりがあった!

大工や左官、鳶職、塗装……などの職人や、造園工事や農業や林業に携わる人たちが古くから愛用してきた地下足袋。

つま先が二股に分かれた仕様によって指が自由に動かせ、地面をつかむように歩くことができることから、足袋を通して足裏の状態を掌のように察知することができ、こうした機能から、地下足袋は高所での作業や不安定な足場での作業に、非常に適した履物でした。

時代の移り変わりとともに、最近では地下足袋のメリットを残しながら、着脱が容易になった「足袋靴」なるものが、地下足袋が使われる職場や現場で利用されているようです。

また、足袋靴はおしゃれな“ジャパニーズシューズ”として外国人にも人気を博し、普段履きの靴として海外でも使用が広まっています。

さらに今日、地下足袋の国内販売シェアは、「力王」が約7割、「丸五」が約3割を占める中、様々な機能やデザインが工夫され、おしゃれな若者がスニーカー感覚で履きこなす時代を迎えています。

── 移り変わる地下足袋の“昔”と“今”をみていきましょう。

古くから存在していた地下足袋

足袋の裏側にゴム底のついた地下足袋は、靴を履かずにそのまま歩くことができます。足袋は靴下のように伸縮性がなく、足にぴったり合ったものを履かなければ皺(しわ)が寄ってしまうため、足首後ろに位置する「こはぜ」と呼ばれる爪型の金具を、履いた後に後ろで留める仕様になっています。

もともと地下足袋には、大きく分けて「足首部分が短いタイプ」と「長いタイプ」の2種類あります。いずれも、踵(かかと)の上で金属製のこはぜを掛け糸にかけて履く点は足袋と同じですが、こはぜの枚数が丈の長さの目安になります。

通常の足袋の場合、こはぜは4枚ですが、地下足袋になると多いものではこはぜは12枚に。でも、着用する際に12枚も留めるのは面倒だと感じ、こはぜを留めずに着用していると、足袋の汚れや傷みの原因になってしまうことに。
また、足のサイズ表示は、足袋と同じく文数(1文 = 約2.4センチ)が使われていましたが、今では靴で使用されているサイズが使われています。

【地下足袋の正しい履き方】

1、足袋用のソックスを履く。ソックスを履くと足が汗で蒸れにくくなる。

2、片足から地下足袋に足を通す。

3、椅子に座り、太ももの上に地下足袋をのせる。

4、下から順にこはぜを留める。

5、反対の足も同様に。

太ももの上でこはぜを留めることで楽に留まります。

【地下足袋のメリット】

・指が二股に分かれているため、足のつま先に力が入って踏ん張れる。

・素足の感覚に近いため地面の状態を把握でき、凸凹やぬかるんだ場所でもバランスがとりやすい。

・足にフィットするので動きやすい。

・安価で洗濯できる。

・足の健康や体の発達にもよい。

不安定な足場もしっかりとキャッチする地下足袋

地下足袋の最大のメリットは、足裏の状況を把握しやすい点にあるのですが、どうしてそうしたメリットがあると便利なのでしょうか?

例えば、建設現場で働く人々は、ネジで組み立てられた足組だけの現場で作業することが多く、ネジが劣化して足場が壊れて(崩れて)しまう事故が起こりえます。さらに高所ともなれば風の影響をうけやすく、体を安定させづらくなり、手もとの工具を落下させてしまう危険性もあります。

こうした安定感の悪い場所で道具や工具を使って作業するとなれば、どうしても足もとが滑りやすく命の危険にさらされることになります。そうした危険を排除し、命を守るための必須アイテムが、足裏の状況を把握しやすくすることで体の安定性を保つ地下足袋なのです。

そのほか、植木職人も高い木の上で伐採作業をすることが多い職業ですが、常に足場の枝が折れる危険性を伴うため、足場の状況が「足袋」を通して直に足に伝わる仕様になっています。

このように、ネジのゆるみや枝のしなり具合などを職人がいち早く察知するセンサーとして、地下足袋はなくてはならない存在であることがわかりますね。

また、工事現場で働く人々をよく見てみると、ヘルメット+作業服+安全靴の出で立ちの人と、シャツ+ニッカポッカ+地下足袋の作業者の違いがわかると思います。

前者は現場を監督する人や関係者であり、たいていは危険な高所や足場に行くことは少なく、地上にいることが多い点から、落下物から身を守るために安全靴を履いています。実は、安全靴は地下足袋に比べて非常に重く、自分がいまどのような状況の地面に立っているかを足に伝えにくい構造になっています。そのため、足場の悪い場所で安全靴を履くことは、逆に安全性を損なうデメリットを伴うのです。

主に鳶職や大工など作業着色が強い職人が着用する地下足袋は、多くの日本人が履いたことがないものといえるでしょう。そのため、地下足袋を履いた経験がない人にとって、薄くペラペラとした見た目からスニーカーや長靴に比べて履き心地か悪いのでは?と感じがちですし、外で履いたときに足裏へのダメージなど不安を抱く方も多いようです。

しかし、そんな不安とは裏腹に、地下足袋は屋外で働く職人に長く愛用されてきたものであり、履き心地や使用感は保証付き。少々の砂利道や石を踏んでも難なく歩行でき、まるで足裏に直接ゴムを貼り付けたと思えるほど、しっかり地面をつかんで歩くことができるのです。こうした利点と機能性から「履いたら癖になる」ともいわれるほどの履き心地なのです。

“地下足袋の父”は、ブリヂストンタイヤ創業者だった!

それではここで、多くの職人の足もとを守ってきた、地下足袋の歴史をひもといてみましょう。

江戸時代から、山や野での作業を職業とする人々や火消しが足を保護するために革製の足袋、革足袋(かわたび)を用い、これが進化したものが地下足袋といわれています。

明治期になると次第にゴム製品が普及し、旧来の革の代わりに布足袋の底にゴムを縫い付けた足袋が発売されます。しかし、縫い糸が切れやすく耐久性に乏しいため、当時の勤労者の履物であったわらじに取って代わることはありませんでした。

1906年の福岡県久留米市。この年に17歳で久留米商業学校を卒業した、後のブリヂストンタイヤの創業者・石橋正二郎は、兄の重太郎とともに実家の仕立物店「志まや」を父親から引き継ぎます。

当時の「志まや」は徒弟8〜9人、シャツやズボン下、脚絆(きゃはん)に足袋といった種々雑多な品物を扱っていました。ところが、兄、重太郎が軍隊に入隊したことで、「志まや」の経営は正二郎一人に任されることになります。

そこで、正二郎は思い切った改革を断行します。それは……、

●家業の「志まや」を「足袋専業」にする。

●これまで無休かつ無給だった徒弟制を改め、徒弟を職人として給料を払い、勤務時間を短くして月の1日、15日を休日とした。

これは当時の商家としては大改革であり、父への報告はすべて事後承諾であったため、正二郎は父からひどく叱られたと伝えられています。しかし、足袋専業となった「志まや」は徐々に生産量を増やし、除隊後の兄・重太郎と協力して正二郎は新工場を設立。家業を盛り上げます。その様子を52歳で早逝した父は非常に喜んでいたそうです。

父亡き後も、同業他社との市場競争に打ち勝つための戦略として、次のような施策を打ち出します。

●約2000円のスチュートベーカー1台を購入し、九州にはまだ1台もなかった自動車を「志まやたび」の宣伝・広告に利用。

●当時日本に到来した映画に着目し、足袋の製造工程を映画化して劇映画とともに各地で無料公開 。

自動車を初めて見た九州の人々は「馬のない馬車が来たぞ!」と目を丸くして驚き、自動車による「志まやたび」の市場拡大政策は絶大な効果を収め、宣伝映画も大評判となりました。

さらに正二郎は、足袋業界をあっと言わせる改革を実行します。それは、

●サイズや種類によって価格が違っていた足袋を「20銭均一」で販売。

●祖父の時代から続いた屋号「志まや」という古風なブランドを「アサヒ」に代えて、商品イメージを一新。

●「波にアサヒ」の新しいマークを使用して「アサヒ」ブランドを確立。

当時の足袋は、品種と文数(足袋のサイズの単位。1文 = 約2.4cm)の大小に応じて値段の差があり、実物と値段表を見比べてみないと取り引きができないほど複雑なものでした。

そうした現状をなんとかできないものかと考えた正二郎は、均一価格制で流通過程の単純化、合理化を図るべき、と決断したのです。しかしながら当時は、9文3分(約22.3cm)の足袋は28銭5厘、10文(約24cm)は30銭が相場であったため、相場からかけ離れた安値の「20銭均一」にした正二郎の取り組みは、画期的な取り組みとして大きな注目を集め、それが口伝てに多くの人に認知されるようになったといわれています。

こうして生産の効率化を徹底した「志まや」は、最小限度の原価に切り下げることに成功。そうした努力の末、20銭という均一価格を打ち出せたのです。結果、「20銭均一アサヒ足袋」は、品質と安値で広く市場に歓迎されました。

わらじから、地下足袋へ

1923年、アサヒ地下足袋として発売された“貼り付け式地下足袋”は、“履物史上の革命と言われたほど画期的なものでした。

当初は、まったく新しい発想と技術に基づく耐久性の高い履物として売り出されましたが、当然ながら、テレビCMなどない時代。簡単に売れるわけもありません。そこで、発売当初は従業員自らがその地下足袋を履き、多くの職工が働いていた三池炭鉱や、各地の農家を訪れ営業に励みます。

そうした地道な活動の末、アサヒ地下足袋は飛ぶように売れることに。もちろん購入する側にとっても、耐用年数が飛躍的にアップし、最低半年間は履いていられる耐久性に驚かされたことでしょうし、それまで夜なべをして作ったり、毎日買い換えなくてはならなかったわらじであったことを考えれば、1足1円50銭の価格であっても格段の節約ができることになったのです。

兄・重太郎が上京した翌年の1923年、1月に発売されたアサヒ地下足袋の「日産千足」は年末に「日産1万足」にまで増加し、同年9月に発生した関東大震災の復興作業でも大活躍しました。

そして、石橋正二郎がゴム製造での技術をタイヤ製造に生かして創業されたのがブリヂストンということになるのですが、いうなれば、タイヤは自動車の履き物ともいえますね。そして当初、地下足袋のネーミングは単一商品の名称でしたが、今では普通名詞として使用されるまでになりました。
ちなみに、「Bridgestone(ブリヂストン)」の社名は「石橋」の英語読み、「stone‐bridge」をゴロが悪いと逆さにしたもの。しゃれていますね。

地下足袋誕生からもうすぐ百年。「地下足袋」の移り変わり

古い時代、靴や長靴の価格は高価であり、足袋の形をした履物のほうが人々になじみがあったため、地下足袋はそれまで作業に使用されてきたわらじや革足袋、布足袋に代わって広く普及し、作業者に欠かせないものになりました。1970年頃までは、小学校の運動会にも運動靴代わりに使用されることもあったほど。

高度成長期以降、ゴム製品の長靴やスニーカーが安価になると、一般的な軽作業にはスニーカーや長靴が用いられるようになります。このように履くもののバラエティが豊富になったことで、土木作業や鉱業において足もとの安全意識が高まっていくことになり、安全靴が用いられるように変化していきます。

その一方、スニーカー、長靴や安全靴では足の感覚がにぶる点から、安全性、防水性と足袋の動きやすさを併せ持つ「ジョグ足袋」や、踏み抜きによる足のけが防止策として爪先や底に鉄を入れた「安全足袋」など、様々なバリエーションが開発されていきます。

ここまで、江戸時代など古い時代の足袋やわらじの歴史を振り返ってきましたが、最近では「五本指靴下」や「足袋ソックス」も話題になり、地下足袋の優れた機能が見直されたことで、男女を問わず日常履きに愛用する人が増えていますね。

同時に、こはぜの使用方法を知らなかったり面倒くさいと感じる世代向けに、ファスナーやマジックテープで留めるタイプの地下足袋や、運動性を高めるために地下足袋のようにつま先が割れた靴、あるいは、アスファルトの地面で運動しても腰を痛めない、底にインソールやエアーの入った地下足袋など、技術の向上によって靴と地下足袋の融合がますます進んでいます。

現在でも祭りのシーズンになると、粋な腹掛&股引スタイルや、半纏(はんてん)を粋に着こなした人々が神輿(みこし)を担ぐ光景を見かけます。そうした人々の足もとに目をやると……そう、地下足袋を着用しています。この記事を読んだ人は、そうした人々がどんな仕様の地下足袋を履いているか、ぜひチェックしてみてくださいね。

余談ですが、2017年に放映された日曜劇場『陸王』が高視聴率を獲得し、奇跡のシューズをめぐるストーリーに多くの人が惹きつけられました。このドラマは、会社存続を懸けてランニングシューズ開発に奮闘する人々を描いた物語でしたが、物語の中心に据えられた会社は足袋製造の老舗であり、社名は「こはぜ屋」。本記事でも「こはぜ」についてご紹介しましたが、ドラマを見た人の中には、魚の「ハゼ」の名前と勘違いしていた人も多いようです。でもこの記事を読めば、「こはぜ屋」の名前の意味が理解できますね。

── 地下足袋誕生から、もうすぐ百年。

新たに見直されている地下足袋の機能を確認しながら、おしゃれに健康的に快適に、地下足袋を履きこなし、日本に根付く伝統を継承していきたいものですね。

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