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モノを細部から支えるネジ……。意外と知られていないネジの豆知識

私たちの身のまわりに無数に存在しているのに、ほとんど注目されることのないもののひとつに「ネジ」があります。自動車、鉄道、飛行機などの乗り物はもちろん、家屋やビルディングといった私たちの居場所、そして家電やパソコン、スマートホンなど生活に欠かせいものには必ずネジが使われています。そんなに身近な存在なのに、私たちはネジのことをほとんど知りません。

ネジは、いつから社会生活に欠かせないものになったのでしょう?

ネジには、どんな種類や規格があるのでしょう?

ネジは、今後どのように進化し、どんな可能性を秘めているのでしょう?

モノの製造現場にいる人なら特に多くネジに接しているはず。そのため、ネジに関する知識に精通していて損はありません。今回はそんなネジに関するさまざまな豆知識、薀蓄(うんちく)を紹介しましょう。

ネジは一体、いつからある?

まずはネジの歴史について紹介しましょう。

ネジが発明されたのはいつのことでしょうか? 実は、これには明確な記録は残されていません。しかし、紀元前に発明されたアルキメデスの揚水ポンプやぶどう酒を絞る機械には、ネジの基本原理である「螺旋(らせん)」を活用したメカニズムが使われていたことがわかっています。当時の螺旋は、現代のネジの主な役割である締結のためではなく、機械の作動を目的に使われていたようです。しかしいずれにしても、人類は紀元前からネジの原理に気づいていたことになります。

ネジが締結目的で広く使われだしたのは、15世紀頃ではないかと考えられています。イタリア人のレオナルド・ダ・ヴィンチが「ネジ切り盤」を考案し、ダ・ヴィンチによるスケッチなども残されています。その後、18世紀中頃から19世紀初頭にかけての産業革命期には、製鉄技術が大きく進歩するとともに、工作機械の発明などもあいまって、金属製のネジが広く普及していくことに。

1800年に入ると、英国のヘンリー・モーズレーが、ネジ切り用の旋盤を発明。さらに1841年には、モーズレーの弟子のジョセフ・ウィットウォースが、55度のネジ山角度を提案し、これがその後の英国の一般的ネジの規格となり、普及が加速していくことになります。

日本にはいつ、ネジの技術が入ってきた?

鉄砲(火縄銃)/イメージ

日本にネジが登場したのは16世紀のこと。1543年、ポルトガル人が種子島に漂着し、鉄砲(火縄銃)を伝来したことは有名ですが、この火縄銃の火薬を出し入れする尾栓(びせん)にネジが使用されていたことで、ネジも同時に日本に入ってきたとされています。その後、この火縄銃を真似て鍛冶職人(のちの鉄砲鍛冶)などが自家製の鉄砲を製作し始め、ネジも手作業で製作されるように。したがってこの頃は、他のものにも使える互換性のあるネジでなく、あくまで火縄銃の部品のひとつに過ぎなかったようです。

戦(いくさ)において当初の火縄銃は高価なうえに発射までに時間がかかり、命中率が低いことがネックとされていました。しかしその後、集団使用での火縄銃の活用や、飛ぶ鳥を落とす勢いと喩えられた瞬発式火縄銃の開発などによって、戦国時代の終焉期には日本に50万丁以上の鉄砲があったともいわれています。鉄砲の様式の進化においては、ネジが重要な役割を果たしたことは間違いないでしょう。

その後、日本においてネジが本格的に発展(製造・普及)したのは、鎖国が解かれた江戸末期以降のこと。1860年に遣米した小栗上野介(小栗忠順/幕臣・江戸町奉行)は一本のネジを米国から持ち帰り、「西洋文明が発展したのは“精密なネジを量産する能力”があったから」と説いたとされています。

その後、横須賀に製鉄所や造船所が建設され、船舶・軍事関係の機械部品とともにネジが大量製造されるようになったことで、明治期の殖産興業の礎を築くことに……。つまりは、開国を控えた江戸末期にネジを量産し始めたことが、現代の工業国・日本の土台になったといえるでしょう。

さらに高度経済成長期になると、工業製品に使用されるさまざまな規格のネジ作りが進み、町工場などでは何百、何千におよぶ試作品が開発・製造され、強度、品質、安全性、付加価値等における研究がなされていきます。このように、長い時間の中で進化を遂げてきたネジは、小さな目立たない存在ではあるものの、ものづくり大国・日本を支えるだけのチカラが、そこには秘められていたようです。

ネジの規格はどうなっている?

ネジの規格の変遷は複雑です。1860年に英国で(先述した)ウィットウォースによってネジは標準化されますが、このときのネジ山の角度は55度でした。一方、1864年に米国ではネジ山の角度が60度のものが発表されます。これはのちに「U Sネジ」として米国規格となりますが、いずれも長さの基準はインチです。

これに対して1875年にメートル法が国際条約として締結されたことを受け、1894年にフランスでネジ山の角度60度で、メートルを基準にしたネジが作られます。これにより、以下の3つが個々に広がっていくことになります。

●英国の「ウィットウォースネジ」

●米国の「U Sネジ」

●フランスの「メートルネジ」

工業製品の多くは、戦争によって技術や規格が大きく進化するといわれていますが、ネジも同様に戦時中に軍需品のネジの互換性が求められたことによって、1948年、米国、英国、カナダの三国間でネジ山60度のインチネジを「ユニファイネジ(頭に「UNC」と表記)」として制定します。その一方、1947年に国際標準化機構(I S O)が設立されたことにより、「メートルネジ」と「ユニファイネジ」を基盤とした「I S Oネジ」が制定されることになります。

気になる日本では、1885にメートル法の国際条約に加盟。1921年には日本標準規格(J E S)が制定され、「メートルネジ第1号」と「ウィットウォースネジ第1号」が制定されることになるのですが、その後は戦時中の混乱などもあってネジの規格統一はあとまわしにされ、互換性は保証されていませんでした。しかし戦後の1946年になると、日本工業規格(J I S)が制定され、ネジの規格は徐々に統一されていくことになります。その結果、現在では「I S Oメートルネジ」と「ユニファイネジ」の2規格が使われているのですが、終戦、J I S制定からかなり時間が経っているものの、今日においてもこの2つはさまざまな事情で今も完全には一致できていません。

ネジの種類にはどんなものがある?

サイズ・規格が異なる多種多彩なネジ

ネジにはどんな種類があるでしょうか。ネジには実にさまざまな種類がありますが、ここでは代表的なものとして、ネジ、ボルト、ビスの違いを説明しましょう。

●ネジ

ネジ山が切ってある固着具の総称で、雄ネジと雌ネジがあります。

●ボルト

J I Sでは「一般にナットと組んで使われる雄ネジ部品の総称」と定義されています。通常、頭が四角、もしくは六角の形をしており、8mmよりも大きなものをボルトと呼びます(ボルトの見分け方は画像のようなピッチゲージを使用します)。ボルトは工業用から建築用などの幅広いフィールドで活用されていて、ナットは「雌ネジ部品の総称」と定義されています。

ボルトを見分ける際に使用するピッチゲージ

●ビス

頭に、直線の溝(マイナスドライバー用)、もしくは十字の穴(プラスドライバー用)がある小さな雄ネジの総称。通常は8mmより径が小さいものを指し、「小ネジ」とほぼ同じ意味で使われています。ビスという場合、雌ネジを必要としない場合が多いようです。さらに細かく分類すれば、頭が皿状の「皿小ネジ」、頭が鍋の底に似た形をしている「鍋小ネジ」、鍋小ネジよりも頭が平たく薄い「トラスネジ」など、多くの種類があります。

ちなみに、日本のネジメーカーは1494社(2012年工業統計表)とされ、生産量は重量で年間約300万トン、数量では年間約3000億本といわれています。それぞれのメーカーが、ボルト、ナット、小ネジなど、得意な品種を中心に最高水準の技術力で高品質なネジを生産し、世界から信頼を集めています。

ネジの最新技術は、どこまで進化している?

先に説明した通り、ネジに使われる螺旋構造は紀元前から存在していました。現在でもネジは螺旋を使い、その摩擦力で締結するわけで、ネジの基本原理は紀元前からまったく変わっていないということになります。しかし、基本原理は同じでも何も進化していないわけではありません。ここでは、ネジの最新技術について紹介しましょう。

●緩(ゆる)まないネジ

東京のベンチャー企業「NejiLaw(ねじろう)」が開発した「L /Rネジ」は、絶対に緩(ゆる)むことのないネジとして、約20年を経て、2017年に規格化され、現在、多彩なジャンルから注目されるとともに、多彩な製品に導入されています。

ボルトに、右まわりで締めるナットと左まわりで締めるナットの両方が装着され、左右両方に対応したネジ山が作り込まれていることが特徴。右まわりのナットを緩めようとすると左まわりのナットは締まる方向に力が働きます。逆もまた同じように、左右の力が反発し合います。2つのナットは互いがぶつかると相手をロックし、それによって緩むことを封じ込める仕組みです。

従来の「緩まないネジ」は締めつける摩擦力を高めた仕組みで、いわば「緩みにくいネジ」でした。これに対してL /Rネジは、ネジの基本原理である螺旋状の溝の形状に手を加えた画期的なネジといえます。

●センサーになるネジ

前項で紹介したNejiLawが、カシオ計算機と共同で開発を進めているのが「スマートネジ」です。ビル、住宅、道路、自動車など、あらゆる構造体に使用されるネジをセンサー化し、その構造体の健全性を測定しようというもの。構造体がどれくらい損傷しているか、どれくらい老朽化しているかを、遠隔地にいながらにしてリアルタイムで把握できるようになるということです。

スマートネジは、ネジ自体に応力や加速度、温度などを測定するセンサーを組み込みます。そのセンサーを通して得た情報は無線通信でデータセンターに集約し、早期のメンテナンスに役立てることができます。カシオ計算機の「G-SHOCK」の技術を生かし、省電力で衝撃や水、熱にも強い回路を開発中といいます。

技術進化で、災害に強いネジも!

例えばこのスマートネジを住宅に使用すれば、地震の揺れに耐えた家屋の損傷度合いをリアルタイムで可視化できることになります。仮に、一度の揺れで大きな損傷を受けなかったとしても、その揺れによって家の内部(構造)がどの程度の損傷を受けているかを迅速に住民が知ることができれば、次の余震が起きる前に避難することも可能になります。

私たちにとってこれまでのネジは、単にモノとモノを締結するもの……といったとらえ方が普通でした。しかし今後は、小さなネジにおける技術進化によって、命、家屋、国土を守ってくれる可能性が生まれるかもしれないのです。単なる締結目的のネジから、新たな役割を担う重要な部品として進化していることがご理解いただけたでしょうか。

── 小さなネジの秘めたる可能性に、今後はぜひ注目していきたいですね!

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