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住宅建材の修理を生業とする、新たな職種「建材リペア職人」とは?

「モノ」に対する価値観や、消費の質にもその時代によって特色があります。たとえば、高度成長にわいた昭和の時代は大量生産+大量消費がよしとされ、たくさんのモノに囲まれた生活が「豊かさの象徴」とされました。しかしながら、世界第2位の経済大国と躍進した日本ではゴミ問題が浮き彫りになってしまいます。

さらに、1980〜1990代のバブル期では高級品が愛され、「高級品を修理せず使い捨てにする」「最新機種が出ればそのたび買い替える」ことが「豊かさの象徴」でした。しかし、そうした高級志向から一転、“激安”“廉価”をウリにした店が軒並みヒットする時代が幕開けし、「日本発信の激安商品の品質の高さ」が、世界を驚かすことになります。

さらに、それらの廉価商品を扱う店舗間で発生した競争原理により、激安商品でありながらも、高い機能や新しい発想に満ちた商品が続々登場。こうした変化によって、それまでの「安い=低品質」「安かろう、悪かろう」という常識が覆されることになりますが、同時にこの10年においては、環境問題が浮き彫りになったこともあり「気に入ったモノ、思いがこもったモノを長く使いたい」という考えが次第に定着。

そして、日用品は安価なモノをうまく活用し、高級品はリペアしながら大切に使う……といった行動様式が当たり前になった今では、シーンや用途に合わせた賢い消費行動が当たり前とされ、「ゴミ削減による環境への配慮」「シーン別の消費への工夫」といった行動様式の多様化から生じる“心の余裕”が「豊かさの象徴」になっているようです。

これら時代の移り変わりを経て、昨今ではバッグや芸術品、楽器などさまざまなジャンルにおける「修理」「修復」「リメイク」などのキーワードを多く見かけるようになり、職人技術に対する再認識の高まりとともに、それを生業(なりわい)とするリペア(修理)職人 にも大きな注目が集まっています。そこで今回は、住宅建材の修理を生業(なりわい)とする「建材リペア職人」にまつわるエトセトラをご紹介していきましょう。

リペア職人とは?

リペア(修理・修復)職人 とは、個々のモノに必要なアプローチを見極め、職人ならではのワザを施し、モノに新たな息吹を与える職人のこと。これらリペア職人については最近テレビの特集などでも取り上げられるようになり、多様なジャンルの補修屋、リペア職人に関心が集まっています。

(以下、建材リペア職人を単に「リペア職人」と記載します)。

リペア職人の仕事内容を簡単に説明すると、木質のフローリングや柱、人工または天然の大理石の床、アルミサッシ、繊維強化プラスチック(FRP)の浴槽など、多様な建材の凹み・傷・変色・ひび割れなどを修復し、長く使用されてきたモノを再び生かし、その価値を高めることにあります。

買い換えずに修復する意味には、何より新品に取り替えるよりもコストが抑えられる点にあり、さらにゴミ軽減=エコといったメリットもあります。何よりリペア職人には、建材やデザインの多様化に合わせた知識はもとより、美的センス、手先の器用さが必須とされます。

建材といっても多種多様ですが、必ずしもすべての建材に精通してなければリペア職人になれないということはありません。なかには、ひとつの材質の特性をきわめ、その材質に特化した職人もいれば、複数の材質が使われる床材などでは、深い知識を武器に床材のリペアを請け負う職人もいます。

住宅メーカーや不動産管理会社、個人など活躍の場は広い

●住宅メーカー:戸建てやマンションの新築建築時には、プロの職人がどんなに注意深く作業をしていても、工具をぶつけたり、作業時の擦り傷が発生してしまうもの。そのため家主への引き渡し直前に、リペア職人がそれらの小さな傷を修復するのが一般的とされています。

●不動産管理会社:住人が退去した際の原状回復を主とします。

●個人:経年劣化による変色や、壁にうっかりぶつけてしまった、モノを床に落としてしまった衝撃による傷や凹みの修復など。

リペア職人になるには?

リペア職人をめざす人にとっては、次のようなメリットがあります。「リペア職人に必要な資格や学歴は特に必要ない」「独立開業すれば定年を気にする必要はない」。この2点からもその世界に飛び込むハードルは高くないことがわかります。しかしながらリペア職人はその名の通り、その道をきわめた職人のこと。当然、応用の効いた「技術力」が問われますので、高い技能を習得する修業は必須です。

短期間で基礎知識や技術の習得を目的とした講習や講座も多くありますが、職人の世界では「習うより慣れよ」が王道。講習や講座などでは習得できない素材や傷の場所ごとに異なるアプローチや、色味などの絶妙なさじ加減は、ベテラン職人に弟子入りなくして得られない技術と心得て、講習や講座は技術の補足・補強レベルと考えておくことが望ましいでしょう。また、スクールによっては講習内容の難易度や、手法や材料が異なる場合もありますので、あくまで親方の下で修業を積みながら、スクールに参加する場合は親方に相談したうえでスクールを決める方法が間違いないでしょう。

また、仕事のオファー、売り上げに直結するのは培ってきた人脈や、SNSでの口コミになってきます。例えば、将来的に独立開業を考えている人であれば尚のこと、経験値と技能を親方の下で積みながら、職人の感性も磨いておきたいもの。ちなみに、スクールなどではおおまかに以下の項目について講習を行っているところが多いようです。

●木質補修 ●アルミ補修 ●クロス・シート補修 ●人工大理石補修 ●天然大理石補修

どんな職種にも共通していることですが、どんな職種であっても、どんな業種であっても「その道をきわめる人」と「中途半端な人」に分かれるのが現実。後者にならないためには、まずは「自分がどのような技術を習得したいのか」といった方向性を定め、着実に技術を高めていくことが肝要です。そうすることで自身だけが誇れる繊細な技術や、モノ・ヒトへの気遣いが養われるでしょう。そしてそこから、揺らぐことのないプライドも生まれてくるはずです。

また、リペア職人のクライアントは、エンドユーザー、メーカーなどさまざま。特にエンドユーザーとの折衝(せっしょう)時は、専門用語を羅列したり、不必要な情報・知識を多く語ればよいというものでもありません。実際のリペア作業のみならず、折衝時においても、相手の信頼を勝ち取る絶妙なさじ加減が必要となります。

サポート態勢万全のフランチャイズも独立時の選択肢

一人前になった暁(あかつき)の働き方は多種多様ですが、独立を夢見る人も多いことでしょう。例えば、未経験の修業から始め、最終的に独立開業する方法のひとつにフランチャイズ(FC)契約があります。

ここでは、リペア業FCの老舗であるトータルリペアを例にご紹介しょう。

「トータルリペア」は1972年に米国で誕生したリペア事業で、現在では世界38カ国で展開。日本でも全国約450店が加盟しています。トータルリペアのリペア対象は車や家具、航空機、住宅など多彩で、建材リペア技術にも定評があります。またFCの強みといえば、その看板の知名度に対する顧客からの安心感や、本部から得たノウハウを駆使して業務に集中できる点にあります。さらに、こうした強みに加え、加盟後にしっかりとした技術研修を受けられる点からも、フランチャイズ(FC)契約した本人のみならず、利用客にとっても安心感につながる点がメリットとなっています。

【トータルリペアのフランチャイズ加盟プラン】

●加盟金:150万円 ●設備金:110万円 ●開業時商材費:15万円 ●その他開業費:35万円(トレーニング費用として) ●研修日数:40日(平均)●研修内容:技術の不安をなくすため、加盟後にスタートアップ講習と技術訓練講習を3段階で実施し、自信がつくまで講習は何回受講しても無料。テスト制を採用しており技術を確実に身につけて開業も。開業後も技術フォローアップ講習、地方技術講習を実施。自分自身の技術力に納得がいくまで何度でも無料で受講可能。

〈出典:トータルリペア日本本部HP〉

フローリングのリペア

ではここからは、リペア職人が施す基本的リペアとしてよく知られる「フローリングの傷の修復」についてご紹介しましょう。

ホームセンターなどに行くと、フローリングリペアキッドを多く目にします。商品に記載された「簡単」「誰でもできる」といった文字情報や、職人が颯爽(さっそう)と施工する姿を見ていると、「自分にもできそう!」と錯覚しがちですが、説明書に書かれた通りに手順を踏んでみたものの、逆に傷が目立つ事態に陥ってしまい、結局のところプロに頼むハメに……という人も多いようです。

フローリングの木材は、木の種類は主なものだけでスギ、ウォールナット、メイプルの3種類、加工法の種類は合板の表面に天然木の薄板を貼りつけた「複合フローリング」、自然の無垢材をそのまま使う「無垢(単層)フローリング」など多種多彩です。さらには、板一枚一枚の木目や色合いのグラデーション、仕上げのツヤの度合いなどもさまざまで、これらすべての特徴を踏まえてリペアしなければいけません。

【フローリングについた傷の修復の流れ】

①木目までえぐれた深い傷は、まずカッターナイフなどを使ってささくれ部分を整える。

②ハンダごてで熱しながら、何色かのリペア用の樹脂を混ぜてフローリングに近い色をつくる。色をつくるときは、薄い色に濃い色を加えて少しずつ調整する。

③傷の凹みに、②でつくった樹脂を入れ込みてしっかりと乾かす。ごく小さな傷は綿棒や爪楊枝なども活用を。

④へら状の刃に柄をつけた工具スクレーパーで樹脂の表面をならしてフラットにし、さらにナイロンパッドで研磨し滑らかに。

⑤塗料で木の色の調整をし、周りの木目とつながるように筆で木目を描く。

⑥コーティングスプレーをかけ、塗料が落ちないようにするとともにツヤを調節。

以上がフローリングについた傷の補修時の基本的な流れですが、床暖房や傷の大きさ・深さ、人が頻繁に通る場所といった点も考慮して、修復の材料や方法を変える必要があります。特に無垢フローリングの表面に色づけ塗装やUVコーティングがされている場合は、施工時の業者独自の方法で塗装やコーティングされているものが多いので、塗料などの選択を誤ると変色などを起こす可能性があるので深い知識が必要とされます。

リペア職人は比較的新しいジャンルの職人

近年、少しずつながら認知度が高まってきたリペア職人ですが、日本での歴史はおよそ20年ほどと浅く、住宅や家具を修理しながら長く使う文化が古くから根づいている欧米から伝わったとされています。さらに、日本では比較的新しい分野であることや、年々市場が拡大していること、また、たとえ年齢を重ねて異業種からの転職であっても、努力次第では独立も夢ではないことなどの多様なチャンスがあることから、最近ではつとに注目の職種になっています。

では、古くからリペアの文化が根づいていた欧米諸国と日本の住宅事情をここからはみていきましょう。

国土交通省が設置した「中古住宅の流通促進・活用に関する研究会」によると、2013年の中古住宅の流通シェアは米国90.3%、英国85.8%、フランス64%に対し、日本は13.5%。欧米諸外国に比較すると、かなり低い水準になっていることがわかります。さらに、国土交通省による「住宅市場動向調査報告書(2019年度)」によれば、住宅を購入した際に新築(中古)にした理由のアンケート調査の第1位はそれぞれ以下のとおり。

●中古住宅にしなかった理由(注文住宅・分譲戸建住宅・分譲マンション取得世帯)第1位:新築のほうが気持ちよいから

●中古住宅にした理由(中古戸建住宅・中古マンション取得世帯)第1位:予算的にみて中古住宅が手頃だったから

中古住宅の流通シェアの日本の13.5%とアンケートの結果を合わせ見ると、日本人の多くが新築を好む「新築信仰」にあることがわかります。

日本の住宅は完成した瞬間から価値が下がり続ける

日本人の「新築信仰」にはさまざまな要因があるとされていますが、まずひとつめは日本の住宅寿命の短さにあるようです。欧米の住宅寿命が約100~120年であるのに対し、日本の住宅寿命は約20~30年が平均とされています。その大きな理由は、第二次大戦後の資材不足に加え、日本の建築技術が未熟であった点や、住宅不足ゆえの突貫工事から、低品質の住宅が多く建造されたことで「住宅の寿命は25年」が定説に……。そのため、今日においても世代ごとに建て替えが必要な住居が高い割合をしめています。

また、高度経済成長期を経て迎えたバブル絶頂期。このときも居住用に限らず投機目的での住宅購入者が増大しましたが、そうした世情を反映し、住宅メカーでは「質より量」を重視。例えば、断熱性・気密性・耐震性が不十分と言わざるを得ない住宅も多く建築され、戦後との状況とは違えども、こうした時代背景の中で「住宅の寿命は20~30年」が定説になってしまったのです。

加えて日本では、住宅は建った(完成した)その瞬間から資産価値が下がり続けてしまいます。新古に近い築浅であっても中古住宅ともなればその価値が下がることから、日本人の新築崇拝ともいうべき価値観が生まれていくことになります。対して、米国の映画などでよく見かける光景に、中古住宅に転居した際に住人自らが壁にペンキを塗ったり、ウッドデッキや屋根を修復したりと、時間と手間をかけてメンテナンス・リフォームを施していくシーンがあります。このように欧米では、築年数を重ねていても住宅の資産価値が下がるケースは少なく、なかには購入価格より売却価格がアップすることも珍しくないのです。

日本の新築信仰の転換期

長きにわたって定着してきた日本の「新築信仰」ですが、ここにきていくつかの問題点が浮き彫りになりつつあります。その大きな問題のひとつが「住宅過剰社会」です。

日本の人口は減少の一途をたどっていますが、需要の有無に関係なく新築物件が建ち続け、空き家問題が深刻化していることは周知の通り。総務省統計局が5年ごとに調査する「住宅・土地統計調査における住宅数概数集計」の結果によれば、2019年の全国の空き家率は13.6%の846万戸であり、この数値は過去最高となりました。

さらに野村総合研究所では、2033年には空き家率は30.2%の2146万6000戸にまでなると予測。この問題に歯止めをかけなければ、ゴーストタウンともなりかねない街が誕生しても不思議ではありまん。そこで政府は、2006年に「住生活基本法」を制定。中古住宅の流通率・耐久年数の向上などを目標に盛り込むことによって、住宅政策の中心を新築住宅から中古住宅へと変更した、戦後以来の画期的な方針転換をしました。

こうしたさまざまな働きかけによって、「つくっては壊す」「質より量」という日本独自の住宅事情が、いよいよ“終わり”に向かって動き出したのです。

100年住める住宅

これからは「長期優良住宅」や「ロングライフ住宅」といわれる、3世代にわたって住み続けられる住宅が主流になっていくといわれています。

【長期優良住宅】

長期優良住宅の普及をめざした「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」が2009年に施行。長期優良住宅の認定がスタートしました。

長期優良住宅とは、長期にわたり良好な状態で使用するための措置(以下の④つの項目)が、その構造および設備に講じられた優良な住宅のこと。長期優良住宅の建築および維持保全の計画を作成して所管行政庁に申請することで、基準に適合する場合には認定を受けることができます。長期優良住宅取得時の税金優遇・住宅ローン控除が用意されるなど、この流れを後押ししています。

①長期に使用するための構造および設備を有していること 

②居住環境等への配慮を行っていること 

③一定以上の住居面積を有していること

④維持保全の期間、方法を定めていること

2009年より新築を対象として始められた認定制度は、2016年からは既存住宅の増築・改築を対象とした認定も開始され、国土交通省の調べによれば2019年度末では累計100万戸以上が認定済み。この数字から日本人の住宅に対する意識変化が窺えます。

【ロングライフ住宅】

ロングライフ住宅とは特に明確な定義はないものの、少なくとも50年以上の長期にわたって住み続けられる住宅を指します。つまりは、耐久性・耐火性はもちろん、耐震性リフォームが可能である点を兼ね備えた住宅とされます。

少しリペア職人の話から逸れましたが、どんなに性能のよい住宅でも必ず経年劣化は生じますし、日常生活の中でできる傷もあります。したがって、住宅を長持ちさせるにはこまめなメンテナンスは必要不可欠。そうした意味からもリペア職人の活躍の場は、変化する日本の住宅事情の中で今後ますます広がっていく……といえるでしょう。

── 直せそうだけど、素人には直せないちょっとした傷をはじめ、大掛かりな修復が必要とされる傷みまで、修復前の傷や傷みがなかったかのように高いスキルでモノに命を吹き込み、再生するリペア職人。環境に寄り添うことが大前提となり、量より質、モノの多さが豊かさではない……という価値観の変化に伴い、これからの時代に必要不可欠な職人が、リペア職人といえるでしょう。その活躍に大きな期待が寄せられます。

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